第7話 競技場の控室

トーナメントが開催されてA側とA’側で同時に競技が行われている。

酒場に集まった傭兵たちは自分たちが出場する参加している側のトーナメントでどのチームが勝ち上がっていくのかを興味津々で見ていた。


酒場は夜中になっても傭兵たちの歓声で活気づいている。競技場にいる一般客たちも自分たちの代役を務めるチームがトーナメントで戦っているのを見て、興奮して立ち上がって応援しているようだ。1回勝つだけでいつもの物資の3倍の報酬である。これは是が非でも勝ってほしい。どのチームのスポンサーもそう願っていた。


夜中にも関わらず気づけば競技場の観客席は満員だ。


このイベントでは有名な動画配信サイトとゲーム会社がコラボしてトーナメントをライブ配信している。パソコン画面で見るとライブ中継の枠の横にコメント欄があって、視聴者のコメントがどんどんヒートアップして流れてゆく。


夜中の3時になって、やっとオムたちの出番が回ってきた。酒場から出て、オムが左腕のボタンをクリックすると競技場の控え室にメンバー全員がワープした。


5人がそれぞれメイン武器、サブ武器、スペシャルウエポンを組み合わせて、戦闘の準備を整える。


気弱なシュガーが云う「トーナメントの一回戦から気を抜かずにしっかり勝ちにいきましょう!」

シュガーはメイン武器を射程距離が少しだけ長い標準に近い武器を装備し、サブ武器はタッチ爆弾を選んだ。スペシャルウエポンはシールドバリアである。一定時間、ダメージを受けない。攻撃はできないが時間を稼ぐのに有効である。

いかにも保守的なヤツが選びそうな武器をすべて選んでいる。


シュガーの焦り具合をみて、ミールとポテトが笑った。


競技は5分の制限時間があり5分以内に相手を全滅させるか、もしくは生き残った人数が多いほうが勝ちの判定になる。同じ人数が生き残った場合は再試合となっている。

正規品ではないオプションアイテムの「壁と同化」「壁のすり抜け」「相手の影に入る」も認められている。


この件に関しては、後で運営側とゲーム会社が揉めるのではないかと酒場で待機していた傭兵たちがざわついていた。


競技場の控室でマックは相変わらず無口で淡々とライフルの照準をチェックしている。マックは長距離射程の武器が得意でどこかの高台から寝そべった状態で敵を狙撃するいわゆるスナイパーだ。そして、マックが使うサブ武器は決まってセンサー爆弾なのだ。

せまい通路を通らないと辿りつけない高台を陣取り、後ろから来た敵をセンサー爆弾のトラップに引っ掛けて爆破しライフの半分を削る。


サブ武器は一発では倒れないのでなんとか敵はマックのところにやって来るが後ろの爆発音で敵が来たことがわかるとマックは身を隠して、敵が現れるのを待つ。

マックを探して敵が現れた瞬間、狙撃して倒す。これがいつものパターンである。


ミールがポテトに質問する。「あんた、今日は何の武器使うの?」


ミールはメンバーと武器がかぶるのを嫌うクセがあった。気分屋のポテトは毎回、武器を変えて来るので先に聞いておきたかったようだ。


ポテトはとぼけた表情で答えた。「別に一回戦ぐらい武器が被ってもいいだろ。どうせ勝つんだし。とりあえず調子を確かめるためにショットガンにするよ」


ミール「まぁ呆れた。あんたエイムアシストがないと敵に弾が当たらないから散弾銃で撃ち散らかすつもりなのね。辺り一面、穴ボコだらけにするつもりなんでしょ」


オムがポテトをフォローする。「いいじゃん。ポテトの好きなようにやらせてあげなよ」


ポテトは本当に照準を合わせるのが下手だった。ミールの指摘はあながち間違いではない。

シュガーはオムの装備を見て驚く。「ま・・・まさかスペシャルに白球で行くつもりなの?オム」


オム「えっ?ダメ?これ結構、オレの中でいい必殺技なんだけど・・・」

ミール「オム、あんたリーダーなんだからふざけたスペシャル使ってんじゃないわよ。トーナメントの戦いで粉で相手を倒すとか失礼じゃない?」


そう言いながらもミールは失笑してしまった。ポテトも思わず笑ってしまった。


白球と呼ばれるこの球体の中には本当に白い粉が入っているだけなのだ。しかし、この白い粉も強力な武器である。


白球を壁や地面に叩きつけて球を割ると粉が空中に舞い上がり銃を発砲したときの火花で粉塵爆発を起こすことができるのだ。


もし敵が寄り集まっている状態であれば一気に全滅させることができる。


競技場の控室、トーナメントの1回戦はどうやらオムのチームは本気ではないようだ。

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