第8話 競技が始まる

いよいよオムたちのチームの出番が来た。

控室の隅っこにある輪っかが光を放った。これは競技する施設へのワープスポットである。


ワープスポットの輪っかが光ると競技施設への入場が可能になる。1人ずつ光の輪っかの上に立ちワープしていく。


オムたちが競技施設の東陣のスタートラインに立つと場内の観客席から歓声が沸き起こった。イベント用のスポットライトが眩しい。

競技場の3つのモニターにそれぞれの顔のアップが映し出されている。この特別感の演出がプレイヤーたちに緊張とプレッシャーを与えている。


ミールはトーナメント用に買ったピンク色のセクシーなコスプレ衣装を着て、グラビアのようなポーズをキメてウィンクした。

観客だけではなく酒場でモニターを見ていた傭兵たちも歓声を上げた。


対戦相手が西陣のスタートラインに次々登場していく。また競技場にいる観客たちが歓声を上げた。仮想世界の競技とはいえ現実世界で物資が手に入るかどうかの賭けなのだ。戦いはみんな真剣である。


2030年まではあった先進国、新興国の垣根は2040年にはほぼなくなっていた。

第三次世界大戦後にもテクノロジーは発展を遂げ、先進国が作り上げたテクノロジーは新興国に共有され、先進国が通ってきた技術革新をスキップしてどの国も同水準の技術を使えるようになっている。


全人類で30億人ほどに減少した人類は食糧と物資をできるだけ貴重な資源として確保するために仮想世界の競技場で物資を賭けて戦うことにしたのだ。


ゲームに勝ったチームとそれを支援する国や街や団体に物資が配られる。

社会主義の一面と資本主義のような競争原理、どちらも取り入れた形となっている。


地球にある限りある資源は人類にとって貴重な資産である。2020年まで資本主義経済で食糧や資源を使い尽くした後、世界は食糧や資源が枯渇しているために労働をできるだけひかえて、自宅でVRゲームをするようになっていた。これは各国の政府の意向である。


仮想世界は有用で現実世界のオフィスでやるようなことはすべて可能となっている。

AIが講師となって授業をやる数学、英語、国語、社会は正確で説明がわかりやすかった。仮想世界で出会った人同士が言葉を教え合うこともある。


設計や会計、事務所の受付対応、不動産や貴金属の販売までAIがおこなっていたり、それらの企業の会社員が仮想世界で対応している。

消費者側はVRゴーグルとVRスーツを着用しているため、仮想世界であっても商品の品質をリアルに体感できるので購買意欲がき買い物をするようになった。もはや常識といっても過言ではない。


2040年では世界で規定があり、国ごとに業種や企業数が定められていた。今、営業している店舗や会社は国に認可を得たものだけなのだ。

企業が売上によって独自に店舗数を増やすなどの展開はなく、客が多くても少なくても左右されることなく一定水準のサービスを提供することが義務づけられていた。


現実の世界は灰色に色褪いろあせているので人々は仮想世界の競技場で繰り広げられる戦闘に熱狂しているのだ。

現実の世界は生きにくく、生まれたときから不幸なことはよくある話だ。

誰かの代役で戦うことを選んだ傭兵たちも一人ひとりにそれを選んだ理由があり、変えられない過去と希望のない未来に絶望しているのだった。しかし、ゲーム会社が与えたもうた、この世界には希望があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る