45話 追及
俺達はある程度アルラウネを倒し、それらを調べた。
その結果、分かった事がある。
それはこの見渡す限りに見えるアルラウネは全て幻惑ではないかという結論に至った。
それならと一つ、身を投げ出して試す事にした。
それは……
「心の準備はいいか?」
「心はもう、この体になった時からとうに出来とるわい」
「さすが騎士団長だった男だな。なら行くぞ」
「うむ。万が一の時は頼むぞい」
「ああ、任せろ」
俺達は命を懸けてあのアルラウネの大群に身を投じる事にした。
それも攻撃もせずに。
これは幻惑だと判断したので、そういう結論に至った。
あのアルラウネが幻惑であれば攻撃を受けても大丈夫なはずだ。
今までに攻撃を受けてダメージを受けた事があるのは俺だけだ。
それも結界が切れて種の弾丸を受けた時だけ。魔法も撃って来るが、それも結界で防いでダメージは受けていなかった。
ガラハドに至っては種を受けてもダメージは無く、蔓を受けても身動きが取れなくなるだけでダメージはなかった。
魔法もアルラウネの弱い魔法だとガラハドの魔法耐性のある鎧には効果が無くダメージにならないようだ。
なので幻惑であろうと分かったのであれば、誰かが攻撃をせずに攻撃を受け止めてみようとなったのである。
だからと言って、もし幻惑でなかったならとても危険なので、何があっても助けられるように、無防備で攻撃を受けるのはタフなガラハドで、万が一の時は俺が離れた所から助けに入るといった形になった。
ガラハドは遠距離攻撃を持たないので、俺が受け止める役をした場合、もしそれが幻惑じゃなければ、数千本の蔓に捕まってしまっている事になる。
そうなるとガラハドは近付いてその数千本の蔓をぶった切らないと駄目だ。
それはガラハド自身にも数千本の蔓が向かう事にもなる。
それだと俺だけじゃなく、ガラハドも捕らわれて身動きできずに喰われるという事になりかねない。
なので、もし幻惑じゃなくてガラハドが捕らわれても、俺が離れた所で遠距離からガラハドを助けてられるようにした。
そしてガラハドの「覚悟はとうに出来ている」という言葉通りに、ガラハドは堂々と大剣も構える事もなく歩んでいく。
すると早速アルラウネが攻撃を仕掛けて来た。
蔓と種、そして僅かな魔法を撃って来ているのだが、ガラハドはそれを気にせず速度を緩めずに歩き続けて行く。
そうしてメテオの攻撃範囲の及んでいない所まで来ると、数千というアルラウネがおり、それらが一斉にガラハド目掛けて攻撃し出した。
それをガラハドは無抵抗に受け続ける。
まずは種の弾丸が数万と迫って来た。
その中を風でも吹いているかの如く歩いて行くガラハド。
さらに魔法まで飛んでくるが、それすらも無抵抗に受けるが、やはり涼しい顔で歩いて行く。
そしてその攻撃が全く効果の無い中、ガラハドがとうとう蔓が及ぶ範囲に入っていった。
すると数千という数の蔓が一斉にガラハド目掛け襲い掛かり、さすがのガラハドもその蔓には絡め捕られてしまう。
遠くから離れて近付く俺の目にはそうとしか見えなかった。
だが一瞬だがガラハドの振り返る顔が見えた気がした。
俺は全神経を注いでいたからか、その一瞬の違和感を逃さなかった。
今はもうガラハドは蔓に全身を覆われており姿すら見えないのに、なぜか大剣の煌めきが見える時がある。
俺はますますガラハドの周りを集中しながら見ていった。
一方、ガラハドは覚悟を決め、アルラウネの大群に向かって無防備に歩いて行った。
「この数千の大群に無防備で行くのは、さすがに怖い物があるのう」
この大群の中、何もせずに歩いて行くのは普通なら出来ない。
だが頭がおかしいガラハドは躊躇もせずに向かっている。
それは王国騎士団長にまで登り付ける程の人間だったからか、それとも一度は命を失ったものから来る行動力なのか。
それはガラハド本人ですら分からないであろうが、すでに数百から数千の種の攻撃を浮けているにもかかわらず、涼しい顔をして攻撃の嵐の中を歩いて行く。
「確かに攻撃を受けておるな。じゃがダメージは無さそうじゃ。ならこのまま進もうかのう」
それからも歩き続けるガラハドは、とうとう数千のアルラウネが待ち構える場所まで来た。
今までの経験からそろそろ攻撃が来そうだという時に、予想通り種と魔法が飛んできた。
「この決まった範囲に入った瞬間に攻撃が来るのも怪しいのう」
一度疑うと全てが怪しく見えてしまうのは、人間の性なのか、それとも知能が発達した人間という生き物のみなのかは不明だ。
