28話 転移

 今日も今日とてリリと魔物退治をしている。


「リリ、慣れてきたか?」

「うん! 魔法も上手くなってきたよ!」

「そうだな、中々だぞ」


 リリに四属性の初級魔法を覚えさせていたが、思いのほかリリの魔法への適性が高く、難なく初級の魔法を操っていたので、今度は火の中級魔法を覚えさせてみたがそれも難なく使いこなした。


 それにリリの魔力もかなり高くなり、たかが1か月程度で1日の魔物狩りで魔法を乱発していても、魔力切れを起こすことは少なくなっていた。

 だから今では剣と魔法を交互に使いながら戦えるように、大森林を結構奥深くまで行くようにしている。

 正直魔法だけでもいいが、いざという時、魔力が切れたら何も出来ませんじゃそうそうに死んでしまうだろう。

 なので魔法以上に体力、そして剣技などを扱えるようにしている。

 それに俺みたいに身体強化を一日中使わしているので、今では息が切れるような戦闘も涼しい顔をしてこなす事が出来るようになった。


 そんな折、少しづつ森の異変を感じていた俺は、冒険者ギルドに戻った時にちょうどギルドマスターがいたので、真剣に話をした。


「ちょっといいか?」

「ん? おまえか。なんだ?」

「森でな……」


 俺は森で出てくる魔物の層が段々と変わってきている事、そして数がどんどんと少なくなっていったが、今では逆に増えてきている事を話した。


「……正直報告はいくつか上がってきている。今王都のギルド本部に連絡してガムルの大森林の調査を大々的に行おうとしているんだ」


 そんな事を教えてくれた。だが正直それじゃ遅いと、俺は一人で調査する事を告げ、一時的にリリを任せられないか話したら、すぐに了承してくれた。


「お前の強さは正直良く分かってないが、オウルベアを単独で倒せるくらいだ。ならば先に調査しておいてくれ。これはギルド依頼にしとく……だが無理だけはするなよ?」


 そう言ってきて、その調査費はなんと金貨5枚だった。

 正直多すぎじゃないかと思ったが、これは日頃から効能の高い薬草を毎日のように取って来てくれている例も兼ねているそうだ。


 今までは薬草が定期的に取られて来ず、慢性的に不足状態だったが、今ではストックがかなり出来る程になったとか。

 その辺のお礼も兼ねて少し色を付けているらしい。

 それに無理するなというのは俺を心配してるというより、リリを悲しませるなという意味だろうな。


 それから俺は調査の仕方を詳しく知らないので、ベテランの冒険者から話を聞かせてくれるように頼んでくれたが、まさかあいつらが来るとはな。


「お前がスタークってやつか?」


 そこに現れたのは、俺が洞窟にいた時に来ていた5人の冒険者達だった。

 俺がまだ骸骨スケルトンだった時に洞窟の調査に来ていた上位冒険者、星屑の風の5人組、そのリーダーであるザジルが俺に話しかけてきた。


「ああ、そうだ。あんたはザジルだな?」

「おう。ギルドマスターから調査方法を知りたいって聞いてな」


 そういうザジルの後ろには4人おり、俺が洞窟で見かけたメンバーがそのまま揃っていた。

 正直何度か見ているおかげで変に緊張せずに良かったが、最初見た時は少し固まってしまったが、何度か見かけており向こうも俺に気付いているが、俺があの洞窟にいた事や、しかも魔物だとは気付いて無さそうだから、俺も気にしない事にした。

