第47話 隠された事実

川沿いにある洞窟の中でジャックが1機の小型ドローンを飛ばした。ジャックが破壊した遠隔型戦闘用アンドロイド(E-01H)に付属した非常用コントローラーを代用して小型ドローンを偵察に使ったのである。


ジャックは両手でコントローラーを持ち、器用に小型ドローンを操作する。小型ドローンは木々をくぐり抜けて空高く飛び、森を抜けてエルサルバトルの街のほうへ飛んで行った。


ジャックは右手についていた武器を外して、倒したイーワン(E-01H)の右手を自分の右手として付け替えたのである。災害の救助活動や危険区域での活動ができるようにイーワン(E-01H)のアームは付け替えがしやすいように設計されているのであった。


地下に研究所がある施設の1階の窓を突き破り、小型ドローンは地下にある研究所のほうへ進んでいった。


研究所のドアはジャックがミサイルを撃ち込んで壊したときのままである。室内は薄暗くて誰もいない。小型ドローンの映像を暗視カメラに切り替えて研究所の机にあったノートパソコンを小型ドローンのアームでキャッチすると自動操縦に切り替えてスタート地点へ戻るようにジャックは小型ドローンの進行する空路を設定した。


ノートパソコンを持った小型ドローンが帰って来るまでジャックは他の小型ドローンを改造して、次の戦いに備えることにした。


ジャック「おお!無事にオレのドローンが帰ってきた。嬉しいぜ」


ジャックは両手で小型ドローンをキャッチするとノートパソコンをアームから外して、要らなくなった遠隔型戦闘用アンドロイド(E-01H)のボディの上にノートパソコンを開いて置いた。


予備のスティーブ博士のノートパソコンはオンラインの状態である。電源はイーワン(E-01H)から取っている。第七世代セブンジェネレーションの通信技術では通信が途切れることがまったくなかった。


ジャック「こんな川沿いの洞窟でもネットが繋がる。ありがたいねぇ♪」


ジャックはスティーブ博士が使っていた予備のノートパソコンを使ってインターネットにアクセスした。

今、街の状況がどうなっているのかを知り、逃走ルートや戦いに有利になる地形を考えていた。がさつな性格の割に用意周到である。


スティーブ博士が作った仮想世界とVirtual Stadiumがある仮想世界だけでは現実がどうなっているのか知る由もなかったのでインターネットの情報から正しい歴史を学び始めた。


2030年以降に「世界政府」が誕生したこと、それはAI政府が中枢にあり、各国の政治活動はどんどん縮小して政府機関に所属する人間はほとんどいなくなったことをジャックは初めて知った。


まるでまったく違う未来の地球を体験するような衝撃である。


ジャック「なんだこれ(笑)。じゃあオレが戦ったイーワン(E-01H)はAI政府の差し金ってわけか。てっきり米軍だと思ってたぜ。


いや、待てよ・・・・。そんなに違いはないだろ。今でも政府機関に所属している人間はいるわけだ。そいつらはきっとまともな人間じゃない」


世界の貿易のルールが大きく変わっていることや人間が労働を手放したことはスティーブ博士が作り出した仮想世界でもおおむね変わりはなかった。


ジャックがインターネットを観ているとブラウザの拡張機能のところに共有ファイルのタグが表示されていた。それをクリックするとIDとパスワードが求められたが、IDとパスワードはノートパソコンが記憶していたのでそのままジャックはログインのボタンをクリックした。


共有ファイルにはスティーブ博士がこれまでやってきた研究の一部が記録されているのだった。その中にある画像フォルダーには右手がなくなったジャックが血だらけで倒れている画像やジャックの頭皮を切って頭蓋骨を割っている画像が入っていた。そして、電脳容器サイバーボトルにジャックの脳を入れてフタをしてコネクタを機器に繋いだ画像とスティーブ博士がこの研究について解説している動画があった。


ジャック「なるほどね。貧困に喘ぐ人々を救済するための手段というわけか」


爆発的な人口の増加によって食糧不足が深刻な問題になり、それを解決するための1つの手段として電脳容器サイバーボトルへの脳の移植と仮想世界での自由な暮らしである。その成功体験をしたのがジャックというわけだ。


ジャック「今見ても画像に写っているオレって男前だよなぁ。博士もやってくれるぜ」


血だらけで体がバラバラになった自分の姿を見ても自画自賛するジャックの自己肯定感は揺るがなかった。

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