第11話 戦闘狂のオム

中央の建物内でシュガーは現在地にポイントを立てたのでだいたい敵がいる位置がわかった。

シュガーが立てたポイントのすぐ近くに敵が集まっている。


オムは中央の建物に通じる土管からノリノリで乗り込んでいった。

建物内部に通じる土管の出口から飛び出し、潜入して奥へ進むとミゼラの後ろ姿が見えた。


オムは直線的にミゼラに近づいていく。射程距離に入るとメイン武器のデザートイーグルでミゼラを撃ち抜く。

ミゼラが走り出して逃げていく。オムはそのまま撃ちながら追跡する。


オムが装備しているのはやや標準に近い武器で威力があるため4発当たったミゼラのライフは半分以下になった。


ミゼラは距離が離れた場所から照準を合わせて当ててくるオムにあせりを感じた。


ミゼラ「いくらおとりで照準を合わせやすかったとは云え、エイムにブレがない。何者なんだ・・・アイツ」


ライフが予想以上に減ったのでインラインスケートのダッシュボタンを押して、ジェット噴射のハイスピードでミゼラは土管の下をくぐり抜けていく。


オムも同じくインラインスケートのダッシュボタンを押してジェット噴射を使って、ハイスピードで追跡する。


オムが土管の下をくぐり抜けるとそこには誰もいなかった。目の前にいたはずのミゼラの姿はない。しかし、それでもオムはスピードを維持したまま広がった空間を疾走した。


”ここが敵をおびき寄せたかった場所”であることはすぐにわかった。


オムは広がった空間の反対側の壁まで一直線に走り抜け、土管の上に飛び乗り、壁を垂直に駆け上がる。

するとオムの姿が見えた瞬間に撃ち放っていたモルトたちの4発の追跡ミサイルは次々と壁に激突していった。


モルト「ま・・・まさかけたのか?」


モルトの口は半開きになり驚きを隠せないでいた。真上から放たれた4発の追跡ミサイルを振り返りもせずに、そのまま反対側の壁を垂直に駆け上がってかわすなど考えられなかった。


いくら仮想世界とはいえ敵の動きがアクロバティック過ぎる。モルトはオムの動きに異質なものを感じ取った。


壁を垂直に駆け上がったオムはインラインスケートのジェット噴射が切れた瞬間にもう一度ボタンを押してジェット噴射させた。それと同時に壁を思いっきり蹴って空中に飛び出した。この間、敵の姿は一切見ていないが追跡ミサイルが飛んできた方向から敵の位置はある程度、把握できた。


オムは空高く舞い上がり、体をひねりながら自分が来た壁の方向へ向きを変え、伸び切った体勢のままメイン武器のデザートイーグルを構えた。


ジェット噴射の力で浮遊落下しながらオムが目線を向けた先には土管の上に座った4人の敵の姿が見えている。


オムは「やはり、そこに居たか」と予想通りの場所で待機していた敵たちを次々とデザートイーグルを連射して撃ち抜いていく。


オムの動きに見とれてまったく身動きがとれなかった4人はなすすべもなく次々と撃ち抜かれていった。


ミゼラとセラはライフが半分以下だったため3発ずつ当たって、ライフがなくなり姿が消えた。現実の世界のカプセル内でVRゴーグルを外して、「やられたー」と叫ぶセラとミゼラであった。


バークと小鉄が落下しながら撃って来るオムに応戦する。しかし、体を水平に伸ばしきった状態の的が小さすぎたために弾がまったく当たらない。


ましてモルト以外はメイン武器がサブマシンガンのためまったくオムの体に弾を当てることができなかった。


バークが叫ぶ「チクショー!」

小鉄「なんだ、アイツの動き。まるで俺たちの居場所がわかっていたようだ」


落下しながらバークと小鉄に弾丸を3発ずつ当てたオムは地面に着地した。


一番上の土管にいたモルトが追跡ミサイルを放とうとしたが、さらにその上の天井近くの土管からそれを見ていたシュガーがボルトアクションピストルで素早くモルトを2発撃ち抜いた。


モルトは目を見開いた。あまりの不意打ちに度肝を抜かれたようだ。


モルト「うぉ!オレより上に誰かやがった」


モルトが上を向くと土管に誰かが頭を引っ込める陰が見えた。逆上したモルトが上の土管によじ登り、シュガーを追いかける。

シュガーが居た土管に入って反対側の出口のほうへ進み、土管の出口のところでモルトは何かの四角い物体に触れた・・・。


シュガーが装備していたサブ武器のタッチ爆弾である。


モルト「あっ・・・」


ドーン!激しい爆発音と共に土管は崩れ、モルトは消えた。シュガーのメイン武器のダメージとタッチ爆弾のダメージでライフがなくなったのだ。

一気に形勢逆転して、モルトのチームはバークと小鉄だけになった。


バーク「ヤバイ!囲まれているのは俺達のほうだ。一旦、ここは引くぞ小鉄!」


統制がとれた小隊はモルトの指揮によって成り立っていた。中央で勝負をかけたモルトの戦略は間違いではなかったがシュガーの用意周到な準備と予想をはるかに上回るオムの攻撃パターンに小隊は翻弄ほんろうされてしまったのだ。


バークと小鉄はそれぞれ近くの土管に入り、シュガーやオムが入ってきた出入り口の方向へ走り出した。


パーンという銃声が聞こえ、バークに銃弾がヒットする。


バーク「クソー!二手ふたてに分かれるぞ小鉄」


もはやリーダーの片腕だったバークに冷静さはない。ライフがあと残りわずかしかなくあと2発の銃弾でゲームオーバーである。敵をみつけて倒すという余裕はまったくなかった。


東西の土管ではなく南北の窓枠のほうにバークと小鉄は分かれて走り出した。北側に走り出したバークは、後ずさりしながらボルトアクションピストルで威嚇射撃をしてくるシュガーをみつけた。さっきの銃弾はコイツのものだ。


バーク「あのヤロー!」と口走りながらサブ武器のドローン爆弾を飛ばし、さらにスペシャルウエポンの追跡ミサイルも発射した。

北側の窓枠のほうへ後ずさりしていたシュガーは東側へ走って逃げていく。バークはメイン武器のサブマシンガンを連射しながらもシュガーを追いかける余裕はないので目線だけシュガーを追いかけて北側の窓枠のほうへ走っていった。


シュガーの後ろ姿を目で追うのをやめて正面を向くと北側の窓枠からライフルを構えているマックがいることに気づいた。


長距離射程の武器を装備しているヤツがまさかそんなところで待機しているとは思いもしなかった。バークは意表を突かれた。


バーク「ウソだろ・・・・」


ズッパーン!

長距離射撃の名手マックが豆粒ほどの大きさにしか見えないほど離れた距離にいるバークを撃ち抜いた。ライフルで撃ち抜かれたバークはその場で姿を消した。


マックが装備しているメイン武器のライフルは威力が強く敵のライフを3以上減らすことができるのだ。しかし、一発撃つごとにチャージする必要があり、そのチャージ時間の間に敵に倒されるリスクがあった。


仮想世界の競技場を運営しているゲーム会社の意向で長距離射程の武器には撃つまでにチャージ時間が設けられている。これによって短射程武器との不公平感をなくし、武器にバリエーションを持たせて面白い展開を作ることができるようになったのだ。


仮想世界の競技場 『Virtual Stadium』はゲーム性がより豊かになり、世界中の人々が熱狂するゲームにまで成長を遂げることができた。

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