27話 少しづつ

 冒険者ギルドに依頼達成の報告をしに行き、今回で俺はようやくDランクに昇格する事が出来た。

 まぁこの1か月は依頼は薬草採取をちょこっとしかしてないから仕方ないんだがな。


 それから大森林に獲物が少なくデーモンスパイダーも幼体だがそこそこ浅い所で出た事を伝えた。

 それを聞いた受付嬢のマリネさんが顔を変えていたので、もしかしたら何か起こっている可能性もあるなと、俺はこの先を警戒する事にした。


 冒険者ギルドを出てからはまたリリの家で少しだけ文字や言葉の勉強をして、それからリリが魔法を使えないか調べた。


 結果分かったのは、リリは結界魔法を使える事が分かった。

 まだまだ初級の大したものは使えないが、それを自分位は守れる程度に使えるようになったら、今度は大森林を少しだけ深い所へ行こうかと思う。


 まぁ今は小皿のような大きさの結界を作るのが精いっぱいだからな。

 強度も陶器の小皿と同じようなものだ。石でも投げられたら割れてしまう。


 だが最低でも自分自身を覆える程、そして俺の血剣ブラッドソードの一撃を防げるようになれば、この先でもなんとかなるだろうと思う。

 なので今後はリリが結界魔法をある程度使えるようになってから、また外で依頼を受ける事にした。


 それまでは俺がリリに結界魔法を教えることにする。

 なぜ俺がと言うと、俺はワイトのあの分厚く途轍もないほどの強度を誇る結界を知っているからだ。

 もしリリがあの程度まで結界を使えるならこれは今後大きな武器になるだろうからな。

 なのでそこまでとは言わないが、あの強度を想像が出来るようにしっかりと教えていき、使えるようにしていく。


「ねぇ、なんでおとうさんは結界魔法を知ってるの? もしかして使えるの?」

「いや使えないな。だが凄い結界を使う奴を間近で見た事があるからな」

「へぇ~、そうなんだ? どんな人だったの?」

「……まぁ尊大な奴だったな」


 思わぬ質問に一瞬詰まってしまったが、まさかアンデッドとは言えず、王族だったというワイトの性格を教える事にした。

 あいつは性格はともかく結界だけは凄かったからな。もし攻撃魔法に特化していたら一瞬で負けていた可能性がある。危ない所だった。

 だがリリが結界を使いこなすことが出来たら、俺が守るだけじゃなく、もしかして守って貰える時も来るかもしれない。そうなったら本格的に共に旅してもいいかもしれないな。


 そんな事を思いながら真剣な顔をして結界を作っているリリを見ながら、気付いた点を指摘していく事にした。


 そうして2週間ほどだろうか。ようやくリリの結界魔法が全身を、そして俺の血剣ブラッドソードを全力ではないが振るっても2撃程度は持つようになった。

 ならばと今日は少し大森林の深めを行こうと計画してみた。


 まぁまだまだ戦闘経験が少ないリリなので、戦いに慣れるまで、そして襲われても慌てずに結界を張れれば行こうという事にした。


 その他にも魔導書が売っている爺さんの本屋にも行って、リリに四属性の初級魔法を覚えさせて、俺と共に攻撃魔法の訓練を行った。

 たまにリリの両親が眠っている小高い丘に行ったりして、そこで美しい景色を見ながら訓練したりと、まったりしながらも将来を見据えて真剣に修行に時間を費やした。


「とうとう行っていいんだよね?」

「ああ、今日は少し深めに行ってみるか」

「やったーー!」


 よほど森へ行くのが嬉しいのか飛び上がって喜んでいる。

 何がそんなに嬉しいのかは分からないが、今日からは魔物を狩ってリリのレベルを少しでも上げていくことを優先する予定だ。

 俺もレベルを上げたいが、正直、進化を何回もしている事から、次は中々来なそうだと感じている。

 本でも調べたが魔物が進化出来るのはそんなに多くなく、数百体に1体とか1千体に1体とか言われていて、2度以上進化するとなると更に可能性が少なくなるようだ。

 だがこれは魔物の生態をきちんと調べられてないし、俺やワイトみたいに元人間が魔物にというのも分かっていないので、信憑性はかなり低い。


 だが魔王の事は結構正確に書かれており、魔王と呼ばれる奴らは大半が5回とかそれ以上に進化をしているとか。

 これは過去に魔王自身が話していたらしい。

 その魔王はお喋りで人間とも友好的に接していたが、人間側がその魔王を信じられなくて討ち滅ぼしてしまったようだ。


 魔王はいつの時代も1体以上はおり、この時代だと3体確認出来ているとか。

