第44話 囁き

スティーブ博士が目を覚まし助手のオリビアと共に第七等級セブンスオフィサーに案内されて秘密基地の研究施設を訪れた。初日に研究施設の前の廊下を通ったが実際に研究施設の中に入るのはこれが初めてだ。


博士と同じく白衣を着た研究者たちが何人か滞在していた。彼らもまた何らかの専門知識を持った博士であることは彼らの雰囲気から容易に想像がついた。


スティーブ博士「これから私は何をすればいいんだ?」


第七等級セブンスオフィサー「博士がやったジャックの脳だけを瓶詰めにしてイーワン(E-01H)に繋いだ技術は本当に素晴らしいと思います。それをぜひここで再現して欲しいのです」


スティーブ博士「う~ん、なるほど。しかし、あの容器を作るのに必要なデータはすべて私の研究所に置いて来ている。一旦、家に帰る必要がありそうだな」


オリビア「その心配は不要です。エルサルバトルの博士の研究所からあらゆるデータをこちらに移してあります。容器を作る場合は、ここにいるエンジニアに設計図を渡して指示を出せばいつでも作業に取り掛かることが可能です」


スティーブ博士「では、まず電脳容器サイバーボトルから作ってもらおうか。しかし、被験者がいなければ作っても意味はないが・・・」


第七等級セブンスオフィサー「すでに被験者になりたいという候補者はたくさんいますよ。世界中で死刑が確定した犯罪者をこの地下にある秘密基地に集め、丁重に彼らを扱っています。

脳を容器に移すことやイーワン(E-01H)に搭載することは彼らの望みでもあります。死刑になるよりは生きていたい。そう誰もが思っているのです。そして、その望みを叶え、さらに力を与えることができるのは博士だけなのです」


第七等級セブンスオフィサーの目は輝き、人間の脳を搭載する戦闘用アンドロイドの技術に人類の明るい未来を見出しているようだった。


スティーブ博士「いや、待ってくれ!死刑が確定しているような犯罪者を戦闘用アンドロイドに搭載すればジャックと同じ結果になるんじゃないか?

私は、ジャックの暴走を止めるために軍に協力を依頼されたはずだ・・・。

今から私がやろうとしていることはそれとはまったく逆のことになってしまうじゃないか」


オリビアは興奮して軍への協力を拒もうとするスティーブ博士の胸にそっと右手を添えて優しく話しかけた。


オリビア「博士。ジャックにも犯罪者たちにも最初からモラルはありませんよ。彼らは人を殺すことをなんとも思わない。自分が生きるため、生存するためなら手段を選ばない人種なのです。ジャック専用のイーワン(E-01H)には遠隔操作や非常停止の機能がついていませんがこれから作るイーワン(E-01H)には、その機能をつけることができるでしょ。


これからの兵士は体を鍛える必要がなく、痛みも感じない。ただ目的を遂行することだけを考え、実行することができる。そう、ジャックのように。


AI政府はそんな素晴らしい兵士を望んでいるのです。私は博士がそれを実現すると信じていますよ」


スティーブ博士「お・・・おお、そうか。AI政府の望みであるなら私の研究は間違いではなかったということだな」


スティーブ博士は戦場で壊れていた戦闘用アンドロイド(E-01H)を改造し、精鋭部隊に暗殺されかけて八つ裂きにされたジャックの脳を電脳容器サイバーボトルに移して、脳だけを生きながらえさせた過去を思い出しながら、どこか後ろめたい気持ちを抱いていたがオリビアの言葉によってスーッと心の中に引っかかっていた後ろめたさが浄化されていくのだった。


この日から数日の間に人間の脳だけを入れる専用の容器「電脳容器サイバーボトル」の製作が始まった。


秘密基地に常駐しているエンジニアたちと一緒にスティーブ博士の新たな挑戦が始まったのだった。

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