5話 魔剣

 相棒と共にどれだけの敵を切り裂いてきたか。


 この付近の魔物は大半が容易くなってきた。

 だが危険もあった。


 やはり蟻が厄介だ。あいつらは数が多い。

 多勢無勢というやつで、どうしても手が足りない。

 だから細い道に誘導して1匹か2匹を相手取れるように動き回る。


 だが蟻は更に厄介で、勝手に道を作り、地面から襲ってきたりもする。


 そのうちここらの覇権を握りそうな勢いだ。

 だから俺は蟻をメインに殺し続けた。


 それは俺にもメリットがある。

 蟻は大きめの魔石を持っていることが多い。

 もちろん全ての蟻が持っているわけではないが、魔石を持っている確率が多いから、進化のためには有り難いので、耳を澄まし五感全てに集中して、蟻が居ないか探すようにした。



 そうして暫く経った時、ふと気付く。


 こんなに相棒は切れ味が鋭かっただろうか?

 蟻の硬い奴に当たると途中で止まることが多々あった。

 だから仕方なく脚から処理していく。

 だが、今は全て頭を一撃で切り裂いている。


 それ故か今では5匹だろうが6匹だろうが相手取れるようになっていた。


 これは俺が強くなったからか、はたまた相棒のこの剣が鋭くなったのか。

 俺はじっくりと相棒を眺めると、薄っすらと魔力が宿っているのが見て取れた。


 ん? これは最初から宿っていたのか? それとも俺の魔力が流れているのか?

 そこで更に見つめていると、これは俺自身の魔力だと分かった。

 魔力の質が俺のと同じように見える。


 そこで身体強化を解いてみた。今では身体強化を解除しなくても、1日中使い続けられるほど魔力が増えた。


 久々に解除すると剣の魔力は消えず、ゆったりと魔力を纏っていた。


 多分だが俺の魔力を徐々に吸収して、剣に宿っていったのではと推測した。


 これは頼もしい。

 今までは意識せずに使っていたが、これからは意識して魔力を注いで使っていこう。


 これは魔剣だ。そう決め付けて、魔剣と共に更に魔物を屠ることにした。



 そうして意識して魔剣に魔力を注ぐようにしてからか、更に切れ味が増し、魔物を屠る速度が更に上がっていった。

 そろそろ進化しても良いと思うのだが、ベビースケルトンから進化してから時間が掛かっている。


 進化とはそんなに簡単じゃないのか、普通はどのくらいで進化するのか、そこら辺の知識が全くないから、外に出たら色々と学んでみたいものだな。


 だから今は進化を繰り返し人間と変わらぬ肉体を得る為に、もっともっと魔物を殺していこう。



 そうする事どのくらい経ったか、ここに居ると本当に時間の概念が無くなる。

 日がないと駄目だなと思いながらも、肉体の疲労がないから延々と狩ってしまう。

 休む時は精神的に疲れ、注意力が散漫になってきた時くらいだろうか。


 だがそれも慣れてきて、休まずに狩り続けることが出来るようになってきた。


 そうして延々と狩っていると、少し色が変な蟻が出てきた。

 おれは即座に実力を見抜き警戒する。

 こいつはそんじょそこらの蟻とは強さの次元が違うだろう。

 そう警戒してると…


 信じられないスピードで一気に迫ってきた。


 おれは咄嗟に盾を突き出すがすぐに悪手だと気付いた。

 この蟻は体格が普通の蟻よりもデカイ。

 軽く盾を通り越し俺にまで牙を届かせるだろう。

 そこですぐに盾を引くが、一気に俺の左腕ごと盾を噛み千切られた。


 しまった。 俺を守ってくれていた盾だけでなく左腕すらも一瞬で散ってしまった。

 俺は一気に身体強化を引き上げて、この化け物から距離を取るが、それに負けない速度で迫ってくる。

 ここは細い道に誘い込むしかない。


 5分ほどだろうか。全力で逃げていると、ようやく目的の場所に着いた。

 そこでおれは反転して迎え撃つ。


 蟻の化け物は構わず向かってくる。そこで壁にぶつかった瞬間に牙の片方を切り落とす。

 だが構わず突き進んで来る蟻に、今度は脚を切り飛ばそうとすると、何やら魔力の揺らぎを感じた。


 そこで後ろに急いで飛び退くと、さっきまで居た足元に氷の槍が突き刺さっている。


 こいつ、魔法を使いやがる!


 これはここで後ろに引けば魔法で狙い撃ちにされる。

 ならば近距離で一気に片を付ける!


 魔剣に魔力を更に注ぎ、身体強化もこの一戦で全ての魔力を使い果たしても良いほどに引き上げていく。

 そしてまた蟻に迫るが、また揺らぎを感じ、だが嫌な予感がして今度は思い切り伏せた。


 シンッと音がしたと思ったら、左右の壁一面に1本の線が刻まれていた。

 これだ! この魔法で俺の腕を盾ごと切り落としたんだ。

 危なかった。あのまま後ろに飛んでたら今頃俺の体は真っ二つになって死んでいただろう。


 俺は背筋がぞっとしながらも、恐れず更に踏み込んでいく。

 ここで臆病風に吹かれていたらあっという間にあの世行きだ。

 俺はこの化け物すらも超えて行かなければならない。


 さあ、化け物よ。死合おうじゃないか!


 また見えない刃を放ってくるが、この真っ暗な洞窟でずっと過ごしているうちに、すでに魔力の流れを見る事が出来ている。

 一度見てしまえばもうどこに飛んでくるか分かる。


 俺はそれを体勢を地面スレスレに這うように駆け抜けて交わし、脚を纏めて数本切り飛ばす。

 左腕が無くなりバランスを取るのが難しいが、なんとか乗りきった。


 機動力のなくなった蟻が氷の槍を飛ばそうとするが、蟻の体に特に魔力が濃い場所がある。

 俺はそこを目掛け、一気に剣を突き刺した。


 作られ発射されかけていた氷の槍が、その場に落ちていく。

 きっと魔力を巡らす器官を壊したのだろう。

 もう動けず魔法も使えない蟻など恐れるに足らず。

 情けは無用とばかりに、すぐに頭部を切り裂いた。


 そこで大人しくなった蟻から魔石を取り出した。

 それは今までの蟻よりも二回りは大きい。

 俺は嬉々としてそれを貪った。


 何かの変化は感じ取れた。今までは魔力だけが入ってきていたが、今回は魔力の質がいつもと違うものを感じる。


 そこで目の前の化け物蟻の死骸に、剣を振り下ろす。

 するとパカッと切り裂けた。

 だが剣は当たっていない。これはこの蟻が使っていた真空の刃だ。

 なんとなく魔石を喰らった時に出来そうだと感じた。


 身体強化もそうだが、何かのスキルを得た時は本能で何が出来るか分かるのだろう。


 そう思ってると失った左腕が再生された。

 久々のレベルアップだ。

 このレベルアップの恩恵が無ければ俺はどこかで死んでいただろう。

 だがこうして生き残っている。これからも強くなって生き残ってやる。


 こうして俺は、盾を失う代わりに強力なスキルを授かった。


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