26話 乗り越える者
リリの心の問題を解消したら、なぜかお父さんと呼ばれるようになってしまった。
まぁまだ11歳だからな。そのうちまた気持ちも変わるだろうと思い、今はそのままにしておく。
それに俺は魔物だ。ずっと一緒に居られるわけじゃないだろうから、その時までは出来るだけ守ってやろうかと思う。
魔物が人間の子供を守るとか普通はあり得ないのか、それともこの世界でもそういう事例はあるのかどうか。そこら辺もそのうち分かるだろう。
それからは予定通り1か月を目途に文字や言葉をリリに教えて貰いながら、この世界の情報を集めていた。
言葉や文字はもうほとんど問題ない感じだ。
それから情報だが、改めて調べるとリリが言っていたように、この世界はプロンテルと呼ばれいるようで、この国はシャレード王国というらしく、この世界最大の大陸、ユーガレット大陸の1つの国で、大きさも最大級のようだ。
そしてこの街はシャレード王国の中にある中規模の街、ユルブローという所で、近くにとてつもなく大きなガムルの大森林に隣している街として、シャレード王国では有名らしい。
ガムルの大森林は広大な森であり、それゆえに調査がほぼ進んでいないようで、その理由も魔物の数が奥に行けば行くほど尋常じゃないくらい多くなるらしい。
それから強力な魔物が跋扈しており、上位の冒険者くらいしか奥まで行けず、調査したら
土地には特に薬草程度しか旨味がなく、鉱山なども無い為にそのまま広げずにしてあるようだ。
そのあまりの広大さにスタンピードも起こらずにいるので、あまり刺激しない様にしているとの事。
俺が洞窟から出てきた時はそこまで魔物も強力な奴らも居なかったから運が良かったのか、はたまた別の理由があるのか。
まぁ無事にここに辿り着けたのだからいいかと思う。だがそのうちまたあの洞窟というかその下のダンジョンには行く予定で、攻略もしようと思っているから、リリをどうするか考えてから行こう。
それにあのダンジョンは俺とワイトの二人が人間から転生?しているので、何かある可能性がある。
なのでとりあえず当面の目標はあのダンジョンの攻略だ。それも誰にもバレない様にしながらやる必要がある。
粗方の予定が決まった所で今日はリリと外へ行き魔物を倒す事にした。
リリがどれほど戦えるのか、何が出来るのかを確かめて、はたして俺の旅に着いて来れるのかを見極めなくてはいけない。もし戦えないようであれば旅をしていても俺が守るだけになってしまうからな。
正直リリや誰かを守りながらの旅はまだまだ俺には酷だろうと思う。そこまでの実力が付いて無さそうだからな。
そう考えるとそりゃそうだと思ってしまう。なにせ俺はリリよりも年下の生後数か月であろう魔物だからな。 前世では30年は生きたが今世では良くて3~4か月程度だと思われる。
だからもっともっと強くなってどんな出来事が起きても跳ね除けるだけの力を身に着けたいものだ。
「おとうさん。ご飯できたよー!」
そんな事を考えているとちょうどリリが朝食を作り終えたようだ。
今俺はリリの家で一緒に寝泊まりをしている。俺が宿にいても良かったが、一度リリの家に泊まったら、それからはずっと一緒に寝てほしいと言われしまった。
あの涙目の上目遣いは反則だろうと思う。将来が怖いなと感じた瞬間でもあった。
まぁそれはともかく、今日から街の外に出て魔物を倒すことは既に話してある。
まずはリリの能力を把握していこう。
その前に……
「リリ、今日の朝食は美味いな」
「えへへ、昨日八百屋のおばちゃんに新鮮なトマトを貰ったから、おとうさんに教えて貰ったサンドイッチにしてみたの!」
「ああ、よく出来てる」
「えへへ~」
俺が一緒にリリの家に住むことになってからは、金に糸目を付けず良い食材を買うようにしていた。
節約をとリリが言ったが、正直リリの身体はまだまだ小さい。11歳としてみてもやはり小さい。 それだけ栄養が足りてないのだろう。だから今は多少太ってもいいから栄養価の高い物を食べさせることにしている。
まだまだ金は余ってるしな。俺も金を使う機会はほぼ無いし食事くらいはきちんとした物を取るようにした。
「ご馳走様。さて、外に出るが準備はいいか?」
「おそまつさまです! うん! 出来てる!」
「よし。なら少し腹を休めたら今日は魔物を倒すぞ」
「うん! がんばる!」
俺達はそれから冒険者ギルドへ行き、薬草と討伐の依頼を受けて街の外へ行き、まずは一匹でいる魔物か動物を探す。
そのついでに俺は魔力が宿った草を探す。
「おとうさんはなんでそんなに薬草見つけるのが上手なの?」
「俺は魔力が見えるからな、だからだろう」
「いいなー、わたしも見たい!」
「目に魔力を宿してみるんだ。それで感覚が掴めたら徐々に見えてくる。だが一日中やってないと中々見えないからな。今は狩りに集中だ」
「わかった! 帰ってからだね」
そういい表情を引き締めて、また歩き出した。
俺はすでに値が張る薬草をいくつか採取しており、これだけで稼ぎとしてはもう金貨数枚はあるだろう。 俺達の生活費の1か月分くらいは稼げただろうか。
だが未だに魔物どころか動物も出てきていないので、俺は少し遠くまで獲物を探知るす為に集中した。