 まぁ一番警戒している事には違いないがな。


「調査ってもどこでどんな魔物が出たか調べるくらいだな。あとは奥まで行けるなら行ってって感じか」

「全くザジルはそこそこ適当だよね」

「なんだコリー、間違ってないだろ?」

「間違ってないけど色々足りてないね」


 そう話すのは斥候を担当しているコリーとかいう優男だ。


「君はスタークだよね。 僕はコリー、斥候をメインでやってるから僕が話してあげるよ」

「ああ、あんたのが良さそうだ」

「けっ、んじゃ任せたぞ!」


 ザジルは残りの3人と共に食事に行ってしまった。

 頬をポリポリと掻きながら苦笑いのコリー。


「悪いね。ザジルはぶっらきぼうで何においてもガサツでさ」

「構わないさ、しっかり教えて貰えた方が俺もありがたいしな」


 そう言い、コリーにきちんと調査のやり方を教えて貰う事にした。

 コリーが言うには魔物の分布状況、それからどの魔物がどんな獲物を狙っているのか、それと魔物の団体行動している人数などなど、普段と違う事を調べるようだ。

 他にも細かい物がいくつかありそれらも教えて貰った。


「こんな所だね。何か質問はあるかい?」

「いや、勉強になった」


 そういって帰ろうとするコリーに俺は金貨を投げて渡して、酒の足しにでもしてくれと言い別れた。


 よし、色々教えて貰えたからさっそく調査でもしようかとギルドを出て行く。

 その途中でリリに会いに行き、多分1週間くらいは調査する必要があるかもしれないと伝えた。

 その間リリには魔法の訓練をしといて貰う事にした。それにギルドマスターにもリリをよろしくという話をした事も伝え、街の外にはなるべく出ない様にとも伝えた。


「おとうさんの事心配だけど、行くんだよね?」

「ああ、しっかり魔法の訓練をしとくんだぞ」

「うん……気を付けてね?」

「ああ、俺なら大丈夫だ」


 本当はリリも着いて行きたいと言ったが、俺は頑なに拒否をした。なぜなら今回はかなり奥深くまで行く予定だからだ。

 それに一度俺が生まれた洞窟にも行こうと思っている。

 そこは直線距離で行っても2・3日は掛かるかもしれない。

 なので予定を一週間としてみたのだ。


「では行ってくる」

「うん、いってらっしゃい!」


 リリの家で寝泊まりをするようになってから、正直、1日で数時間程度しか離れた事は無かった。 だからかなり寂しいだろうと思われるが、今回は我慢して貰うしかない。


 こうして俺はガムルの大森林の調査、そして俺の生まれ故郷に行く事にした。




「正直不安だったが、中々に俺の血の魔力は残っているな。これなら俺の生まれた場所にも着けそうだな」


 何か月か前の血の目印を目指して進んでいるが、それらが地面に吸い込まれかなり薄くはなっている。だが俺はその血の魔力を地面に定着させるように一工夫しておいたからか、なんとか魔力を保っていてくれた。

