11話 草原エリア

 オーグルのいた階層を下るついでに進化したことによる種族特性の、「生への渇望」を発動させて使いこなそうとしていると、発動の解き方を知ることが出来た。


 発動は勝手にしてしまうようだが、解き方はしばらく放置していれば止まるようだ。

 多分だが身体のダメージを完治させて、しばらく経てばそれ以上必要ないと判断するのかもしれない。

 まぁこれからもまた調べていこう。


 そんな感じで未知の階層へ行く途中で色々試していると、階段が見えてきた。

 なるほど、こんな所にあったのか。

 そこは一面が苔で覆われた場所だ。 その苔の下に階段があったのだ。

 なんとも分かりづらいな。 だがまぁ見つかったのだ。

 さっさと行こうと思い足を踏み出した。




 新しい階層はだだっ広い草原のような場所だった。

 そこは短い草が多く広範囲に広がっていた。

 目の付く所では、かなり遠くに樹木が見える。

 あそこまで行かなければ隠れる場所もなさそうだ。ここでは物量に圧されるかもしれないからさっさと身を隠せる場所へ移動しよう。


 そうして気配を殺しながら草があるから音を最小限にしながら目的の場所へ急ぐ。

 気配は隠密のスキルがあるから簡単に消す事が出来る。

 これは洞窟育ちという事で生まれた時から常に気配を殺していたから、いつの間にか手に入っていた物だ。

 これのおかげで5人組の冒険者達を観察出来ていたのだろうから、有難いスキルだ。


 それにこういう身を隠す場所もない所でも、気配を消すのとそのままでは大分違うだろうからな。



 そうこうしている間にコボルドの集団に気付き身を潜める。


 ん? 少し上の階層で出会ったのとは雰囲気が違うな…


 そう思い息を殺し観察する。すると集団の中に二回りは大きいコボルドを発見した。

 俺は鑑定を使い調べてみると、コボルドリーダーと出た。


 なるほど……この階層から上位種が出てくるんだな?

 そう直感して、こいつらをどう狩るか頭を巡らせる。


 こちらに気付いてはいない。ならこれを利用しない手はない。


 このコボルドの集団は浅い階層の集団とは違い、しっかりと統率が取れている。

 そうか、上位種がいると統率力も上がるのか。


 ならば身を屈め匍匐前進ほふくぜんしんしながら、徐々に近づいていく。

 こちらを発見される前に奴らの横側へ移動する。そして通り過ぎて行き後ろの確認が疎かになった瞬間に、一気に身体強化を引き上げ一足でコボルドの集団に近づく。


 音が立ちこちらを視認する前に、近くいたコボルド2匹を一瞬のうちに斬り伏す。

 そして最初から目標は他よりも大柄のコボルドリーダー。


 こいつに最接近した時に手に持っていた短めの剣を俺目掛け振り被ってきた。

 驚いたな、しっかり反応をしている。他は呆気に取られているだけだが、さすが上位種だ。

 だが俺は3回も進化しているんだ。お前よりも2つも上だぞ?


 ……まぁ、最初のベビースケルトンなんて物があるとは思わなかったから、実際はコボルドリーダーより一つ上程度だろうが…


 そんな事を思いながら、コボルドリーダーが振り下ろそうとした剣が振り下ろされる前に、剣を握っていた腕を斬り落とす。

 振り下ろされた剣が後ろにいたコボルドに当たったが俺のせいではない。

 そして腕を斬った剣を返しながらコボルドリーダーの首を一刀両断にする。


 ふむ…特に毛や皮が硬いという事もなかったな。きっと身体能力や指揮能力が上がった程度なのだろうと思いながら、残りのコボルド達も斬り伏せていく。


 そろそろこの魔剣もガタが来そうなものだが、俺が魔力を流しているからか、今の所一番硬かったオーグルですら刃こぼれがしなかった。

 なんとも俺にとって心強いものになった。やはり直観に従い冒険者共から奪い取って正解だったな。


 今の俺は考えながらでもコボルド程度には負けない。それを感じながら20匹はいた集団を、ものの5分も掛からず屠ってしまった。


 さて、こいつ等の持ち物で使えるものはあるかな?

