21話 初めての街へ
リリと森を歩いていると街道らしき場所に出てきた。その街道は思ったより綺麗に整備されており、地面は土だが凹凸は無く、真っ平になっている。これならこの世界が馬車での移動だとしても大変な思いはしなそうだと思った。
「リリ。この道はなんでこんなに綺麗なんだ?」
「確か土の魔法使いさんが道を綺麗にして、強化の魔法を使っているので、綺麗なままという事でした」
「なるほどね。理に適ってるな」
確かに土魔法で平らにしてそれを補強すればそうそうには壊れたりはしないだろう。
これは前世よりも進んでいるかもしれない。なにせコストは魔力のみだからな。時間さえあればいくらでも出来るのだから、土魔法はインフラの味方だな。土魔法が使えれば食いっぱぐれないだろうな。
俺は火と水しか使えないから駄目だが、いずれは寝床を外で作ったりするだろうから、使えるようになりたいな。
まずは文字と言葉を覚え、この世界の事を調べると同時に魔法も覚えられたら覚えようと決めた。
そして最初の関門をリリに頼んでみようと思う。
「リリ。俺にこの国の言葉と文字を教えてくれないか?」
「え? 言葉? もう話してますよね? 文字は多少なら…」
「実は思念を飛ばして意思を伝えているんだ。だから俺はこの国の言葉を話せない」
「えっ!? …そうなんですか? そんな事出来るものなのかな?」
「出来るんだから仕方ないな」
思念で話すのはどうやら一般的じゃないらしい。まぁそうだろうな、俺もあり得ないと思う。
そもそもなぜ思念で伝えると意志が伝わるのか分からない。本当に魔法というのは面白いものだ。
「分かりました。私はお仕事しないと駄目なので空いた時間で教えます」
「いや、これは依頼としてリリに対価を支払おう。1日いくらだ?」
「いえいえいえ! 命まで救ってくれたのにお金なんて!」
「あんなのは大したことじゃない。それよりも俺が文字や言葉を覚える方が大事だ」
「そんな! 悪いです!」
リリは拒否していたが俺が強引に押す事で渋々了承した。
それにあれは助けたというよりはゴブリンが醜かったから殺しただけだしな。
とりあえずは俺は対価を支払い文字と言葉を教えて貰う事になった。期限は一か月。そのくらいあれば大体は覚えられるだろう。
その間はこの世界の事を調べる時間にしようと思う。
お金がそこそこ掛かるだろうが、ダンジョンの物とか森で採取した物を売ればなんとかなりそうだと思うので、足りなければ狩りにでも出ればいい。
そう思い街に付いたらまずは1か月住める場所を見つけないとな。
それからしばらく歩いてると遠くに街が見えてきた。
リリに確認した所、この世界はプランテルというらしい。
それから今いるこの大陸はユーガレット大陸という名前で、今から行く街はユルブローというようだ。
ユルブローは街としては中規模程度で、数百人から千人と言われており、まずまずの栄え具合らしい。
まぁ前世と比べちゃ駄目だろうが、この世界を知るには一般的な街らしいから、いい基準になりそうだな。
そんな事を思ってると門の前まで来た。そこは人が数名並んでいたが、時間は掛からずに入れそうだ。
そうして並んでると順番が来て、門番がにこやかに笑みを向けてきた。
「おかえりリリちゃん。こちらは?」
「ただいまです。こちらは私の命を救って貰ったスタークさんです」
「命? リリちゃん、何か危険な目にあったのかい?」
「はい、ゴブリン襲われちゃいました…」
「そっか……無事でよかったよ。それでこちらの方に助けて貰ったと?」
「はい! 一瞬でした!何が起きたのか分からないくらいでした!」
「へぇ~、そうなると相当強いのかな? すいません、身分証はありますか?」
リリと話し終えたのか、ようやく俺に話しかけてきた。だが俺にはそんな物はないので正直に言う。
「いや、そういうのは持ってないな。この街で作れるのか?」
「無いのでしたら入場料が銀貨1枚掛かりますがよろしいですか?」
「ああ、これでいいか?」
俺は最初に殺した3人組の冒険者の金を見つけ、多分、銅貨、銀貨、金貨であろう物を把握していた。
そしてそれは正解だったようだ。
「はい、大丈夫です。身分証がないならどこかのギルドで作るか、街の役所があるのでそこで発行して貰った方がいいですね。おすすめは冒険者ギルドですよ。街の入場料を払ったというこの発行書を持っていけば1回だけ無料で作れます」
「そうか、なら冒険者ギルドにでも行こうかね」
「冒険者ギルドならわたしがこれから行くから、一緒に行こう!」
リリが薬草の採取をして来たから、このまま冒険者ギルドに行くようだ。なら一緒に連れていって貰う事にしよう。
「では、ようこそユルブローへ!」
そういって門番は俺たちを通してくれた。
「なぁリリ。賞罰とかを調べるのはないのか?」
「賞罰をどうやって調べるの?」
「だよな」
よく聞く水晶とかであるようだが、あんなもんどうやって調べてるんだか不思議だ。
まぁそういうのが無いとは言えないが、少なくとも一般的ではないんだろうな。
無いのなら無い方がいいから良かったと少し安堵した。
だが冒険者ギルドではもしかしたら能力を調べたりとか種族をなんて事もあるから、そうなると身分証は作れないだろうから、お金を貯める事にするか。
毎回毎回違う街に行く度に金が飛ぶのは勘弁願いたいからな。
ちなみにこの国での貨幣価値は、
銭貨 1枚 10円
銅貨 1枚 100円
銀貨 1枚 1,000円
