33話 再戦

 俺はドラゴンゾンビを足止めする必要があると判断し、またドラゴンゾンビの元へ行く事にした。

 倒せないのは分かっている。だが何とかこの戦いで何かを見出せればこの先に活かせると思い、またあの鼓動高鳴る場所へ向かおうと、強さへの渇望を隠さずに嗤った。


「まずは準備運動がてら雑魚共を減らそうか」


 俺はそのままドラゴンゾンビの元へは向かわずに、雑魚共を大量に殺すことで経験値を得る事にした。


 そこで俺はドラゴンゾンビの背中に埋めた俺の血の魔力が無くなっていない事を確認し、今持っている魔力が尽きるまで、数万の魔物共に広範囲魔法を撃ちまくって大量に虐殺し経験値を稼ぐ事にした。


 魔法を一発撃つ毎に俺に経験値が入ってくるのが分かるほど大量に殺せている。

 その感覚に心地良さすら感じながら無差別に魔法を撃ちまくった。


 たまに上位種が生き残りこちらに向かってくるが、そんな奴を一匹や二匹相手にしているよりは、雑魚を大量に狩った方が効率がいいので、ある程度片付いたらすぐさま転移してまた広範囲魔法を放つ。

 それらを数時間は繰り返しただろうか。


「そろそろ魔力が無くなって来たな。ならば行くとするか!!」


 俺はまたあの熱き戦いに胸の鼓動が高鳴るのを感じ、ドラゴンゾンビの背中へ転移した。


 景色が変わり足元を見ると、想像通りの場所にいた。


「帰って来たぞトカゲ野郎!!」


 俺はそう言うなり挨拶代わりに、前と同じように腕が壊れる程の一撃をドラゴンゾンビの背中に放つ。


グギャァァアアァアア!!


 不意の痛みにドラゴンゾンビがのたうち回る。

 それを俺は器用に乗りこなしながらドラゴンゾンビの血肉を貪り魔力を回復させる。

 そこでドラゴンゾンビが寝返りを打ち、俺を地面に叩きつけようとするので、丁度良いとばかりに少し距離を取り、血の目印を辺りに巻き散らす。


 俺の姿を見たドラゴンゾンビがまたお前かというように、一瞬の動作の後に口を大きく開いた。


「来た! ドラゴンブレスだ!!」


 その一瞬を見てすぐさま転移し、強力無比なドラゴンブレスをドラゴンゾンビの背中に乗りながら見送った。


 (なるほど……こうなっているのか)


 俺は初めてまじまじとドラゴンゾンビの背中からドラゴンブレスが放たれるのを見て、あまりの威力に舌を巻いた。


 (ああ……この破壊力が俺にもあれば……)


 そんな無い物ねだりをしてしまうがそれも仕方のない事だろう。

 ドラゴンブレスの放たれた後には文字通り跡形もなく全てが消し飛んでおり、残るは穿たれた大地と全てが蒸発した煙だけが漂っていた。


 その破壊力に惚れ惚れとしながらも、俺は油断しているドラゴンゾンビに向かってまた現状で出来る最高の一撃を放つ。


グギャァァアアァアア!!


 またもや悲鳴を上げるドラゴンゾンビ。だが放ったそばから驚異的な再生が始まるので、いつまで経っても勝負は付かない。

 しかしこいつを殺すのは無理な事は分かっていたので、足止めに徹する事にする。


「だがただ単に足止めするのは癪だ。なんとしてでもこいつを殺せる何かを掴んでやる!」


 そう気持ちを新たにドラゴンゾンビとの死闘……ドラゴンゾンビには蚊との戦いかな? が始まった。

 しかし早々に変化は起きた。


「くっ……俺がこいつを殺せるだけの物が何もないと気付きやがった!!」


 ドラゴンゾンビは今までのパターンではなく、がむしゃらにそして執拗に俺を狙うようになった。


 今までは背中の一撃の痛みで警戒しながら戦って来ていたが、それ以外ないと分かったのか、今では牙や太い四肢、それに尻尾にたまにドラゴンブレスと、依然と攻撃方法は変わらないが持てる全てを防御なしに、がむしゃらに振るって来るようになった。


