第43話 A側の決勝戦

Virtual Stadiumでは、オムたちとリンダ様のチームが激闘中である。中央の高台を占領したリンダ様は子分をおとりに使いながら容赦なくガトリングガンを撃ち放っている。


葉巻を咥えたまま360度回転しながら弾丸の嵐を浴びせるその姿は正気の沙汰とは思えないほど荒れ狂っていた。


黒いドレスを着て、ローファーの靴を履いて何もしていなければ凛とした美しい女性の雰囲気を漂わせているが片足を台の上に乗せてガーターベルトとショートストッキングが丸見えになったまま太ももをさらけ出してガトリングガンを撃ち放っているリンダ様の姿は狂気そのものだった。


壁に隠れながら逃げ惑うシュガーやポテトの姿を見て、リンダ様は高らかに笑った。


一方、もうひとり狂気に走る人物がいた。ミールである。リンダ様の子分ペッチを壁際に追い込み、レーザーポインターの照準をペッチの額に合わせたまま一歩ずつ近づいていく。ペッチは壁に背中をくっつけたまま逃げ場を失いアタフタと左右に体を動かしながら焦っていた。


ミール「もう逃げ場はないよ。私とサシで勝負しな!」


ペッチがミールの声に驚いて、銃を向けたがミールは素早く身をかがめて引き金を引いた。ペッチが1発撃つ間にミールは何発もペッチの体に弾を当てていく。ペッチのライフはなくなり姿を消した。


身震いしながらミールが叫ぶ「き・・・気持ちいい♪」


とうとうミールはトーナメントのA側の決勝までサシ勝負のガンスリンガーをやり続けたのだ。かなりの中毒症状である。自分のライフがゼロに近づけば近づくほど勝ったときの快感は増していくのであった。


本当にギリギリの接戦のときに勝つとミールは白目を向いて痙攣けいれんしていた。それを後日、酒場で仲間と酒を飲んでいるときに武勇伝として語るのがミールにとっての至福のひとときである。これが生きがいなのだ。


シュガーとポテトはモッチと本丸の挟み撃ちに合い苦戦していた。リンダ様が追い打ちをかけるように弾丸の嵐を浴びせて来る。


リンダ様がチャージしてガトリングガンを連射しようとしたその時、ズッパーン!とリンダ様の肩に強烈な一発の弾丸が当たった。序盤から中盤にかけて物静かに動きを見せなかったマックがライフルで射程距離ギリギリのところから狙っていたのだ。


さらにもう一発リンダ様に命中した。リンダ様はスペシャルウエポンのバリアを張って高台から降りて姿を隠した。


モッチと本丸の連携プレイに苦戦するシュガーとポテトだったがオムが加勢したことによって形勢は逆転した。オムは両手に持ったデザートイーグルでモッチと本丸を撃ちながら流線のようなスピードで華麗に障害物をかわして敵に近づいていく。


あまりの圧倒的なスピードに動体視力が追いつかない。モッチと本丸が銃の照準を合わせきれず弾を撃ってもオムにはまったく当たらなかった。


中盤までは接戦だったが終盤はオムたちのチームが優勢になり、リンダ様のチームに勝利した。


酒場ではA側の決勝を見ている傭兵たちがどちらのチームが勝つか仮想通貨を賭けて盛り上がり、オムたちのチームが勝つことがわかると賭けに勝った傭兵が席から立ち上がって喜ぶのだった。


お嬢様チームのレモンたちはどちらのチームにも友好的でありたいので静観して見守っているようだ。


現実の世界では、エルサルバドルの街近郊から森のほうへの立ち入りが禁止になり完全に封鎖されて包囲網が作られている。それが警察ではなく軍が介入していることもあって近隣の住民は不安がって街を出ていく者もいた。


古くからこの地域に住む杖をついた長老が「森のたたりじゃ」と云って遠くを見つめているがその声に耳を傾ける者は誰もいなかった。














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