 北に1体、南に1体、そしてどこにいるか不明な魔王が1体いるとか。


 強さで言うと放浪魔王が一番と言われており、2番目が北の魔王、3番目が南の魔王とされているが、これは正直不透明すぎて基準があってないような物らしい。

 どいつもあり得ないほどの強さで今の人類では倒すのがかなり難しいとされ、侵略されない限りは基本放置されているようだ。


 きっと倒したいんだろうなと考える。

 それほどに力がある奴と言うのは厄介であり脅威なのだろう。


 俺もそこまで登れるのであれば「生きる」という事が出来るかもしれない。

 今は心臓が動いてないが頭が動いているのならば生きていると言っていいだろう。

 そのうち進化して心臓が動き出し、魔物だからと討伐されようとしても返り討ちにしながら、この世界で生きて行く事が出来るかもしれない。


 ならば俺はそこまで上り詰めてやろうと思う。

 もうビクビク人の顔色を窺いながらや、今みたいに人間にバレたらなんて考えて生きなくても良い様にしてやる。


 そんな思いを秘めながらリリと共に過ごすのは、正直リリを守る事が出来ないかもしれないので、少し憂鬱ではある。

 だがそれも今だけだ。 絶対に俺は何物にも屈しない力を手に入れてやると気持ちを新たにする。


「さて、もう出られるか?」

「うん! いつでもいけるよ!」


 よし、ならば最初は雑魚相手に一人で戦って貰いながら、ガムルの大森林の奥に行ってみよう。

 そうして街から出て俺が先頭に立ちながら大森林を歩いて行く。


「リリ、前から2匹の魔物が来る。多分キラーラビットだ。いけるか?」

「うん! やる!」


 やる気のあるリリに俺はアドバイスしながらキラーラビットと戦いやすい様に場所を選んでいく。


 静かな森に近くからガサゴソと音がし出してキラーラビットに近付いているのが分かる。

 俺はリリに手に結界を作って剣を構えて行くように指示した。


「来るぞ」

「………」


 リリは既に戦闘態勢だ。俺の指示通りに結界を張りキラーラビットが出てくるのを待つ。

 そして一際大きな音がしたと思ったら、角の生えた大きなウサギが飛び出してきた。

 その大きさは1mはあるだろうか。その角は50cmはあり、何もしなければ一瞬で命を散らす事になる。

 キラーラビットと言われる所以は、見た目に反して角での攻撃がとても強く、正直一番冒険者を殺しているのではという話から付けられた。


「そりゃこんな角があって弾丸のように突っ込んでこられちゃな」


 俺はリリが驚いた顔で、だがきちんと結界でその角を受けているのを見て、そんな事思った。


「うぅ……やーー!」


 結界で受けたが衝撃があるらしく、その角での攻撃に少し押される。

 だがすぐに剣で反撃をし、浅く傷を与える。

 傷づいたキラーラビットはリリからすぐに距離を取り、また高速のタックルで角を突き刺してくる。

 それを冷静にリリは結界で受けて、また剣で傷を付ける。

 そんな攻防を3・4度やればキラーラビットが動けなくなり、リリが止めの一撃を放つ。

 これでリリの勝ちだ。


「だがまだ気を抜くのは早いぞ」

「え?」


 きっと褒めて貰えると思ったのだろうリリは、少し呆けた顔をしながら俺の視線の方を見やる。

 するとそこには今にも飛び掛からんとしていたキラーラビットが飛び出しながら死んでおり、その巨体にリリが倒された。


「きゃぁ!」


 角は既に斜め下に向いていた為リリには当たっていないが、1mのキラーラビットの体がリリにぶつかり、リリは派手に吹き飛ばされていた。


「リリ、最初に2匹いると言ったはずだ。目の前に集中するのもいいが、周りも見れるようしないとな」

「うぅ……いたいよ~」


 そのくらい痛くないだろうと手を差し伸べて立たせる。

 その体は少しだけ汚れていたが傷らしい傷はない。

 少し厳しいかもしれないが、これから命のやり取りをしていくんだ。甘やかすばかりでは生き残れないと心を鬼にして対応する。


 その後も魔物が居れば優先的にリリに倒させて、今日一日でかなりの経験を積めた。

 レベルもそれなりに上がったようで、これを毎日続ける事にした。


 そうして1月は経っただろうか。やはり恐れていた事が起きようとしていた。

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