 色々と探していても特に使えそうなものはなかった。

 少量の薬草にコボルドリーダーが装備していた短めの剣と上半身の簡素な鎧くらいか。


 これらを魔法袋に入れて当初の目的の場所へ向かう。



 樹木が生い茂っている場所に着いてからは隠れながら獲物を探し、次に出てきたのはゴブリンの集団だ。


 こいつらの上位種のホブゴブリンが率いていて、その総数は40匹は超えていた。


 なるほど、このエリアは上位種が出るだけでなく集団が基本のエリアなのか?


 だがゴブリン程度、今の俺には障害にすらならないと、次はホブゴブリンを残し、ただのゴブリンから屠っていく。

 ホブゴブリンが俺に迫ってくるが上手い事避けながらゴブリンだけを倒しきり、ホブゴブリンと一対一に持ち込む。


 そこでホブゴブリンが何やらスキルを使ったようで、身体が一瞬だが赤いオーラが漂った。

 警戒していると今までの動きよりも切れが増し、素早い動きで迫ってくる。


 俺は警戒していたのもあってそれに対応しながら振り上げる棍棒を紙一重で交わしていく。


 これはオーグルとの戦いの時に会得したであろう「一線の見切り」だ。

 見切るだけでなく紙一重でギリギリ交わせる高度な技術。

 オーグルの攻撃を命ギリギリで避けていた事で見切りよりも上と思われるスキルが身に付いたのだろう。


 どうやらこの世界のスキルはただ発眼してその恩恵を受けるというよりは、自身が持っている物をスキルとして分かるようになるものなのかもしれない。

 元々持っていた物が昇華しスキルとして現れた。そう考えると俺の持っているスキルはどれも常日頃から意識している物ばかりというのも頷ける。


 だがファイアアローのように魔導書で覚えられるようなものもある。

 一概には言えないだろうが、そう思っていてもいいだろう。


 それとファイアアローだが、正直魔力の無駄である。

 直線にしか飛ばないし、遠距離で攻撃できる手段もこれ一つしか持っていないので、剣が主体の俺には相性が悪い。

 ならば少し近づいて真空刃を撃ちながらそれと並行して突撃した方が不意を付ける。


 まぁファイアアローを100本くらい撃てるなら別だろうが、俺には無理だ。

 今の所3発同時が限界だ。これだと正直何かあるなという場所の確認作業程度にしか使えない。

 なのでほぼ使っていなかった。魔法? すげー! で終わってしまった。

 一応テンション上がったスキルとしては良かったと思うし、魔法の感覚も分かったので、次はもう少し使える魔法が欲しいものだ。



 そんな事を思いながらも一線の見切りを使いつつホブゴブリンの攻撃を避けながら、特にこれ以上の進展はないなと感じ、一閃して斬り伏せた。



 それからは見つけた集団を屠りながら上位種の感触を確かめながら次の階層への階段を探す。


 あれから出てきた種族はオークの集団でブルオーク、リザードマンの集団でリザードリーダー。

 それに翅虫バグという羽の生えた飛ぶ虫と上位種の大翅虫ビッグバグ、あとはカブトムシの魔虫の毒甲虫ポイズンビートルだが、こいつはほぼ一匹で出てきているこのエリアでは珍しい単独の魔物だ。

 だが毒という事もあり、一度この体に効くのか試したが全く効果がなかった…と思ったら毒無効の聖女の髪留めを髪が生えてきたことで付けていたんだったと思い出し、外して受けてみた所、多少、身体がピリピリする程度で特に障害はなかった。

 これは毒が弱いのか、はたまた腐屍体ゾンビには毒が効かないのか分からないな。

 まぁきっと後者だとは思う。なぜなら生きていないからだ。


 そんな感じの魔物が出てきたが特に強い魔物はおらず、途中で発見した階段で次の階層を目指す事にした。

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