EX1 ある日の冒険者達
今日はシーフのビルが最近見付けた洞窟に行くことにした。
「ビル、少し様子見たんだろ? 強さ的には俺たちで行けるか?」
「ああ、ゼジー。ゾンビやスケルトンくらいだ、駆け出しはちょいきつい位だな」
「なら私たちは大丈夫ね。もう先月に中級になったしね」
「ああ、カサネの言う通りだ。俺達なら行けるな」
自惚れてる訳じゃないが、おれは運良く初級ダンジョンでミスリルが混じった上物の剣を手に出来た。
この剣を手に入れてから、そこらの魔物は簡単に切り裂けるようになった。
それを気に魔物退治のランクを上げるべく、拠点を近くの街へ移した。
そこでも順調だった。その街もダンジョンがあり、初級ダンジョンとそれより上の中級ダンジョンの2つがある。なので、そこそこの規模の街だ。
そんな俺たち3人は生まれも同じで幼馴染みと言うものだ。
だがそんな拠点を移した俺たちに待ってたのは、中級ダンジョンは浅い階層しか潜れないというものだった。
なんでも、冒険者のランクが低いから制限があるようで、それより下の階にはもう一つランクを上げる必要があるみたいだ。
今のランクはFランク、初心者脱却したばかりだ。
ならばランクを上げるべく依頼を受けていたが、そこで洞窟をビルが見つけた。
ただちょうどその頃、ランクがEに上がったから、中級ダンジョンでいつもより下の階層へ行っていたことで忘れていた。
その下の階層でも安定して狩れたことで、自分達は中級冒険者になれたのだと実感して少し余裕が出来た。
そこでふと思い出した。
「なあビル。そういえば洞窟どうこう言ってなかったか?」
「ん? …ああ、確かあったなそんなのも」
「どんな感じの所だったんだ?」
「ん~、対してレベルは高くないな」
「中に魔物いたのか?」
「ああ、ゾンビやスケルトンとかいたな、ダンジョンぽくないからほっといたけど」
「ねえねて、それって報告しなくて良いの?」
「別に良いだろう、報告するならカサネがしてこいよ」
「えー、やだよめんどくさい。でも調査したら何か報酬貰えないのかな?」
「お? ありそうだな。なあゼジー。行くか?」
おれは少し考えるがすぐに決まった。
「ギルドに話してみて、何かしら報酬が出るなら行ってみるか」
そう言うと2人は頷いて明日にでもギルドに報告することにした。
そしてギルドに確認したら、もし何がいたのかとかダンジョンとかなら、報酬が出ることが分かったので、早速その足で行くことにした。
「ここか?」
「ああ、そこそこの穴だろ?」
「普通に思ってたより大きいね、3人並んで入れるよ」
確かに思ったより大きい。なんでこれで今まで誰も見付けられなかったんだ? 不思議だ。
「なあ、何で誰も見付からなかったんだ?」
「さあ? 最近出来たとか?」
ビルに聞いてみるともっともな回答があった。
確かに最近この穴が出来たらとしたら、見つかってないのも無理はないな。
なら早速いくか。
「カサネ、ゾンビいるから、キュアだけはすぐ頼むぞ」
「うん、まかせて」
おれがそう言うと元気に頷く。
幼馴染みながらかわいい。
まあビルとこの3人は恋仲にならないようにと協定を結んでいるからな。
抜け駆けもしないしされないだろう。
ビルもカサネのこと好きなのは分かるからな。
たはだこの関係を今は壊してる時じゃないから、だから2人で約束したのだ。
「さあ、お宝あるかね~」
そうやって気楽に入っていく俺たち。
実力は大丈夫だろうと自信を持って進んでいく。
中級冒険者になったことで自信が出てきて、この頃は更に順調だ。
ここらで大きいことをしても良いなと思っていた。
「早速お出ましだな」
「ゼジー、おれがやるよ」
「ああ、任せたビル」
出たのはスケルトン1匹だ、これくらいなら楽に倒せる。
その後もパラパラと1匹づつしか出てこないから、順調に進んでいく。
そして罠にも注意しながらだが、あまりに単調で順調だったために、俺たち三人ともが少し気を抜いてしまった。
