第二章 外の世界

20話 少女との出会い

 洞窟から出て森の中を彷徨っていると、方向も分からずに歩き回る羽目になった。

 森ではいくつかの動物に出会った。 大きい物小さい物、すぐ逃げる物に襲い掛かってくる物。 俺はこの世界で初めての森をゆっくり見て回りながら、気になる方向へ向かいながら森から出る事にしていた。


 動物は基本、大型種以外は襲ってはこない。それに大型種でも音に驚きすぐ逃げてしまう物も多くいた。

 だが魔物は基本的に知能が低いものは襲い掛かってくる。ゴブリンにコボルドはもちろんだが、自分の強さに自信のある捕食者などの強者は、獲物を見つけ次第ゆっくり近寄ってきて襲い掛かってくる。


 動物と魔物の違いは、身体に魔力を保っているかどうか。たまに魔石がない奴でも身体には少なからず魔力があり襲い掛かってくるので、魔物だろうと思われる。


 俺は魔力が見えるから草木にも注目していた。特に草には魔力が豊富に溜まっている物があり、いざという時はそこから魔力を吸収出来ると思い、見つけ次第取るようにしている。


 そして襲ってきた熊や猪の大型種の動物や魔物なんかは返り討ちにして、食べたり魔法袋に詰め込んだ。


 そうして歩き続ける事、数日は経っただろうか。森が深い事が分かっただけだ。まさかここまで深くて街道なんかも見つからないとは思わなかった。


 外の世界の魔物はダンジョンとそこまで強さは変わらなかった。

 ゴブリンやコボルドなんかは同じような強さだ。ただ2~3匹行動が多かった。

 だが一番厄介だったのは蛇や蜘蛛の魔物だ。こいつらは草や木の葉なんかに隠れ、一気に襲ってくる。 魔物であれば魔力があるので気付けるが、魔力が無いものだと気付きづらく、襲い掛かってくる奴らには苦労した。 なので森の中では開けた場所以外では常に気を張っていなければいけないので、正直ダンジョンの方が楽だと感じるくらいだ。

 ダンジョンならば固定の種族だけしか出てこないからな。


「ああ……オークがいたエリアに戻りてぇ」


 ついこのように考えてしまっても仕方のない事だろう。


 それにこの森にはオウルベアやデッドパンサーとかいう大型の魔物もいて、そこそこ強く速い奴らもいた。 そいつらも返り討ちにしながら森の散策を続ける。


 そうして動物や魔物、魔力の宿った草などを魔法袋がパンパンになるまで詰め込んで歩いていると、遠くの方で何やら音が聞こえた。

 それは微かな音だったが、妙に気になりその場所へ向かう事にした。


「…っ…ぁ……ぃ……っ……」


 近づくと音が段々とハッキリしてきて、誰かの声だという事が分かった。


「ぁ……ゃ……けて……ぃや……だれ……たす…」


 声を聴く限り誰かが襲われているのかもしれない。俺は特に助ける気はないが見てみる事にする。


 (こういう場合は大抵厄介ごとに巻き込まれるからな。見るだけにしよう)


 そう思いながら近づくと、どうやら小さな少女がゴブリンの群れに襲われているようだ。

 その少女は泣きながら全身を震わせている。

 ゴブリンはというと、緑の身体に何もつけず、だが手にボロいが立派な剣を持っていた。 それは3匹おり、少女を囲むようにしていた。


(チッ…気分が悪いな)


 何が悪いかというと裸のために、そして女を前にしているからか下半身を立てているのが気に食わない。なんとまあ醜いものか…


 (はぁ…見てるだけだったがあの緑野郎は腹立つな…)


 少女が襲われてるのはどうでもいいが、このまま帰っては俺の気が収まらない。

 そう思い指先から少量の血を出し、3本のナイフの形を作る。

 そしてそれを3匹のゴブリンに軽く投げ付けた。


「グギャッギィッ…」 「ギギィっ…」 「ギャゲッ!グガァッ…」


 三者三様に言葉を発しながら倒れるのを見守った。少量の血を使うが、これは魔力ですぐに補える。 なんとか遠距離攻撃、しかも魔力をほぼ使うことなく、そして気付かれずにというのを考えた結果、このような技を思いついた。

 他の魔法だと敏感な動物には気付かれるし、火なんかは森じゃ使えなく使い勝手が悪い。

 だが俺の血を魔力で少し作ると、小さなナイフの形を作っても魔力が無くなると元の血液に戻り、その量も2~3滴ほどに戻る。その量でナイフが作れるのだ。これは使わない手はない。


 そうして俺はゴブリンが死んだのを確認したらすぐにその場を後にした。

 俺は少女に関わらないようにさっさと離れていく。

 だが……


「まっ待ってください! そこの方! まってー!」


 そう言いながら俺を視認しながら駆けよって来た。


 (あれ? 気配は消していたはずだけどな? よく見つけられたな?)


