29話 スタンピード

 転移能力を手に入れてから俺はどんどんと森の奥へ入っていった。

 この転移は魔力を一切使う事は無い。なぜならダンジョンの転移石を元にしているからか、いくら使っても魔力を使っている様子がないのだ。

 もし転移石をすり減らして使っていていつか使えなくなんて事が起きるかもしれないが、たぶんその心配はないだろうと思う。

 なので使う時は遠慮せずに使う事にした。


 そうして森に行き調査をしながら地面に俺の血を固めた物を埋めて転移場所を増やしながら、どんどんと奥へ奥へ進む。


 奥へ行けば行くほど魔物の数は驚異的なまでに増えていき、こりゃスタンピードでも起きる直前かなんて思った。

 雑魚のゴブリンやコボルドでさえ集団で統率されていて、上位種がいる事が容易に想像が出来よう程だ。

 それにブルオーク、リザードコマンダー、ミノタウロス、グレートバイソン、アサシンウルフ、キラーブル、オウルベアにアサシンベア、デッドパンサーにデーモンスパイダー等と種族様々な強力な魔物が出るわ出るわで、こりゃもうユルブローは滅ぶなと実感した。


 なのでこれはリリを連れてダンジョンへ逃げる事を優先する事にして、ギルドマスターには街の住民達に街を放棄して逃げるように進言する事にした。


 その前にと俺は2日ほどひと暴れしてスタンピードを遅らせてやろうと考えた。

 それに……


「俺の進化のための経験値が欲しいしな」


 ニヤリと口角を上げて目の前に幾千幾万の魔力反応の群れに胸が高鳴るのを感じた。

 どうか俺の進化の手助けをしてくれよと思いながら、見つけた上位種、特に経験値が高そうな奴を中心にその命を刈り取っていく事にした。


 俺は身体強化を久しぶりに限界まで引き上げながら、ぶちぶちと壊れる筋肉に懐かしさすら覚えながら、近付く魔物を全て屠りながら強い魔物求めて血剣ブラッドソードを振るう。


 今までに出したことの無いほどの力を解放して、10本の血剣ブラッドソードを自在に操る血銀十剣ミスリルブラッディソード固有ユニークスキルも本当に久々に使いながら、1分に30匹は葬っているであろう速度で皆殺しにしていく。


「ハハハ! 楽しいなぁおい!!!」


 前から後ろから様々な角度から俺を襲ってくる魔物を屠りに屠る。それは魔力が切れる事も気にせずに殺しまくる。

 なぜなら殺すのに使う魔力は殺した魔物から回収しているからだ。


 どうしてそんな事が出来るかというと、血銀十剣ミスリルブラッディソードで切り裂き触れた部分から魔力を奪っているからだ。

 それでも足りない場合は上位の魔物の肉を喰らって魔力補給をしている。

 その為に肉体が耐えきれず筋断裂が起きようがなんだろうが、全身に魔力を豊富に巡らせて即座に回復させながら、大量の魔力を使い大量に魔物を屠っていく。


 本当にどれだけいるんだと思いながらも10本の血銀十剣ミスリルブラッディソードに俺の相棒の血剣ブラッドソードを使い11本を巧みに操り、更には覚えて強化した攻撃魔法を駆使しながら、見かける魔物全てを殲滅していく。


 そこで俺が気分良く魔物を殺しまくっていると、集団を率いる上位種が徐々に姿を見せてきた。

 それは多種多様であり、とても統率なんて取れそうにない者ばかり。

 それが一つに纏まってるって事は、こいつらよりもさらに上がいるのか?


 そう思いまず手始めにコボルドキングを屠る事にした。

 こいつは普通のコボルドよりも2倍以上は大きいだろうか。

 コボルドが1m無いくらいだとしたら、こいつは2m以上ある体格をしている。

 それに手には上等な剣を携えており、その周りを数十のコボルド達で固められていた。


 コボルドの最上位であろうこいつが従うとかどんな奴が率いてるんだか少し怖くなるが、今は目の前に集中するか。


 俺は身体強化を引き上げ一気に殲滅する事にした。


 まずはヴォルテックスにフレアアローで簡易なファイアストームを作り出し、魔物の群れに撃ち込んだ。周囲のコボルドや他の魔物も吸い寄せて纏めて殺す為に。


 その他にも中級の火炎魔法を覚えたので、ファイアストームも撃てるようになっている。

 ではなぜヴォルテックスを最初に使うかというと、吸引力がファイアストームよりも遥かに高いからだ。

 ファイアストームでは吸い寄せられない遠くの物も吸い寄せられるので、中心にフレアアローをぶち込んだヴォルテックス、その周りにファイアストームを打つと、ファイアストームだけを使うよりも効率よく周囲の魔物を殺せるし、ヴォルテックスだけよりも魔力を大幅に節約できる。

 なのでこれからもこのやり方は雑魚殲滅に役立つだろうと思われる。


「大体の雑魚はこれで死んだな。ならばコボルドキングを剣の餌にしてやろう」


 俺は周囲に散らばらせていた血銀十剣ミスリルブラッディソードを10本全てコボルドキングに向けて短期決着をする事にした。

 まだ残っていたコボルドリーダーなどを一瞬で斬り伏せてコボルドキングに急接近する。


 グルァアアアア!!


 俺を敵と認めたのか周囲が畏怖するような叫びをあげるが、その程度で俺が怯む筈もなく、11本の血剣ブラッドソードにて一気に斬り付ける。

 さすがのコボルドキングも2・3本は対処できたが俺含めた11本には対応できず、硬い筈の毛皮もミスリルを含んだ切れ味のいい血剣ブラッドソードの前には抵抗も出来ずに深い傷を瞬く間に増やしていき、ものの10分も掛からずに倒れ伏す。


 さすがに俺の血剣ブラッドソードが一本だけだと、中々に苦戦したであろうが、11本となると全てが変わる。

 それを思うと本当にあのデュラハンのガラハドは強かったと思う。

 なにせ11本全てに対応していたからな。そりゃ剣聖なんて言われるはずだと思う。


 だがコボルドキングは体格はデカいが、強さはガラハドの足元にも及ばずに、11本の大剣に対応出来ずさっさと倒れてしまった。


 まぁ剣技もだが身体がデュラハンという強固すぎる鎧と違ってただの硬い毛皮だからな。

 そりゃレベルが違うものだと考え直した。


 そしてコボルドキングを倒し終わると周囲にいた残っていた数少ないコボルドがこちらに向かって来ているので、そいつらも纏めて斬り伏せる。

 自分らの統率者が居なくなったのにこっちに向かってくるという事は、やはりこいつらの上にいるのはコボルドキングよりも強力な魔物だという事が分かった。


「さて、何が出てくるか」


 俺は若干だが楽しみにしながら、こちらに向かってくるキラーブルやポイズンヴァイパーなど強敵を屠りながら、その奥へ向かっていると、特に魔物が集まっている場所を見つけた。

 そこにヴォルテックスなどをぶち込みながら向かうと、その歩みを止める魔物が出てきた。


「おいおいこんな奴がいるのかよ……」


 それは所々腐っているが、見間違いようがない魔物。


 巨体に見合う巨大な牙、それにぶっとい尻尾。


「ドラゴン……ゾンビ……」


 まさかのお仲間に一瞬言葉を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る