第14話 傭兵たちの過去

2020年から米国とイランや中国が戦争を始め、それはやがて世界中の国を巻き込んだ世界大戦に発展し、泥沼化した戦争が完全な終戦を迎えるのに10年の歳月がかかった。

2030年以降に復興が始まったが全人類でも30億人程度しか生き残らなかった。


世界中が焼け野原となり、あらゆる産業を支えてきた技術基盤が失われてしまった。人々の失望感、絶望感は今も完全にはえていない。

戦争を経験した人々の多くはトラウマをかかえているのだった。突然、上空に現れる戦闘機と空を切り裂く轟音とどろきおんが戦争を経験した人々の頭の中でフラッシュバックする。


上空に戦闘機が飛びミサイルを撃ち込んでくる。そして、その後に続く輸送機によって敵軍の物資の供給と空挺降下エアボーンが始まり、瞬く間に住んでいる町が戦場に変わってしまうさまが”今まさに起ころうとしている”かのように記憶によみがえる。


過去に見た衝撃の光景が頭の中で繰り返し”再生”されてしまうのだった。ある者は自ら命を絶ち、ある者は酒に溺れる。ある者はドラッグに手を出し、ある者はセックス依存症になる。


復興が始まってからも過去がフラッシュバックして、頭の中が混乱し街の中で銃を乱射して建物に立てこもる事件が世界中で多発した。

10年続いた戦争が終戦したとしても”兵士”としてやってきた生活がいきなり平和な日常に戻れるわけがなく、日常の何気ない場面で頭の中が”戦闘モード”に切り替わることが戦争経験者であれば誰にでも起こり得ることだった。


世界大戦によって、あらゆる産業の技術基盤は失われたがクラウドコンピューターに保存されたデータによって人類の英知えいちはギリギリ保たれた。

ムダなものをはぶきつつAI(人工知能)によって技術の融合を行い、革新的で斬新な街が作り上げられた。


2040年、世界政府と世界秩序が作られ、すべての国はその権力の元、平定へいていすることとなった。


資本主義の名残りはあるが社会主義のようでもあり、欲しいものを得るためには仮想世界の競技場で勝たなければ物資は得ることができないというのが昔の世界との徹底的な違いである。

労働でお金を稼いだり、工場に勤務するという考えはなくなったのだ。国ごとに制限つきで生産業は存在しているがその多くはAI(人工知能)とロボットによるフルオートメーションで物品は生産されている。


仮想世界の競技場で戦う傭兵たちの中には戦争経験者が多くいた。家族を惨殺され、家を焼き払われ、捕虜となり、女はレイプされたり、性奴隷として扱われた者もいる。


消えない過去やトラウマを抱えながら仮想世界の競技場で物資を賭けて戦う傭兵たちと戦後生まれの次世代の若い傭兵たちが交錯こうさくする。


地球上にある資源の枯渇と食糧不足、水不足によって人類は仮想世界に溶け込んだ。それは現実逃避とも受け取れるがムダなものをすべて省いた結果、人々は頭の中だけで情報をやりとりする道を選んだのかもしれない。


もしかしたら世界政府が定めた世界秩序によって、人々が仮想世界へ溶け込んでいくことは決まっていたことなのかもしれないが・・・・。

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