「……いるな……一匹だ。おそらくゴブリンだろう」
「ゴブリン……」
「いけるか?」
「……うん」
若干不安げなリリだが、俺とリリが出会ったときはゴブリンに殺されそうになっていたからな。
その時の恐怖が少し蘇ってきたのだろう。
これなら出会ってしまったらどうなるか……さて、少し様子見してみよう。
「リリ、そろそろゴブリンが見えそうだ。どうする?」
「……やる! だってそうしないとおとうさんと一緒に居られないもん」
「……そうだな。なら乗り越えて見せろ」
そう話しているうちにゴブリンがガサゴソと音を立てながら姿を現した。
「ヒッ……」
その姿に怯えるリリ。だが俺はあえて守ろうとせずに見守る事にした。
「ギャギャ! ギャッ!」
「うぅ……負けない!」
リリは新品のショートソードよりも少し短い剣を構える。
これは俺が鍛冶屋の親父にリリ用に作らせていた物だ。
それと靴にも靴底が硬い素材を使っており、リリの来ている服も簡単なナイフ程度なら刺さらないような素材を使っている。 確かリザードアーマーの皮を使ってるんだったな。
それにその服の上から羽織っているローブも刺さりにくく燃えにくいネットスパイダーの糸を使って作られている。
正直、そこそこの値が張った装備だ。だが最初で躓くとその先はさらに遠のくからな。
仕方なく良い物を買い込んで装備させた。
「ゲゲギャ!」
「ヒゥッ! ……や、やーー!!」
ゴブリンが汚い声を上げながらリリに小走りに近付いて攻撃を加えようとしていた。
それに一瞬怯えるがリリは勇敢に迎え撃つようだ。
ゴブリンは手に太さが直径3cm程度の木の棒を持っている。あんなので叩かれても少し痛い程度で済む物だ。だがウサギや小動物なら致命打になりうる。
だがリリは装備も良い物をしているから、受けても痣で済むだろう。
なので俺は手を出さずリリがゴブリンの命まで仕留めるのを見守る事にした。
「ゲアッ! ギャア!」
「やー! やーー!!
リリが勢いよく剣を振り回すが、ゴブリンの方が戦い慣れているのか全く当たる様子はない。
そして若干剣に振り回されているリリの隙をゴブリンが棒で突く様にして攻撃をしている。
「いたっ! もう! やーー!!」
「ギャギャ! ゲハア!」
リリは突かれて痛がっているが、それでも前に出続け、だがゴブリンが余裕をもって交わしている為、その顔は笑っているようだ。
俺はイラっとして一瞬で首を刎ね飛ばしたい衝動をなんとか抑えながら見守る。
これはリリが乗り越えなければならない事だ。なら俺がここで手を出してしまうとこの先に影響が出る可能性がある。
ならばここはじっと耐えるしかない。
そんなリリとゴブリンの攻防が10数分は続いただろうか。
その喧騒に周りから徐々に魔物が近付いてきていた。
「どれ、リリの初陣を邪魔する奴らを駆除しに行くか」
俺はゴブリンの醜悪な笑い顔をずっと見させられてストレスがピークに来ていたので、リリに近付いている魔物を倒しに行く事を告げ、なんとしてもゴブリンを倒すように命じた。
リリは必死に汗だくになりながらそれに応え、目線は常にゴブリンに向いている。
これならば大丈夫だろうと判断し、俺は周りに集まってきている魔物の元へ向かった。
「さて……10匹近くいるか。ならさっさと倒してしまおう」
まずは近くまで来ていたデーモンスパイダーに血で作った
ギュァア!
一鳴きした後にドサッと木の上から地面に落ちてきた。
このデーモンスパイダーは成体になるとその名の通りデーモンのような強さを誇る。
糸に闇魔法を乗っけて来るので結構な強敵となる。
だが今回は30cmに満たない子供だ。大人は3mは超えるからな。
なので何の抵抗もなく簡単に殺せた。
しかしデーモンスパイダーがこの付近にいるという事、そして獲物が少ないという事はどこかで大繁殖をしている可能性があるな……
これは冒険者ギルドに報告しとくか。
その後はゴブリンやハーピー、この世界では初めて会うミノタウロスなどを屠っていった。
ミノタウロスは若干強かったな。手には斧を持ちその強靭な肉体で振り回してきた。
大きさも2mを優に超えていたのでリーチも長い。なので俺は斧を振り下ろすタイミングで
そうして周りの邪魔者を駆除し終わってからリリの元に戻ると、リリは顔に痣を作りながらも眼差しはゴブリンをしっかり見据えており、しっかりと剣も握っていた。
「ふっ……これなら大丈夫そうだな」
俺はその姿を見て、リリがこれからの冒険に着いて来れる事を確信し最後まで見守る事にした。
そうして所々に傷を負い真剣になったゴブリンだが、リリから致命傷になる一撃を受け、そこから逃亡を図る。
だがリリがすかさず剣を投げ付けてそれがゴブリンの体に突き刺さり、戦いに終止符が打たれた。
剣を投げるのはどうかと思うが、それでも逃げた瞬間に投げる躊躇の無さは良い方向へいけばいいな。
そんな事を思いながら、こちらに気付いたリリの満面の笑顔と共に、タックルのような思い切り走りながら俺の胸に飛び込んでくる体を受け止めて抱きしめるのだった。
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