第5話 サプライズ

仮想世界の競技場は特別なことがない限り、24時間ずっと競技が開催されている。


競技にエントリーして待機しているプレイヤーのところに対戦相手が入ってくれば、AIによってフィールドがランダムに選ばれて、すぐに競技がスタートする。

勝ったチームと地域には物資が支給されるので傭兵として雇われたプレイヤーたちは起きている時間は、酒場に集まるか、競技で戦うかのどちらかである。


ほとんど一日を競技の時間に費やす戦闘中毒もいる。そういう奴はだいたい2つか3つぐらいのチームを掛け持ちしている。


傭兵たちは国や地域や団体の代役なので要望があれば他のチームに所属することも可能である。

ただ自分が所属しているチーム同士が対戦することになったときは非常に気まずい。長く所属しているチーム側のメンバーの戦略や使っている武器を熟知しているため新しく所属したチーム側にそれらの情報をリークする可能性があるからだ。


自分が所属しているチーム同士が対戦すると競技終了後に酒場で言い争いが勃発ぼっぱつすることがよくある。最悪の場合はチームから追放されてしまう。


よほどの戦闘中毒でない限りチームの掛け持ちはやらないほうがいい。それはみんなリスクとして理解していた。


現実の世界で夜になった頃、仮想世界の酒場に1人の若者が入ってきた。

多くの傭兵たちでにぎわう酒場は活気であふれていた。若者は人混ひとごみをかき分けながら奥へ進んでいく。


奥の隅っこの角に丸テーブルがあり4人の仲間が座っているのを見つけると若者は嬉しそうに声をかけた。


「やぁもうすぐ始まるね」と酒を片手に持った若者は言った。


色っぽいコスプレをした女の子が「遅かったじゃないか、オム」と応える。

若者は照れながら席に座り「ごめん、寝坊しちゃって・・・」と笑顔で返した。


いつも楽しそうな雰囲気の若者オムと色っぽいコスプレをしたミール、気弱でガリ勉なシュガーと太っちょで力がありそうなポテト、それと物静かなマックが集まった。


このチームのリーダーはオムだった。米国の田舎町で雇われた傭兵たちである。

米国の田舎なので資金はそれほどなく、なんとか施設を作って5つのカプセルを用意するのがやっとだった。


現実でも仮想世界でもつながりがあるチームは珍しい。


施設内でも5人は仲良くやっている。チームワークが良くて最近の戦績はまずまずの勝率で順調である。


他のチームは現実の世界では、チームメイトがどこの誰だかわからないことが多く、現実世界のことをお互い干渉することはあまりない。

都市や街になれば1つの地域に施設がいくつもあり、カプセルの数も多く、プレイヤーもたくさんいる。


自分たちが住む街でたくさんプレイヤーを育てたほうがより多くの物資が得られるため、最近の傾向としてはプレイヤーが組織化しはじめていた。


大企業がプレイヤーを育成していたり、プレイヤーが集まって組織化したり、競技に勝てば物資が得られるというルールが世界に与えた影響は大きい。


そのシンプルで単純なルールを大人たちは利害を絡めて複雑なものへ変えてゆくのであった。どうやら資本主義を手放してもその名残なごりが残っているようだ。


人間はどこまでも愚かで貪欲どんよくである。


それがVirtual Stadiumで人々を熱狂させている一因になっているのだろう。そして、その火に油をそそいでいるのがゲーム会社のサプライズ企画だ。


深夜0時にイベント告知があった。


『競技場で勝ち抜きトーナメントを開催する!希望者はエントリーされたし!』


酒場にいた傭兵たちはみんな立ち上がって歓声をあげた。歓喜かんきの声が地響じひびきのように響き渡る。


イベント報酬は1回勝てば3倍の物資が得られ、2回勝てば6倍の物資が得られる。

エントリーして1回でも勝てば十分な報酬ということになる。


そして、最後まで勝ち残って優勝すれば参加する競技のグレードアップの権利が与えられる。今のランクに残るか上位ランクで戦うのかチームで話し合って選ぶことが可能となる。


通常の傭兵たちが戦っている競技から国が主催する競技への参加が認められるようになるのだ。国が主催する競技で勝てば今までもらっていた倍の物資が報酬としてもらえることになる。


傭兵たちにとって自分の名前を売り込むチャンスでもあり、たくさんの報酬をもらって自分を支えてくれた地域に還元するまたとない機会になっている。


トーナメントで勝ち抜いて優勝したチームはレジェンドになり、傭兵たちに尊敬されるようになる。

レジェンドになった傭兵に敬意を払って、戦利品の物資を献上けんじょうする傭兵がいるほどだ。


トーナメントは傭兵たちにとって名声を上げるチャンスなのだ。


今までの経験値、戦略、武器の熟練度じゅくれんどが試される。


目を輝かせながらオムたちは胸の鼓動を高まらせた。

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