23話 リリの家庭教師
あれから宿で寝て、起きた頃には朝日が昇る頃だった。
俺はリリが来るのを待つ前に宿の食事を取る事にした。
「おや、早いね。そういえば名前がまだだったね。あたしはビレイってんだ。あんたはなんて名だい?」
「ビレイか、これからよろしくな。俺はスタークという」
「スタークさんね。これからもう食事を取るのかい?ならそこで待ってておくれ」
ビレイは40代から50代あたりだろうか。少しふくよかな肝っ玉母ちゃんといった具合で、気の強そうな女将さんだと感じた。 旦那は尻に敷かれてそうだとまだ見ぬ旦那に少し同情をした。
そして俺は言われた通り食事場の席に座り、食事が来るのを待つ。俺の他には3人ほど食事を取っている者がいた。
朝日が昇り始めたばかりだというのにお早いものだと思いながら、俺も似たような物なので健康的な生活に思わず笑みが出た。
何せ今までの生活が光の少ない生活をしていたせいで、何時に寝て何時に起きるなんてやってなかったからな。 正直この時間のある生活に対応出来るか分からないが、しっかりと人間の世界に溶け込んでやろうじゃないか。
そうして俺は食事が出てきてそれを食べている時にリリがやってくるのを感じた。
リリの魔力は少し独特だからすぐに分かった。
「スタークさん! おはよう!」
元気よくリリが宿屋の入り口から俺に向かって声を掛ける。
「おや、リリじゃないか。元気だったかい?」
「うん! ビレイおばちゃん! おはよう!」
「はい、おはようさん。スタークさんに用事かい?」
「うん! 私が色々教えてあげる事になってるの!」
「そうかい。それじゃ食事食べていくかい?」
「うーん…でもお金が…」
「そんなもん要らないよ。スタークさんの所で待ってな」
「おばちゃんありがとう!」
そういうと俺の所へ早足で向かってきた。
「おはようリリ。食事まだだったか」
「スタークさん、おはよう! ご飯は1日1食が多いから、まだ食べてないの」
「そうか」
リリはそんなに稼げないからか食事も満足に食べられないようだな。なら俺がリリに教わっている時くらいは食わせてやるかと決めた。
そういえばリリの家族とかも知らないな。これから教わったりするんだから少し聞いてみるか。
それからリリの食事が来て一緒に食べ終わったら俺の部屋へ戻り、今後の予定を話し合った。
まずはここで朝に数時間は言葉と文字の勉強をして、それからは外に行き食事を食べる。それからはお互いに自由時間とする事にした。
リリもリリで稼げたらいいだろうし、俺も俺で本などで調べ物をしたいからな。 あとはこの世界の情報だけじゃなく、この街の情報も手に入れたい。なのでずっと家にいてもしょうがないので、そういう予定に決めた。
まずは文字から習う。
「これが「あ」で、これが「い」で……」
紙が高価らしいので、この街に来る前に大きめの葉っぱを集めていた。それでその葉に丁度よさげな枝を見つけて、その枝で文字を書いて貰っている。
これならいつでも持ち運べるし魔法袋に入れて置けるから、外で買い物するときにも役に立つかもなと思う。
この国の文字は正直そこまで難しくはなさそうだ。あ~お までを書いて貰い、次は か~こ までを書く。それを全て書き出してもらい、それをまずは覚える。そこから単語、文法と教えて貰う予定だ。
これなら1か月もあればほぼマスター出来そうだと感じた。
「スタークさん、すぐ覚えられるね。優秀な生徒さんでリリは鼻が高いです!」
そういってリリは楽しげに笑う。この子はいつも笑顔だと感じる。
それから丁度いい時間になり、俺達は外で昼飯を食べる事にした。
宿から出る時にリリの朝飯分と言って女将に金貨2枚を渡しといた。
いらないと言う感じに見えたが、こういうのは後々厄介なことになりかねないからな。 素直に受け取って貰おう。それに金には困ってないしな。
それから外に出て飯を食おうかと歩きながら、リリに聞いてみた。