「おいビル、何か聞こえないか?」
「ん? …確かに…まずい!」
「え? なになに?」
ビルが叫んだとき、横穴から一気に三匹の蟻が出てきて強襲を食らう。
「ビル! 二匹請け負え! カサネはビルを援護しろ!」
「まかせろ! 早く倒せよ!」
「ビル! 倒さなくていいよ、回避に徹してね。魔法で援護する」
「おう!」
急な戦いだがこれもたまにはあるので、いつも通りの作戦でやっていく。
この手の蟻は厄介だ。でかくて早くてそれでいて顎が強力だ。
だが落ち着いてやれば勝てる。
俺にはこの剣がある。1匹くらい一人で倒せるさ。
「さっさと倒してビルの援護に向かうかね!」
迫る蟻と距離を一定に保ち、牙だけに注意しながら隙を見て脚を切り落としていく。
何本もあるから1、2本落としても機動力が下がらない厄介な蟻だが、4本も落とせば歩けなくなってくる。
少し時間が掛かったが、なんとか倒せた。
「よし! ビル援護に向かう!」
「おう! 頼む!」
あっちはビルが2匹を受け持ち回避して、カサネが魔法でダメージを与えていたからか、蟻は所々ダメージを受けている。
これなら勝てるだろうと見ていたら…
「キャアアー!」
「カサネ!」
突然、蟻の1匹が液体をカサネにぶっかけた。
それに気を取られたビルがカサネの方へ向いてしまう。
あのバカ野郎!
「おいビル! 前!」
「うぐあぁあ~!」
「チッ!」
くそ! ビルが蟻に足を食い千切られやがった!
簡単な対処のはずが一瞬油断したらこれだ。
それを無くそうと散々話し合ってきただろう!
カサネに恋心を持ちすぎて意識が逸れたのご原因だろう。
「クソ蟻がー!!」
おれは何とか2匹の蟻を倒そうと必死に剣を振るう。
その間に回復してくれればいいが、肝心のカサネが顔にダメージを受けたようで一向に回復する素振りがない。
チッ! おれがやるしかねえか!
アリは牙だけに注意すればいいし、横の攻撃に弱いから、常に横に移動しながら脚を切り飛ばせばいい。
だが2匹いると横へ入ってももう1匹が邪魔をして決定打を打てないでいる。
そうしているうちに牙を食らわなくても、脚で攻撃され傷が増えていく。
チッ…これじゃジリ貧だ。仕方ない、これを使うとごっそり魔力が持っていかれるがやるしかない!
おれは元々少ない魔力を練り、剣に魔力を流し一気に剣を横凪ぎにした。
俺の唯一のスキルであり強力無比な技だ。
「爆裂斬り!」
2匹の蟻の脚が絡まっている場所へ剣を叩きつけると、そこが盛大に爆発した。
脚や胴体を吹き飛ばされ、2匹は動けないようになり、一気に魔力が無くなりダルくなるが、体に気合いを入れて何とか残りの2匹を倒す事が出来た。
「ふぅ…おいカサネ、大丈夫か?」
「うぅ…」
ビルは足がやられた。だが自分で止血はしてるし、足を完全に切り飛ばされたのはキツいが、神殿にいけばくっ付けて貰える。
足を生やすよりは安いから何とかなる。
だから回復魔法が使えるカサネを優先しようとした。
「確かポーションはまだ2本はあるよな」
そう思ってカサネに近寄ってポーションを取り出していると…
「ぐぅっ!?」
ん? ビルどうした? と思い、ビルの方を見ると。
「な、なんだおまえ!?」
2本のナイフを持ちながらこちらに猛スピードで襲ってくる異常なスケルトンが見てとれた。
そいつがナイフを投げてきて咄嗟に盾で防ぐ。
くっ! なんだあのスケルトンは! あんな動きする奴、見たことがないぞ!
ナイフを何とか防いでスケルトンな対処しようと盾を下ろすとそこにはもう居なかった。
くそ! どこ行った!?
そう思ってると上に気配がして見た瞬間、おれの顔にナイフが刺さるのが見えた。
ああ、ちくしょう。…なんなんだよこいつは……カサネ…
それがおれの最後の呟きになった。
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