22話 ギルドマスター

 買取カウンターに向かうとこちらを睨んでいる厳ついおっさん。


 それはもう強者の風格を隠さずにこちらを睨んでいる筋肉質のおっさん。

 顔や腕には沢山の傷があり、見せびらかすようだ。なんでこんなのがここにと思うが黙っておく。 面倒ごとは勘弁だ。


「おう、お前はなんて名だ?」

「いきなりだな。お前こそなんだ?」


 唐突な言葉に喧嘩を買いそうな言葉を言ってしまったが、相手は特に気にした様子はなかった。


「俺はガルフだ。で?お前は?」

「俺はスタークだ」

「スタークか……お前はリリのなんだ?」

「ん? リリ? …あんたはリリが好きなのか?」

「馬鹿野郎! 好きなんじゃねぇ!」

「……ギルド長…わたしの事嫌いなんですか…?」

「あっ? いやっ!? …好きに決まってるじゃねぇか!」

「えへへ……よかった」


 リリの言葉に慌てふためく厳ついおっさん。

 てかこいつギルド長なのかよ。なんでまたこんな所に……


「おいおっさん。いいから買い取ってくれ」

「おっさん言うな! おい、まだ質問に答えてねぇぞ。お前のせいでリリに嫌われる所だっただろ!」

「知らんがな。リリとは森であっただけだ」

「ゴブリンに襲われてる所をお兄ちゃんに助けて貰ったの!」

「なに!? ゴブリンにだと!? ……ゴブリンを根絶やしにしねぇとな」


 なんか不穏な事を言っているが無視して進めるか。


「いいから買い取れ。駄目なら他の奴に変われ」

「分かった分かった。他の奴は今いねぇんだよ。売りたい奴出して見ろ」


 このギルドは人手不足なのか?ギルド長が直々に買い取るしてるとかどうなんだよ、と思ったが言えば言う程面倒ごとの臭いしかしないので、止めといた。


 それから俺は売れそうな物を片っ端から出していく。

 それらはついにはカウンターに乗らなくなり、おっさんが怒鳴り散らす。


「おいおいおい! どんだけあるんだよ!! もう出すな! こっちの倉庫へ来い!」


 そう言って俺が出した物を持って奥に引っ込んでいく。

 仕方なく俺とリリも後を付いて行く。


「よし、ここに全部出せ!」

「なんで命令形なんだよ」

「いいから出せ。まだまだあるんだろ?」


 有無を言わせないように命令するおっさんだが、まだまだあるから本当に全部出してやろうと思い、魔法袋を空にするほど出してやった。


 そうしたらおっさんだけじゃなくリリもポカンと口を開けており、中々面白い光景が見れたものだと上機嫌になる。


「おい……おいおい、どんだけあるんだよ!」

「分からん。数か月分だからな」

「こんだけ入る魔法袋を持ってるとか、お前だれだよ?」

「スタークだと名乗っただろうが」

「そういう意味じゃねぇよ…」


 誰だと言われても前世の記憶持ちのアンデッドとしか応えられないので誤魔化しておく。

 それはそうとこれらはいくらになるのか聞いてみる。


「ところでこれ全部売れるのか?」

「ああ……全部買い取る。てかお前とんでもない物ばっかだな!」


 何がとんでもないか分からない顔をしてると、魔物は熊のオウルベアは上位の魔物だし、豹のデッドパンサーは上位冒険者でも手こずる程の力があるそうで、他にも魔力回復薬の材料の魔力草、回復薬の材料の薬草が数種類。

 中でも蘇生草と呼ばれるエリクサーの材料にもなる物まであるとか。


 (適当に魔力を含んでいる草を取って来ただけなんだけどな)


 中々に運が良かったのだろう。そう思い買取金額を聞くと、中々の値段になった。


「魔物に薬草にと全部で白金貨25枚に大金貨8枚、銀貨5枚でどうだ?」

「中々だな。それでいい」


 俺には価値がよく分からんからそれでいいと言っておく。¥にしてみると全部で2千5百8十万5百円になった。

 これなら数年くらいはのんびりしても使い切れないくらいだろう。まぁそんなことはしないが。

 とりあえず現金で貰えるそうなので貰っておく。


「目が赤いからどんな奴かと思えば、相当な実力者だな。魔族の類か?」


 俺はフードを深めに被っていたが目ざとくも目の色を当ててきた。

 勝手に魔族と勘違いしているから、「そのようなものだ」と適当に言っておいた。


 それからはギルドカードを受け取り、ギルド長の一声でFランクからの始まりだったが、Eランクからとなった。

 本当はCランクからと言われて、面倒だからそれを頑なに断るという一悶着があったが、なんとかEランクからとなった。

それとリリが言うには、本来は能力値を測定するというのもあったらしいが、押し問答をしている時に有耶無耶になってやる事はなかった。 正直助かったかもしれない。


 俺は正直冒険者共と何かあるかと思ってたが、まさかギルドマスターと言い争うとはな。

 これからはなるべくここには近寄らないでおこう。


 こうして無事冒険者ギルドでの用事が終わった俺は、リリに家庭教師を頼むべく金貨2枚を渡しておいた。

 最初はまたもや抵抗していたが、無理やり握らせて今日は1か月泊まれる宿屋を探すために街をうろつく事にした。


 一応ギルド長のおすすめの宿を聞いたが、とりあえずは自分の足で探そうと思う。

 外に出るとリリと別れると思ったが、どうやら付いてくるようで一緒に探すことになった。


 とりあえず屋台に寄り、リリのおすすめを食べながら食事を済ませ、宿を探すが、結局はギルド長が言っていた宿に泊まる事になり、そこでリリとは別れた。


 俺はデイトの宿という宿屋に入っていった。


「いらっしゃい。泊りかい?」

「ああ、1か月頼む」

「はいよ、1か月なら少しおまけして金貨10枚だね。食事は朝夕の2食。居なかったら無いからね」

「それでいい、よろしくな」


 俺は1か月分の金貨10枚を支払い、食事は済ませたといい部屋に入る事にした。

 もう少し早いが夕食を済ませたので、部屋でこれからの予定を考える。

 部屋は5畳くらいだろうか? ベッドと少しだけ入る物が入る棚があるだけで、明かりの類はない。 まぁ俺は明かりが無くても問題が無いからいいけど、本を読む時のために明かりを買うか。


 さて、今日はもうやる事がないが、明日からは文字と言葉の勉強、そしてこの世界を調べていこうと思う。

 果たして俺がこの世界で無事に生き残れるか確認だ。

 そう思いながら俺はベッドで横たわり意識が深く落ちるのを感じた。

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