だがその疑いが本質を見抜くこともある。
「おお、数千の蔓が来おった。こりゃある意味、壮観じゃのう」
ガラハドが悠然と、湧いてくる恐怖心を押し殺しながらも、堂々と歩みを続ける。
目の前に数千の蔓が迫り、そして腕が脚が、そして身体が蔓に絡め捕られギシギシと締めあげられようとしているのにもかかわらず、ガラハドの心は落ち着いていた。いや、驚異の自制心で冷静さを保っていた。
そして重い重い体がついには宙に浮かび上げられながら締め付けられる感覚に陥る。
だがガラハドは冷静にその感覚と目の前の景色を、遠い俯瞰から見ていた。
それはガラハドが前世で、王国騎士団長にまで登り詰めた経験が活きているのであろう。
目の前の事に集中しながらも遠くから自分を見下ろす。
それは相反するようで、しかし両立出来るものである。
それを命が掛かりながらそんな事が出来る者は、世界広しといえど両の手で足りる程の人間しかいないであろう。
そしてその一人が一度は死に、デュラハンというアンデッドとして生まれ変わったガラハド、その人であった。
そんな稀有な能力を持っているガラハドだからこそ、驚異の精神力で己を律し、そして目の前と遠くからの感覚を共有する事で、今現在の自分の状況を理解する事が出来た。
「ふむ……やはりこの蔓は幻覚じゃな」
自身の目の前の景色、そして感覚は確かに蔓に埋め尽くされ宙に上げられている。
だが俯瞰してみた時の感覚は、自分は一切、宙には浮いていないのだ。
それは自分の体が浮いていれば俯瞰した時の視線も多少は変わる。
だが今はどうであろうか。
その視線は歩いている時となんら変わらなかった。
そこでガラハドは蔓で身動きが取れないであろう身体、しいては兜を後ろに向けてみた。
己の感覚では後ろは向けてはいない。
それはそうだ。数千の蔓に絡め捕られているのだから。
しかし俯瞰から見ている自分は、確かに振り向いたという感覚も持っていた。
それはほんの僅かな違和感。
だがその僅かな違和感も見逃さないのが王国騎士団長という者だ。
「……なるほどのう。こりゃたまげた」
たったそれだけでこの大掛かりの仕掛けを見抜いたガラハドは、今度はまた堂々と元来た道を戻っていった。
それは数千本の蔓に絡め捕られて動けない筈の身体を、確かにゆっくりと動かしながら……
あれから暫く経つが、ガラハドが無数の蔓で宙に絡め上げられたまま、何も変化が起きていない。
俺はどうするか迷っていた。
だがガラハドからの助けの声がないので、俺はヤキモキしながらガラハドの声を待っていた。
しかし不思議な事にガラハドからは悲鳴も助けの声もないまま時間が過ぎていった。
その景色に俺は不思議に思いながらも、やはりそうなんじゃないかと思っていた。
そして目の前の景色は、あり得ない光景を映し出す事となった。
「なんだ……? おいおい、ガラハドが二人になったのか?」
俺の目には蔓で宙に吊らされたガラハド。
そしてその下には悠然と歩いてくるガラハド。
その景色に俺は沈黙してしまった。
下を歩いているガラハドは何も見えていないかの如く歩いているように見える。
しかし上には宙に上げられたガラハドもまた身動き一つしない。
だがその景色が徐々に変わって来た。
周囲にはもう音はしていない。
しかしその沈黙を破った物が居た。
「……む? スタークか?」
それは俺の目の前まで来て俺にぶつかったガラハドの声だった。
「ガラハドか? 大丈夫なのか?」
「うむ。何ともないわい。目の前は蔓で何も見えておらぬが、これも幻覚なのじゃろうな」
「……やっぱり幻覚か。強力すぎないかこれ?」
「うむ。ここまで強力な幻覚は見た事も聞いたこともない。……神話以外はな」
……神話が出てくるのか。
この強力な幻覚の凄さが分かる言葉だな。
ただまぁ目の前のガラハドがそれを物語っている。
実際に歩いて来ているのにガラハドは目の前が蔓で覆われて見えていないらしい。
だが身体に異常はないようだ。
「身体に異常はないならよかった。ところで何が原因だと思う?」
「分からん。だがこの幻覚を抜けた先に階段があるであろうの」
「そうか。ならこの幻覚をどうにかする手段を見つけないとな」
「それならなんとかなるじゃろう」
そう言ってガラハドが次の言葉を言って来た。
「スタークよ。儂をぶん殴れ」
その言葉を聞き、俺は全力でガラハドをぶん殴ってやった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます