第9話 策士の罠

オムたちが東陣のスタートラインに横一列に並び、相手のチームは西陣のスタートラインで横一列に並んでいる。観客席の歓声が鳴り止まない。


控室から競技施設へワープして登場するとそこには見渡す限り、無数の土管がジャングルジムのように散りばめられていた。

ここがAI(人工知能)によって数千種類以上の中から選ばれたオムたちが戦うフィールドである。


施設の四隅と中央に白いコンクリートでできた建物がある。その建物には窓枠があるが窓はない。射撃にはうってつけの建造物である。


土管は建造物の内部に繋がっているものがいくつもあった。建物の四方八方に土管が繋がっている。


上を見上げると高い場所にも同じように施設の四隅と中央に白いコンクリートでできた建物があった。土管は縦にも横にも斜めにも無数に辺り一面にある。


土管のジャングルジムのような施設が今回の競技フィールドとなっている。


相手のチームのリーダーはモルトという名前の男で頭がキレるとウワサがあり、なかなかの戦績を持っているようだ。

モルトはメイン武器にショットガンを装備し、サブ武器はドローン爆弾である。スペシャルウエポンは追跡ミサイルとなっている。


チームのメンバーはバーク(男)、ミゼラ(女)、セラ(女)、小鉄(男)である。

モルト以外のメンバーはメイン武器がサブマシンガンでサブ武器はドローン爆弾を装備している。スペシャルウエポンは追跡ミサイルとなっている。中射程距離に非常に強い武器構成を選んでいる。


観客席の後ろにある3つの巨大モニターがカウントダウンを始めた。

「3」「2」「1」「GO!」の合図と共に開始の警笛が鳴り響く。


傭兵たちが一斉に飛び出してインラインスケートのダッシュボタンを押して爆発的に加速して土管の上を滑走していく。

信じられないほどのスピードでオムたちのチームもモルトたちのチームも一気に前進して中央に向かっていった。その姿はまるで一筋の光が流れているようだった。


観客席から見た傭兵たちの姿は、いくつもの光が流線を描きながら流れているように見えていた。動きが速すぎて動体視力が追いつかないほどのスピードだった。


何人か土管に滑り込んで入っていく。1人は上の土管に、1人は地面スレスレの土管に、1人は北側の建物に通じた土管にそれぞれが分かれて物凄いスピードで進んでいった。


そんな機敏な行動をしているにも関わらず傭兵たちはチャットで連絡を取り合いながら戦略を立てているのであった。


競技が開始すると相手のメンバーの武器構成が確認できるようになり、それを踏まえて自分たちのチームがより有利な状況でコマを進められるように戦い方を考える。オムたちの戦略家は気弱で保守的なシュガーである。頭脳プレイで戦略を組み立てるのが得意だ。メンバーもシュガーの戦況判断と戦略に一目置いている。


相手の武器構成を確認したシュガーがみんなにチャットを送る。

シュガー「相手チームのリーダーだけがメイン武器がショットガンでサブ武器とスペシャルウエポンはチーム全員が同じものを使っているね。これはきっと戦略的に仕掛けてくるつもりなんだよ。みんな用心してね」


シュガーがみんなに注意を促した。


ポテト「マック、配置についたかい?」

マック「ああ、スタンバイOKだ。敵はまとまって行動しているようだ。中央の建物に気をつけろ。もし1人でも建物の外に出たらオレが上から狙撃する」


ミール「相手のリーダー以外はメイン武器が中射程っていうのが厄介ね。とりあえず中央の建物の窓枠から手りゅう弾をお見舞いしてやるわ」


相手のチームも移動しながらチャットをしている。

モルト「よし、みんな配置についたか?」

バーク「いつでもOKだぜ。小鉄はいけるのか?」

小鉄「ああ、心配ない。あとは敵が近づいて来るのを待つだけだ」

ミゼラ「私が合図を送るわ」


地面スレスレの土管を進んだポテトが中央の建物の中に出てきた。建物内部は意外と広い。辺り一面にある土管のすき間から相手チームの女の傭兵がいるのが見えた。


ポテトがショットガンをところ構わず撃ちはじめた。散弾銃が当たった土管がバラバラと崩れ落ちてゆく。

ショットガンの銃声と土管が崩れ落ちて叩きつけられる音がだんだん自分のほうへ近づいて来るので敵チームの傭兵セラが逃げ出した。それをポテトがすかさず追いかける。


中央の建物は広くて大きい。四方八方に土管があり、その土管は競技施設内に張り巡らされた土管のどこかにつながっているようだ。

建物内の土管は、うまくつたっていけば天井の方まで上がっていけそうである。


ポテトがインラインスケートのダッシュの機能を使った。

一気に距離を詰めるとセラが土管の下をくぐり抜けて行くのがすぐ目の前に見えた。ポテトも迷わず土管の下をくぐり抜ける。その先には少しだけ空間が広がっていたが人影がなく誰もいない。


ポテト「おかしい。確かに目の前にいたはずだ・・・」


上を見上げると複数の人影が見えた。


ポテト「・・・・!?」


ミゼラが合図した「今よ!」その瞬間、四方から追跡ミサイルがポテトめがけて飛んで来た。


しまった!罠だ!と気づいたが遅かった。2つの追跡ミサイルをかわしたが後の2つはかわし切れずにまともに当たってしまった。


追跡ミサイルは激しく爆発した。


ポテトが叫ぶ!「うぁー・・・・」


スペシャルウエポンに当たれば一発で即死である。ポテトのライフはゼロになって姿が消えた。VRスーツを着たポテトの本体はスペシャルウエポンのダメージでカプセルの中で痙攣している。


腰に装着している装置を外して、その場に倒れ込んで悔しがった。

ポテト「くそー!開始してすぐにスペシャル4発も撃ってきやがったー」


ポテトの本体が現実世界で拳を握りしめて床をバンバン叩く。


どうやらモルトのチームは最初にスペシャルウエポンを容赦なく撃ち込んでオムのチームの戦力を削る作戦に出たようだ。


モルトの策略にまんまとハマってしまったポテトである。最初に逃げ出したセラは単独行動ではなくおとりとして敵を誘導していたのだ。

ターゲットをおびき寄せて土管をくぐり抜けた先にある広い場所で集中砲火するのが目的だったのである。


スペシャルウエポンはとっておきの武器のため「ここぞ!」というときにしか使わないが、その固定観念をくつがえし、モルトは最初にスペシャルウエポンを仲間と連携して四方から1人の敵にぶつけてきた。

初動で敵チームの戦力をぎ落とし、有利な立場に立とうとしているのだった。


相手が予想できない戦略を展開する。まさに策士である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る