第30話 生活の困窮

オムたちはエルサルバドルのジャックの施設と思わしき建物の上空までドローンの車に乗ってやって来た。ジャックの施設の近くに3階建てのモーテルがあったので、その屋上にドローンの車を停めて武器に弾丸を込めて施設に突入する準備を進める4人だった。路上や店の駐車場に停めておくと盗まれる可能性があるので安全策をとっているのだ。


モーテルの屋上からロープを降ろし、一人ずつ下に降りていく。夜23時過ぎなので辺りは真っ暗だ。この地域ではドローンの車はそれほど走っていない。道路を走っている車のほうが圧倒的に多かった。


オム「施設はあれだ。行くぞ」

オムがモーテルと横のビルの間から顔を出して、みんなに合図を出した。一斉に4人で走り出して施設への突入は決行された。


施設の入り口のドアは施錠されているがハンドガンでカギの部分を撃ち抜き4人は中へ忍び込んだ。ジャックがいる施設は思ったより小さい建物で2階までしかない。

2階建ての建物の内部に侵入し、薄暗い廊下の奥へと進んでいくと地下へ降りる階段があった。1階や2階の建物は住居のようなので4人は地下に降りることにした。


地下に降りるとそこには研究所があった。広い空間には、VR機器を操作するためのカプセルがいくつも並んでいる。たくさんのパソコンと測定器のようなものがある。

よくわからないが何かの機器がたくさんあった。電動工具やディスクライト、手術台まである。間違いなく、ここが闇改造している施設だ。


ポテトがカプセルの近くに足を踏み入れると警報ブザーが鳴り出した。驚きながらも4人はカプセルの陰に隠れることにした。


ポテト「ヤバイ!見つかったら殺される」


シュガー「ジャックたちがやって来たら、事情を説明するしかないですね」


マック「そもそも話し合いでなんとかなる相手じゃないだろ」


オム「まずは様子を見ようぜ」


警報ブザーの音で複数の人間が駆けつけてくる足音が聞こえてくる。カプセルの後ろに隠れたままオムたち4人は入り口のほうを偵察している。


駆けつけて来たのは、白衣を着た老人と全身にタトゥーが入った若者2人、そして、もうひとりは子供だった。


白衣を着た老人が叫ぶ「誰だ!出て来なさい!」


全身にタトゥーが入った若者が施設内を二手に分かれて不審者を探しはじめた。子供は白衣の老人と一緒に入り口の近くで立っているだけのようだ。


マック「なんか4人とも弱そうだな。ジャックは現れていないようだが?」


オム「侵入する建物を間違えたのかな?」


シュガー「それはないでしょう。確かにここは研究所になっていてカプセルまでありますから・・・」


ポテト「これならアイツらの前に出て行って、話し合ってもよくないか?」


オム「そうだな」


オムは白衣の老人に話しかける。


オム「あんたがジャックを闇改造した博士か?」


白衣を着た老人がギョッとした顔で驚く。小刻みに震えてるようだ。横にいた子供が老人の前に出て、オムを睨みつけている。老人を守ろうとしているような素振りである。


シュガー「僕たちは話し合いに来たんです。何か事情がありそうですね。話を聴かせていただけませんか?」


マック「オレたちはVirtual Stadiumで戦っている傭兵だ。オレたち4人はプレイヤーなんだ。ジャックの素行の悪さが今、酒場の傭兵たちの間で問題視もんだいしされている。闇改造の完成度は評価するがトーナメントでそれを使われたらオレたちも困るんだよ。わかるだろ?」


白衣を着た老人「ま・・・まぁジャックの性格は荒っぽいからの。闇改造をほどこしたのは事実だ。そして、2035年に死にかけたジャックを再び蘇らせたのは、この私だ。私の名前はスティーブだ」


オム「スティーブ博士、死にかけた人間を生き返らせた技術は凄いが闇改造でトーナメントで勝ち上がるのはやりすぎなんじゃないの?

オレたちもイベント以外なら口出しする気はなかったよ」


スティーブ博士「確かにやりすぎた部分はある。しかし、この町では食うに食えず、飢えて死ぬ人間が多いのだよ。この町を守っているのは私たちのチームなのだ。トーナメントで一気に勝ち上がって、上のランクに行く必要があるのだ。そのためにジャックが必要だった」


オム「ジャックはそんなことまったく考えているようには見えなかったぜ。ただトーナメントに勝って、可愛い女を抱きたいだけにしか見えなかったよ。まるでさかりのついた犬みたいになっていたけどな」


オムたちとスティーブ博士が話し合っているところへ全身にタトゥーが入った若者2人が戻ってきた。スティーブ博士が状況を説明して、全身にタトゥーが入った若者2人は研究所から出ていった。一緒に子供も連れて行き、研究所にはスティーブ博士とオムたちだけになった。


酒場で暴れたことやお嬢様チームのリーダーであるレモンとバーカウンターのAIを仲介させて交換条件を成立させたことなどをシュガーが説明した。さらに2回戦で負けたモーゼのチームがゲーム会社へ直談判じかだんぱんして、ジャックの闇改造のことを告げる予定となっていることも、すべて話した。


スティーブ博士「確かに私のやり方が悪かった。ジャックには闇改造した武器を使わせないようにしよう。私がアイツを説得するから今日のところは帰ってくれないか?酒場での交換条件の成立も無効にしよう。トーナメントには出させてくれ。不正なしで正々堂々と戦うから。このとおりだ。頼む」


オム「わかった。条件を飲もう。でも、せっかくここまで来たんだ。ジャックに会わせてくれよ」


スティーブ博士「それはムリだ。あんたたちが立ち入れるのはここまでだ」


最後にスティーブ博士が言ったひと言が気がかりだったが問題が解決に向かったのでオムたちは帰ることにした。そして、そのことをいち早くリンダに伝えるのだった。

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