 俺は少し驚きながらもやはり一番危険なのは人間だという認識を再確認する事にした。

 最初に襲った冒険者はそこまで強くはないが、次の5人組の冒険者は今でも殺すのにはまだ実力が足りないだろうし、何よりこんな小さい少女にすら見つかるとは、俺もまだまだなんだと少しだけ落ち込んだ。


「はぁ…はぁ…まっまってーー!」


 いい加減諦めてくれないかな…なんて思いながら歩く速度は緩めない。

 まぁ逃げたらいいんだけど、実は街を知らない俺からしたらこの子だけが頼りなのだ。

 だが簡単に見つかってしまったから、俺のちっぽけなプライドが止まるのを許さないのだ。

 ほんと小さい男だ俺は…


「つっ…つかまえました! 待ってください!!」


 少女がようやく俺に追いつき、息を荒げながらそう伝えてきた。


「なんだ? どうした?」

「どうしたじゃないです! あのっ…助けてくれてありがとうございました!」


 そう言って思い切り頭を下げる少女。


「俺じゃないと思うが」

「いえ! あなたです! あなた以外いませんでした!」

「なぜ俺以外いないと分かる?」

「カンです!」

「カンって…」


 どうやらこの少女はカンで俺だと思ったらしい。

 なんでも直感というスキルがあるらしく、その直感に従ったとか。

 これはもしかして俺の天敵のスキルかもしれないと、俺もスキルじゃない直感が働いた。

 まぁこの子くらいならどうとでもなるからいいが、強い奴が持っていたら厄介な事この上ないと感じる。

 そこで俺はそのスキルは一般的なのか聞いてみた。


「その直感ってやつは誰でも持ってるのか?」

「いえ、ここら辺では私以外は持ってる人を知りません」


 という返答にそこそこ希少だと分かり安堵した。


「ところでなんで逃げたんですか?」

「逃げてない」

「逃げてました!」

「逃げてない」

「にげっ……もういいです。なんで止まってくれなかったんですか?」

「なんとなくだ」

「はぁ……でも普通、助けてくれたならもう少し助けた相手に優しくしませんか?」

「面倒な予感がしたんでな。お前はどこかの貴族だったり姫だったりするか?」

「なんですかそれ?そんな都合のいい話あるわけないじゃないですか」

「だよな」


 俺は普通の家柄のようで安堵しながら、ここがどこだか聞いてみた。


「え? ガムルの大森林ですよ。知らないんで入ってきたんですか?」

「知らないな。 適当に歩いていた」

「適当って……ここはとても森が深くて迷子になりやすいんです。とても危険なんですよ?」

「まぁデカい魔物がいたからな」

「え!? 会っちゃったんですか!?」


 何を驚いているのか分からないが、そりゃこんだけ森を歩いてたら出会うだろうと思うが、ここら辺では会わないのだろうか?


「大型の魔物はもっと奥に行かないと出てこないはず…どこまで行ったんですか?」

「さぁな。なにせどこをどう行ったかあまり覚えていないからな」

「なんて無謀な……でも強そうですから納得です」


 少女は一人でうんうん考えながら一人納得している。まぁオートマッピングの地図で行った場所は記録されてるから問題ないんだが。


 それと今思ったが少女の服は、腰あたりに一つの花のリボンが付いている白いワンピースを着ており、ゴブリンに追い回されたからか所々汚れている。そして綺麗な金髪の髪にも泥が付いており顔も汚れている。

 その汚れた顔は可愛らしい幼いが将来が期待できそうな顔だと思った。

 まぁ俺はこの世界の価値観が分からんから、この顔が良いか悪いか分からんが。


「お前の名前はあるのか?」

「はい! わたしはリリって言います! お兄さんの名前はなんていうんですか?」

「俺はスタークという。覚えなくてもいいぞ」

「覚えます! スタークさんですね。覚えました!」


 この少女は何が楽しいかずっとニコニコしながら俺に付いてくる。

 ところで俺に付いてくるのはいいが、この道無き道でいいのか?と聞いてみると…


「え!? 知らないで歩いてたんですか!?」

「だからこの森も知らないって言ってるだろ」

「もう! ……お兄さんは不思議な人ですね。こっちの道ですよ」


 そう言って俺の手を取り引っ張って歩いていく。

 俺が不思議ってそりゃ前世を持ってて、こんなアンデッドに生まれてりゃ不思議以外の何者でもないだろう。


 しかし俺の事をアンデッドだと気付いている様子はないな。これならば街の中に入れそうだと内心で安堵していた。きっと光耐性を会得してから肌が浅黒くなった為に、アンデッド特有の青白さが無くなったことが要因だろうと思われる。

 そういう意味でもやはり光耐性は必要だったと感じた。


 こうして俺は道無き道を少女に導かれながら街道らしき場所へと連れて行って貰ったのだった。

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