「ところでリリは家族はいるのか?」
「うん……おかあさんがいるの。でも病気で寝込んでるからわたしがお金を稼ぐの」
「そうか。しっかり稼ぐんだぞ」
「うん!」
どうやら母親と二人暮らしのようで、病気で動けないから一人で稼いでいるらしい。
確かにリリ一人で稼ぐとなると大した金額は稼げないだろうからな。俺の家庭教師をしている時に、他でも稼げるようにしたのは正解だったな。
そうして俺達はリリのお勧めのホットドッグに似たパンに肉などを挟んだ物を食べ、お互いの自由時間になった。
「あのパン美味しかったね!」
「ああ、美味かった。ありがとな」
「ううん! それじゃこれからスタークさんは何するの?」
「色々見て回ろうかと思ってな。それじゃリリはまた明日な」
「うん、でも私がこの街を教えてもいいんだよ?」
「それは後でいいな。まずは自分で見て回るよ」
「わかった! じゃあ今度教えてあげるね!」
「ああ、よろしくな」
そう言いリリと別れた俺は、街を徘徊する事にした。
正直リリと一緒でも良かったが、それだと面白みがない。折角の異世界だ。満足するまで一人で色々と見て回ろうと思う。
そうして俺は道具屋から武具屋、魔法具屋などを見て回り、本がメインで置いてある店に辿り着いた。
「こんにちは。誰かいるか?」
そう呼び掛けるが誰もいなそうなので、勝手に中を物色する事にした。
本が色々あるが、文字を覚えたての俺には何が何だかさっぱりだ。そうしてしばらく俺でも分かりそうな物を探していると、ようやく店の主人が出てきた。
「おや、お客さんがいたのかい。なんかようかの?」
「ああ、この国の歴史とか色々な情報が欲しい」
「ほう、これは違う国から来なすったのかい。ならこっちじゃ」
白髪の男性で60代は行っているであろう少し腰の曲がった店主に付いて行き、何冊かの本を見繕って貰った。
そこでざっと説明して貰い、それらを貰う事にした。
「全部で大金貨1枚でええぞ」
「やっぱり高いんだな」
「そうだのう、本は貴重だからの」
やはり思った通り本というのは高い物らしい。大金貨1枚は一般家庭の2か月分の代金だ。
本は4冊買ったが、それでも高いに違いない。
だが色々と売ったおかげで懐には余裕があるので、全部買う事にした。
「ところで、魔法具屋にも魔法の本は売ってなかったが、そういうのはないのか?」
「あるぞい。魔法具屋は魔道具だけで魔導書は本を扱う所で売っておる」
「魔法具屋で売らない理由でもあるのか?」
「わしと前の魔法具屋の店主でどうするか話し合った結果じゃな」
「なるほど」
魔法具屋でも売っていたが、この本屋でも売っていて分かりづらいと言われた過去があり、二人で話し合って決めたとか。なので魔法具屋で魔導書を仕入れたらこっちに持ってくるんだとか。
探す手間が省けるのはいい事だなと思いながら、俺はまだ覚えていない土と風などの魔法を覚えようと聞いてみた。
「土と風なら初級はある。だがそれ以外はないのう。中級は火ならあるぞい」
「そうか。なら全部貰おう」
「ほっほっ。大盤振る舞いじゃな。ならこれも付けてやろう」
そういって店主は一冊の小さな本を持ってきた。
「それは?」
「これはただの日記帳じゃ。おぬし文字を読めんじゃろう? 日記じゃなくとも何かのメモ帳に使えばええ」
俺が文字を読めないことを見抜いていたか。伊達に歳を取ってないという事か。ならばと俺は有難くそれを貰う事にして、店を後にした。ちなみに魔導書は他の本の値段の倍くらいだ。
その後も街を散策して今日の所は宿へ帰る事にした。
宿に帰ってからはすぐに土と風の初球魔法を、そして火の中級魔法を取得した。
それからその生活を2週間ばかり続けている時に、ある出来事が起きた。
まさかリリの笑顔の裏にあんな事があるなんてな……
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