 きっとそれは俺が血剣屍ブラッディソード喰鬼・グール・珍種・レアという血に関連する種族になれた事が、ここまで血を操る事に長ける事が出来たのだろう。


 俺はそれを目安にかなり急ぎ気味に進んでいく。

 ちんたらしてたら余裕で1週間なんて過ぎそうだからな。 なのでさっさと洞窟目指していく。


 血を目印に行くが、俺の手元にはオートマッピング機能のある地図がある。

 だが色々と迷いながら来たせいで、意外と複雑な地図になっており、しかもこのガムルの大森林は広大すぎてこれだけだと自信がないのだ。

 だから俺の魔力を付けて2重でやる事にしていた。

 万が一にも戻れないとなったらそれが一番怖いからな。


 そうしてずっと駆け続けて移動していると、やはり魔物の数が増えている。

 正直向かってくる奴以外は放置しているが、数が多いゴブリンもその団体での数も数十匹いるのをザラに見かける。


 それ以外にも空にはハーピーが大量にいたりして、こりゃスタンピード目前って感じの様相を呈している。

 俺はまさかと思い洞窟に急ぎ、2日と掛からず辿り着いていた。

 道中の強力な魔物達はすれ違うなら斬り捨てたが、それ以外はほぼほぼ放置してきた。

 なので短時間で戻って来れた。


「なんとか無事辿り着けたな。ようやく戻れた故郷はどうなってるかな」


 俺は巧妙に隠した入り口の転移石を見つけ出し、それに触れる。

 すると目の前の景色が変わり、見覚えのある小屋の中に居た。


 やっと戻って来たのだ。このワイトと戦った場所に。

 俺はあの時の心躍る戦いを思い出し、今までの腑抜けていた生活に反省をした。

 リリと出会ったとはいえ文字や言葉を覚える必要があったとはいえ、生温すぎた生活。

 こんなんじゃ俺はいつまで経っても遥か高みには行けないと猛省する事にした。


「やはり俺には血生臭いのが似合いだ。なにせ俺は屍喰鬼グールだからな」


 久々に獰猛な顔つきになり、小屋の外に行こうとするが、地面に散らばっていた紙を全て拾い上げ、文字を読んでみる事にした。


「おお! やはり読めるぞ!」


 リリに習った文字はシャレード王国語だ。それで読めるという事はワイトはシャレード王国の王子だったのだろう。

 そいつが書いた文を読んでいく。


 持って行った紙もあったなと忘れていた紙も魔法袋から取り出し読んでいくが、大半が恨み辛みで読むのも馬鹿らしいものばかりだった。

 たまにゾンビの研究成果も掛かれていたが、大したものはなく、こんなんだから10年以上ここにいてあの程度のゾンビにあの程度の魔法しか使えないんだと感じた。


 だが良い物は一つだけあり、それは結界魔法の事についてだ。

 発動の仕方、どうやったら硬く頑丈に出来るかなどが丁寧に書かれており、試すと俺にも結界魔法が使えてしまった。

 これは良い物だと帰ったらリリに渡す事にした。


 それから外に出てみるが、ゾンビが多少増えたかな程度でこの階層には特に変化はなかった。

 下の様子は知らないので、上に少し行き以前との違いを見てみるが、何も変化はないので、もしやダンジョンが変化をしたという俺の不安は解消された。


「特に問題はないようだからここじゃないな。ならさっさと行くか」


 俺はそうそうにダンジョンから出て森の調査を続行する事にした。

 その前に入り口の転移石をどうするか考え、俺は自身に取り込んだらどうなるかと試す事にした。


 リリと一緒なら分からないが、俺一人ならこの場所に来るのも簡単だしなと思い、入り口の台座に乗っている転移石を壊れない様に取り外し、ボウリング玉くらいある転移石を口が裂けるのも構わずに飲み込んでみた。


 かなり大きすぎたのか口が裂け、食道がミシミシいっている。少し痛みがあったが無事に腹に収める事が出来た。

 そして不思議な事に最初は腹がポッコリしていたが、次第に引っ込んでいき、ついにはいつも通りの腹になっていた。


 その間俺は、確かに転移石を吸収しているのを感じており、身体に取り込めた事を確信した。

 そこで洞窟からかなり離れた場所まで移動してから、あのワイトの小屋へ転移をするように意識すると、目の前の景色が変わり一瞬の内に転移出来た事を認識した。


「やはり転移石の能力を受け継げたな」


 俺は口角を上げ笑うと、今度は入り口に転移する為に小屋にある転移石に触れる……が、もちろん反応する事は無く、入り口の転移石はもう俺の中にある事を確認した。

 ではどうやって帰るかと言うと、入り口に転移石の能力を宿したであろう俺の血を固めた物を置いておいた。

 なので小屋の転移石のある部屋を出て、今度は俺の血を目印に転移をするように意識すると、目の前の景色が変わり、俺が置いておいた血の塊の場所へ移動する事が出来た。


「よし! 思った通りになったな!」


 俺は久しぶりに興奮した。これで俺はどこにいてもこのダンジョンの小屋の場所へ転移出来るようになり、俺が血を固めた場所であれば、自由にそこへ転移出来る事も確認できた。

 まだどの程度の距離まで使えるかは分からないが、これは固定の場所ではあるが、転移という驚異的に、それでいてとても有能な能力を手にする事が出来た。


「ゲームの世界でも転移ってのは一番の脅威だからな。敵が使う転移にはどれだけ腹立ったことか……」


 前世でやった事のあるゲームを思い出し、追い詰めては転移で逃げられ毎回毎回逃げられたり、仲間を連れ去られたりと煮え湯を飲まされまくっていた事を思い出し、少し腹立ってしまった。


 だが自分がそれを使えると思うと笑いが止まらなくなる。

 それと多分だが、俺の血を介すれば転移を使えそうだと思い、今度リリに渡して試そうと思う。


 俺は無駄に転移しまくりたい衝動に駆られるが、森の調査をしながらいくつかの場所に俺の血を隠し、転移出来る場所を広げていく。


 それに気分を良くした俺は森の奥深くへ意気揚々と入って行く事にした。

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