金貨 1枚 10,000円
大金貨 1枚 100,000円
白金貨 1枚 1,000,000円
大白金貨1枚 10,000,000円
このような価値になっているらしい。
それに3人家族だと1か月金貨5枚もあれば生活できるようだ。まぁ贅沢は出来ないようだが暮らすだけならという話だな。
リリは母親と二人暮らしで金貨1枚に満たないで凌いでいるらしい。なので贅沢が全くできず、着ている白いワンピースもずっと大事にして着ているらしい。
そういう話であれば、俺が冒険者ギルドに行って売った物が高価になったなら、金貨2枚くらいは上げてもいいかもな。
そんな事を思いながらそこそこ人がいる通りを歩いて行き、少し大きめの建物までやってきた。
「ここだよ! ここが冒険者ギルドなの。道は覚えられた?」
「ああ、覚えたよ。ありがとな」
そうお礼を言いながらリリの頭を撫でていく。少しくすぐったそうにしているが嫌ではないようだ。
それじゃ早速中へ入っていこう。
中は飲み屋みたいにカウンターやテーブルがあり、飲み物や食べ物などで食事をしている奴らがいた。
男女比は7:3で男が多いだろうか。年齢層は20代が多そうだ。だが10代もそこそこいる。 だがリリと同じか下はいないようだ。
服装は冒険者らしく様々な装備をしている。殺した3人組の冒険者のような服装が多いな。
鎧にローブに斥候なんかは動きやすい服装をしているな。
俺とリリが入った所で冒険者達はリリを見て少し微笑むように雰囲気が柔らかくなった。
だが俺と手を繋いでいるのを見て一気に剣吞な雰囲気になる。
それを見てリリはこいつらに大切にされてるんだと感じた。
ところで…
「リリは何歳なんだ?」
「ん? 11歳だよ」
なるほど。ここじゃ11歳でも働くのか。大変だななんて思いながらカウンターへ足を運ぶ。
そこには受付嬢がおり青い髪の可愛らしいお嬢さんがいた。どこかの貴族っぽい雰囲気を持っており、そこらの冒険者みたいな感じとは一線を画す雰囲気の持ち主だ。
「あらリリちゃん、おかえりなさい。薬草は取れた?」
「マリネさん、ただいま!ちゃんと取って来れましたよ」
「ならよかった。こちらの方は?」
「俺はスタークだ。ここで魔物や野草とかは売れるか?」
「ええ、大丈夫ですよ。では買取はあちらのカウンターでお願いします」
「ああ、それと身分証を作りたいんだが、いいか?」
「では冒険者ギルドに登録でよろしいですか?」
「ああ、出来れば説明を」
「はい、畏まりました」
まずは冒険者ギルドのギルドカードだが、入場料を払っているから今回は無料だそうだ。 これは門番が言っていた事と同じだな。
次が冒険者ギルドに所属する事になるようで、規定はDランク以上になると、街の危機だったり何かの際に緊急招集に応じる義務が出るとか。
街の壊滅の危機には登録したてのFランクとかまで招集されるが、そんなことは今まで1度もないそうだ。
ランクはFからAまであり、Sランクはこの大陸でも4・5人しかいない程の狭き門のようだ。
それらは人外と呼ばれ、皆が化け物のような実力を持っているとか。
中には人間じゃなくエルフや魔族といった奴らもいるらしい。
その話を聞いて俺は安堵していた。魔族がどういうのか見たことないが、俺みたいなアンデッドでもSランクにまでなれば討伐はされなさそうだと思う。
ならそこまで登るのも悪くないかと考えた。
それから依頼はどのランクでも数か月は受けなくてもいいが、場合によってはランクが下がる事もあるとか。
なら上がりすぎて不都合が起きたら下げればいいかと考える。
あとはEランクになるまでは、討伐系の依頼は受けられず、薬草などの採取か街の簡単な依頼しか受けられないらしい。
いわゆる便利屋だ。まぁ戦える能力が無けりゃそうなるのは仕方ないな。
ちなみにリリはEランクで討伐の依頼を受けられるがギルドに止められているし、何より本人も戦えないと自覚している事から、採取の依頼だったり、あとは他の冒険者の荷物持ちをしているとのこと。
そんなリリは俺が話を聞いてる最中に買取のカウンターへ行っていて、今戻ってきた。
「色々分かった。もしギルドを辞めたい場合はどうするんだ?」
「また冒険者ギルドに来て辞める手続きをすればいいだけですよ。あまり高ランクじゃないならすぐ辞められます。でもBランクとかまで行ってたなら引き止められますね」
「了解。色々ありがとう」
そう受付嬢に礼を言い、今度はリリと一緒に買取カウンターへ向かう。
その時でもこの街に入ってきたようにリリは俺の手を取って歩いて行く。
どうやら大分気に入られたようだな。
まぁ手を取られた時は内心でドキリとしたがな。
なぜかというと、俺の身体は生きていない。つまり心臓の鼓動がないので、血液も動きづらい。 それ故に体温が冷たいのだ。
なので手に触れられた時に冷たいと思われ、そこからアンデッドだとバレやしないかと思っていたが、特に気にした様子も無かったので安心した。
正直この世界に生まれてから、一番心臓が飛び跳ねた瞬間だったな。動いてないけど。
そうしてリリに連れられて買取カウンターに着いたらそこには厳ついおっさんがいた。
こちらをもの凄い睨んでるのはなぜなんだ?もしやアンデッドとバレたか?
焦る内心を隠しながら俺はカウンターに近づいていく。
さぁ鬼が出るか蛇が出るか……
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