42話 リリの成長
アルラウネを見つけてからは、俺とリリの訓練をしていた。
俺自身は相手の魔力を支配するのは、身体に入って来たのならば容易に支配する事が出来るようになった。
だが身体の外、ましてや触れていない魔力を乗っ取るのは全くと言っていい程出来なかった。
そしてリリは己の中に入って来た魔力を乗っ取る事は出来なくはないが、完全ではなく、誘惑に掛かるが身体を動かさずに抗う程度までに留まった。
なので1体だけのアルラウネであれば抵抗出来そうだが、複数いる場合は敢え無く撃沈しそうだと思われる。
だが1体ならば抗って身体を自由にさせないだけでも上出来だ。時間さえ作れれば聖水を飲ませたり、俺がリリの体に触れながらリリ以外の魔力を外へ追い出す手助けが出来たので、何とかなりそうだった。
「むぅぅ……むずかしいよ」
「まぁそんな簡単には行かないだろ。誘惑されずに抗うだけでも大したもんだよ」
「そうじゃぞ。本来は王国の騎士でもアルラウネの誘惑に抗うのは至難の業じゃからな」
「そうなの?」
「ああ、そうじゃ。昔、アルラウネの誘惑に掛かってしまい隊が半壊したことがあるからのう。あの時は仲間を殺すか迷ったわい」
「へぇ……結局どうしたんだ?」
「誘惑されたのは15人。2・3人は殺してしまったな」
「そうか……掛かったらどうなるんだ?」
「そういえばお主もリリもギリギリ踏み止まっておったか。誘惑された者はアルラウネの手足となり、邪魔な奴らを殺しにかかる。あとは喰われたり獲物を取ってこさせたりだな」
「なるほどね」
「あの植物のおんなのこ、こわいんだね」
あのアルラウネが使う魔法の誘惑はどうやったら出来るんだろうな?
きっと種族特性だろうから使えないかもしれないが、もし誰かを操れるのならやってみたいものだな。
何かと役に立ちそうだ。
「さて、もうそろそろ倒しちまうか?」
「そうじゃの。なら果実があれば取ってしまおう。それに根っこもな」
「霊薬とかいうのの材料になるの? ガラハドおじちゃん?」
「うむ。儂は出来んが、霊薬の材料になると聞いたことがあるわい。そもそもアルラウネ自体が数が少ないから、中々良い値で売れると思うぞ」
「高いのならしっかりと取っていくか。もしあの大群が狩れたら美味そうなんだがな」
俺は出来もしない事を口に出しながら道なき道をリリ達と歩いて行った。
ここ十数日は森を歩きながら次への階段を探しているが、全く見つかっていない。
常に襲ってくるブラッディウルフや隠れるのが上手いハインドベア、それに蜂蜜が旨いハニービーにクイーンビーを倒しながら進んでいった。
「このハチミツおいしいね!」
特にリリはガラハドが、蜂を全く倒さずに無傷で取って来た蜂蜜を
ただリリが気に入るのも納得で、この蜂蜜はかなり甘くて、甘味の少ないこの世界ではとても貴重な物だろう。
なのでパンなどに付けるととても美味しくて、いくらでも食べられてしまう。
俺は魔力に変えられるし、そもそもガラハドは食べ物を食べる事はない。
だがリリはこのまま食べ続けるとやがては太ってしまうのではと心配になる。
(まぁ今のリリはまだまだ痩せてるから大丈夫だろうがな)
だが少し心配してリリにストップを掛けると……
「リリ、もうたべちゃダメなの?」
と、上目遣いで見つめてくるものだから、ついつい多めに上げてしまっていた。
(いつの間に上目遣いのおねだりを覚えたんだ……リリ、おそろしい娘!)
そうして階段探しを続けながら食料や薬草などを採取して進んでいった。
だが未だに階段は見つけられずにいた。
「……中々見つからないな」
「そうじゃのう。もしやと思ったが、もしかするかもの」
「……あそこ行くの?」
俺達は長時間かけてこの階層を隈なく探索していき、迷宮の壁からあのアルラウネの大群をぐるりと周りながら調べていったのだが、宝箱はおろか階段すら見つける事が出来なかった。
時間はあるからともう一周するかと話し合い、また同じような時間を掛けて探索し尽くしたが、それでも宝箱1個だけ見つける事が出来ただけで、下への階段は見つからない。
俺達はこれからどうするかを話し合った。
「1か月くらいこの階層を探索してるのに、宝箱一個か」
「じゃのう。やはりあそこにあるんじゃろうか」
「それしかないだろう」
「でも宝箱に良い物入っててよかったね!」
階段は見つからなかったが、リリの言う通り宝箱からは良い物が手に入った。
「む~ん! アイススフィア!!」
リリが宝箱から手に入った物で遊んでいた。
それは魔法の杖だ。
それも上級者が使うような代物で「生命樹の小枝」という名前の杖で、杖に流した魔力を大幅に増大させる効果があり、リリの魔力でも1段階上の魔法を使う事が出来る。
なのでリリは魔力が無くなるまで杖を持ち、魔法を放ち遊んでいる事が増えた。
まぁこの階層なら俺とガラハドがリリの周りに居れば何事にも対処出来るので、リリの魔法の訓練にもなるだろうと、好きに遊ばせている。
宝箱から杖が出てから1週間以上は経っているので、リリの魔法の腕もそこそこ上がっている。
今ではブラッディウルフが複数いても、リリの魔力が残っていれば一人で片付けられる程にまでになっていた。
たった1週間ほどだがリリのレベルは大幅に上がっており、体力も魔力も増えていた。
その為にこの階層を歩く速度も上がり、前回よりも隈なく探せたがそれでも階段を見付けられなかった。
これはもう確定といっていいだろう。
「仕方ない……どうにかしてあそこを突破するしかないな」
「うむぅ……さすがにあそこは厳しいだろうのう」
「だなぁ。だけどあそこ位しかもう探してない場所は無いぞ?」
「あそこいきたくない……」
俺達はどうにかこの階層の中心にある、遠目からじゃ木々が生い茂っている様にしか見えない、アルラウネの大群をどうやって突破しようかと考えていた。
しかしあの数万は居そうなアルラウネの大群はどうしようもない。
こちらに向かって来てくれるのであればいいのだが、遠距離からの攻撃に加え幻覚の香りもあるので、俺とガラハドは大丈夫としてもリリはあの中に置くことが出来ない。
なので実質、俺とガラハドの二人でどうにかするしかない。
しかしさすがに数万のアルラウネから攻撃を一気に受ける事は無くても、数十から数百のアルラウネからは攻撃を受けるだろう。
そうなると怪力を誇るガラハドでも蔓で絡め捕られるだろうし、俺も同様だ。
剣で斬っていっても数千にも及ぶ蔓を対処は出来ないだろう。
そうなるとどうしようもない。
さて、どうするか……
「良い手は浮かばないな」
「そうじゃな。ここは少しづつ倒していく位しか出来なさそうじゃのう」
「リリが遠くから魔法でやってあげる!」
俺はリリの頭を撫でながら、それしかないかと思いながら話を詰める事にした。
それからちょくちょくアルラウネの大群に近付き、何の魔法が効果的かを調べながら、リリの魔力をもう少し上げる為にレベル上げをしてから、決行の日を決める事にした。
そうして準備が出来たので、いよいよアルラウネの大群をどうにかする日が来た。
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