 俺はそれに対処するべく、大地ごと吹き飛ばされ消えてしまった血の血痕を何度も作り直し、危なくなればすぐに転移しながら戦い続ける。

 しかしお互いに決定打が出ないまま丸一日は戦っていただろうか。

 夜になってもお互いが魔力が見えるせいか、その勢いは落ちる事がなく、陽が昇っても戦い続けた。


 しかしここで俺に思わぬ事が起きた。


「ぐあっ!? ……ちぃっ!!」


 俺が転移した場所を狙い打ってドラゴンゾンビが強烈な尻尾を振り回してきていた。

 それに転移後、気付いた時にはすでに避ける事は叶わず、だがなんとか掠る程度で済んだのだが、装備していた鎧やローブが弾け飛んでしまった。


 そこから俺の動きが急激に鈍る。なぜなら俺の肉体は光の耐性が弱いからだ。

 日に当たった肉体から煙が立ち昇り、俺にじくじくとした嫌な痛みを与え続ける。


 俺は一旦離れて予備のローブを着なおしてまた戦いに戻るが、それを見ていたドラゴンゾンビが俺のローブを執拗に狙って来た。


「ちっ! 小賢しい!!」


 思いのほか知能の高い腐ったトカゲに俺は苛立っていた。

 それが良くなかったのか着なおした予備のローブをまたもや牙に引っ掛け破かれてしまい、肌が日の元に晒された。


「ちっ……この太陽の光から来る痛みってのが耐えられなくはない程度の痛みってのも腹が立つ!!」


 激痛ならば転移して逃げようとも思うのだが、逃げる程の痛みではないという中途半端な痛みにストレスがどんどんと溜まっていく。


 だがそんな戦いを数時間もしていれば次第に慣れてくるもので、俺はその痛みすら楽しむようになっていた。


「戦いの興奮が痛みで更に増していくとはな!!」


 俺の知らなかった一面を見る事が出来てますますこの戦いが楽しくなっていった。

 その俺の心とは反対にドラゴンゾンビのストレスが溜まっていっている。

 そこでドラゴンゾンビが今までしなかった行動をした。


「おっと、ドラゴンブレスか。危ない危ない……なっ!?」


 それはドラゴンゾンビが連発でドラゴンブレスを放ってきたのである。


 俺は完全に虚を突かれ避け損ない半身を失ってしまう。


「くっ……油断した……ブレスなら背中に転移だろうに!!」


 俺はなぜ背中に転移しなかったと後悔するが、すぐさま剣士屍体ソードゾンビ亜種・アナザーの時からの種族特性「生への渇望」を引き継いでいた為に、急速に失った身体を再生させる。


 一瞬勝ったと思っていたドラゴンゾンビが目を見張っていた。

 だが俺はその隙に身体が再生したのを確認した次の瞬間にはドラゴンゾンビの背中へ転移し、今までの比ではないほどの威力な一撃を放つ。

 それは背中の腐った部分だけでなく鱗まで破壊するような威力を誇っていた。


グギャァァアアァアア!!


 幾度となく上げてきた悲鳴よりもさらにデカい悲鳴を聞きながら、俺はすぐさま再生される腕でもって更に打撃を加える。


 俺の再生力とドラゴンゾンビの再生力、どちらが高いか勝負とでもいうように、何度も何度も打撃を放つ。


 あまりの痛さに堪え切れなくなったドラゴンゾンビは延々と身体を転がし続ける。


「ちっ……こうなると手が出せねぇな」


 30m以上はあろうかという巨体が高速で転がってくると、どうにも手の出しようがなく、血銀十剣ミスリルブラッディソードでもって斬り付けるが、やはりそれでは威力が足りずに無意味に魔力を消費するだけだった。


 やがて俺の中の魔力が尽きてしまい、「生への渇望」が切れると、急激に身体が重く感じた。


 そこからは転がるのを止めたドラゴンゾンビの背中に転移して魔力を補給しながらまた打撃を加え、たまに弾き飛ばされ「生への渇望」を発動させながら戦い続けた。


 だがやはり決定打が生み出せないまま、とうとう時間切れが来てしまう。


「はぁ……はぁ……ん? ……あれは」


 遠くの空から何やら複数の魔力が近付いてくるのを感じそちらを見やると、黒い靄のようなものが見えた。


 それを確認する為にドラゴンゾンビから距離を取り眼に魔力を集中して視力を上げて見てみると……


「……あれは……ドラゴンの群れ? ……いや、人が乗ってるな……もしや飛竜部隊か?」


 ふとシャレード王が言っていた飛竜部隊の事を思い出し、俺がほぼ丸二日もドラゴンゾンビと戦っていたのだと知る事が出来た。


 俺は丸二日も決定打が出せずにいたのにショックを受けるが、いつまでもここに居る訳にはいかない。

 そこで最後に足止めをしといてやろうと考え、俺は一つの案を思い付く。


 (ようし……やってやろうじゃないか!)


 俺は早速それを実行する為にドラゴンゾンビの背中へ転移した。

 それが最後の攻撃とばかりに俺は、血銀十剣ミスリルブラッディソードの10本と俺の持つ1本の大剣を一本の巨大な大剣に変え、ドラゴンゾンビを地面に突き刺せるほどに巨大にしようとした。

 さすがにそこまでは大きく出来なかったが10mは優に超える程に巨大にした血剣ブラッドソードを俺は飛び上がりながらドラゴンゾンビの背中目掛け思い切り突き刺した。


グギャァァアアァアア!!


 今までで最大の痛みに悲鳴を上げるドラゴンゾンビ。

 だが俺はさらにその巨大な剣が抜けない様に剣の形を変える。

 それはドラゴンゾンビの内部から飛び出るように無数の棘を剣から飛び出させた。


グギャァァアアァアア!! ギギャャァァアアァアア!!


 その叫びは地の彼方まで聞こえるかと思う程の叫びで、飛竜部隊にも届いていそうな程だ。


 俺は役目は終わったとばかりに全ての魔力を使い果たしながら、飛竜部隊の強さを見るために、ドラゴンゾンビが見えるギリギリまで転移してそこから更に移動した。

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