第6話 ゴスロリのリンダ

ゲーム会社のイベント告知があり、勝ち抜きのトーナメントが始まった。

酒場にいる傭兵たちのリーダーが次々にエントリーしていく。


A~ZブロックとA'~Z’ブロックまでの空欄がすべて埋まった。

頂上決戦はA側とA’側の勝ち上がってきたチーム同士のぶつかり合いである。


壁側の一番奥の丸テーブルで談笑するオムたちの横に座っていたチームがAブロックの最初のチームだったようだ。

トーナメントに出場するため、5人のメンバーは立ち上がり酒場を去ってく。丸テーブルの席が空くとすぐに迷彩服を着た男が席を取りにきた。

迷彩服の男は仲間に連絡して席を確保したことを告げる。その男の動きがなんだかやけにテキパキしている。


どこからともなくその男の仲間と思わしき迷彩服を着た男たちが3人ぞろぞろと集まってきた。


1つの席に酒とワイングラスと灰皿とロウソクを用意しはじめた。

赤いテーブルクロスの上に乗せられた金色の灰皿と金色のロウソク立てがピカピカに輝いている。


ロウソク?はて、なんだろう?


オムたちはその男たちの様子を興味深く、じっと見つめていた。

人混みのほうからコツコツコツとヒールを履いた女の足音が鳴り響く。そして、物静かに男たちが用意したワイングラスと灰皿が置かれた席に座った。


オムたちのすぐ横の丸テーブルにはゴシック・アンド・ロリータ(ゴスロリ)のコスプレをした黒い衣装の女が座った。


ポテトが思わず口走った「ゴスロリのリンダだ!」

ミールがポテトの頭をコツいてシーッと口に人差し指を当てて”だまれ”のポーズをした。

隣の席に座った女の黒い衣装は15世紀のヨーロッパを彷彿ほうふつとさせている。迷彩服を着た男たちはゴスロリのリンダを囲むように席に座った。


ゴスロリの格好をした女が金色のロウソク立てに顔を近づけてロウソクの火を使って葉巻に火をつけた。

葉巻をひと口吸って恍惚こうこつの表情を浮かべ遠くを見つめている姿がなんだかすごくエロい。きっと現実の世界ではカプセルの中で電子タバコを吸っているんだろうなぁと気弱なシュガーが想像した。


黒い口紅、目元のアイシャドウは紫色、顔は真っ白である。何かすごいこだわりを感じずにはいられなかった。


酒場にはあまり現れないがゴスロリのリンダは有名である。リーダーというより女王様と云ったほうが正しいだろう。


リンダを囲むように丸テーブルに座っている迷彩服を着た男たちはリンダの子分である。子分たちはリンダの云うことをよく聞く忠誠を誓った親衛隊のような存在だ。


ゴスロリのリンダは強く、そして、美しい。戦略を緻密ちみつに計算して戦うタイプの傭兵だ。


この前、リンダのチームが競技に参加したとき対戦相手のチームのリーダーがVRスーツの体感度のダイヤルを標準に戻すのを忘れてしまい、VRスーツに刺激を与えるダイヤルをマックスにしたまま競技に参加してしまったそうだ。

AV好きで有名なこの男は、その日も競技が始まる前にAVを観ていたという。女を見ると見境がなく仮想でも現実でもエロがなければ生きていけない男である。そして、その日は体感度のダイヤルがマックスになっていることにまったく気づかず競技に参加していた。それというのもオプションアイテムを使って、壁に同化したまま戦闘の様子を見ていただけだったのだ。


他のメンバーに戦わせてリーダーは壁に同化したまま戦況を眺めていたがそこにゴスロリの格好をした美しいリンダが横を通り過ぎたため、その美貌びぼうに魅せられてたまらず後ろから抱きついてしまったという。


これが悲しい男のさがである。


対戦相手のリーダーがリンダの胸を後ろから鷲掴わしづかみにして「うぉ!スゲー感触」と叫んだそうだ。このとき、対戦相手のリーダーはやっと自分のVRスーツの体感度の刺激のダイヤルがマックスになっていることに気づいた。


怒ったリンダが対戦相手のリーダーを振り払って、ガトリングガンで撃ち抜きトドメに手りゅう弾を放っている。


その一部始終を見ていた酒場の傭兵たちは大爆笑していた。しかし、対戦相手のリーダーは現実の世界でVRスーツの体への刺激が強すぎたために痙攣けいれんをひき起こして動かなくなり、そのまま病院送りとなってしまった。


後日、ゴスロリのリンダはカプセルで警察に事情聴取され、それがデジタル週刊誌に珍事件として載せられることになった。


現実の世界でもリンダは美しく、カプセルの中ではタンクトップとパンティだけの姿でVRスーツを着て戦っているそうだ。汗をかいて蒸れるのがイヤということらしい。


本名はせられていたが住んでいる地域はデジタル週刊誌によってバレてしまった。仮想世界だけではなく現実世界でもリンダのファンは多い。


リンダの子分たちは、リンダの命令にそむいたときに太ももで首四之字固くびよんのじがためをされる。

親衛隊のような子分たちはそれを”ご褒美”と云って喜んでいるそうだ。


このチームの結束力けっそくりょくは強く、なかなかの手強いチームである。

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