第15話 ホログラフィー

トーナメントのA側とA’側の1回戦がすべて終了した。1回勝つだけで通常の競技の3倍の物資がもらえるとあって傭兵たちはふだん見せないようなチームワークを駆使したコンビネーションを編み出したり、オプションアイテムの多彩な使い方がみられれるようになっていた。さらにはモルトのような策士が戦略をどんどん新たに考え出して、相手チームを狩場ハンティング グラウンドおびき出す作戦も手のんだものになり戦いが激化していった。


オムたちは夜になった頃、酒場に集まった。出番が近くなったのでここで作戦会議をしながら2回戦に進んだチームの戦いぶりを観戦する方針だ。


壁側の一番奥のいつもの丸テーブルでオムたちは談笑している。ポテトは新しい情報が入ったのでさっそく仲間に伝えた。丸テーブルに身を乗り出してポテトが話す。


ポテト「このトーナメントの2回戦からメイン武器、サブ武器、スペシャルウエポンが新たに追加されるらしいぜ」


ミール「あら、いいじゃない。私、人と武器がかぶるの好きじゃないから嬉しいわ」

セクシーなコスプレ衣装を身にまとったミールが足を組んだまま、ワインの香りを楽しみながら応えた。


シュガーがミールに言葉を返す。

シュガー「どうして運営側は急に使える武器を増やして来たんだろうね?」


ミール「知らないわ。熱狂してる観客たちへのサービスじゃないの」

ミールはそう言いながら、「分からない」の身振り手振りをした。


オム「武器が増えたって云ってもあんまり使えそうなのはなかったけどね。スペシャルウエポンのホログラフィーは良さげだったけど」


マック「確かにホログラフィーは使えるな。自分が使うスペシャルウエポンとしてはいいが相手に使われるとメイン武器がライフルで敵を狙撃するオレとしては非常に厄介だ」


シュガー「確かにマックにとってホログラフィーは天敵だね。長距離射程から敵を一発で撃ち抜いてライフを削るのが仕事なのにそれがダミーってことになると戦況が大きく変わってしまうからね」


話を割り込むようにミールの素朴そぼくな疑問が飛び出した。


ミール「ところでホログラフィーって何なの?」

すかさずポテトがミールを冷やかす。


ポテト「えー!?知らないのかよ。このアナログ女」

ポテトが小バカにしながらミールをあざ笑った。このひと言でミールの怒りは一瞬で爆発した。


ミールはハンドガンを思いっきり振りかぶってポテトのおでこを殴った。ボコッという音と共に痛そうにおでこを両手で押さえてポテトはテーブルに顔をうずめた。


この光景はよくあることなので他のメンバーはそのまま話を続けた。馴染なじみのある空気のようなやりとりである。


シュガー「ホログラフィーは、自分の分身を作る装置だよ。鏡のように自分の姿を3Dで投影するんだ。薄っすらけているのと暗い場所でしか使えないという欠点はあるが、それは現実世界の話でこの仮想世界では、きっと明るい場所でも関係なく使えるようになっているだろうね。

ホログラフィーのけた感じも運営側に修正されて、くっきりと映し出されたものになっていると予想できる。そして、僕たちのアバターと見分けがつかないようになっているだろうね」


シュガーの予想は当たっていた。ゲーム会社が修正を重ねてトーナメントの2回戦から使えるようにしたスペシャルウエポンのホログラフィーはプレイヤーが使っているアバターと色の濃度が同じになるように調整されているのだった。


Virtual Stadiumのゲームで物資を賭けて戦うようになってからどんどんプレイヤーの数は増え、カプセルの売れ行きも良くなっていた。そして、VRスーツやVRゴーグルはいくら製造しても出荷が間に合わないほど売れ行きが好調だった。


24時間稼働してフルオートメーションの工場でロボットが働いても製造が間に合わないほどの盛況ぶりである。


工場はイギリス、アメリカ、中国と日本に拠点があり、人の労働者はいないがVRスーツやVRゴーグル、カプセルの売上は製造している国で利益が分配されている。


そのため町や村で使える資金が増えたためにカプセルの発注とプレイヤーのやとい入れが活発になってきているというウワサである。


酒場にいる傭兵たちの一部で流れているウワサの続きでは製造に上限があったはずなのにAI(人工知能)の規約プロトコルを強制的に解除した国があるという。


国単位でやっているのか、それとも大きな組織が関わっているのか真意はわからないがAIによって統括とうかつされたはずの社会で変化が起きていることは確かだった。


大きく何かが変わろうとしているがそんなことには誰も気づいていなかった。

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