第49話 悪と悪

エルサルバドルの街の上空を大型のドローンの輸送機が通りすぎていく。その輸送機は森の近くでゆっくりと高度を下げて着陸し機体の後ろのゲートが開くと中から数十体の戦闘用アンドロイド(E-01H)がぞろぞろと歩いて降りて来た。


1号~30号と肩に刻印が打たれた戦闘用アンドロイド(E-01H)が武器を持って森の中へ入っていく。その様子は一週間前にジャックが木によじ登って固定した小型のドローンによって撮影されていた。


には2機の小型のドローンが木の上のほうに設置されているのだ。

何度か派遣されてきた戦闘用アンドロイド(E-01H)が草木を蹂躙じゅうりんし、一箇所だけ草木が倒れて森の中へ入りやすくなっている場所があるのを見てジャックは『森の入口』と名付けた。


ジャックは自分が倒されるまで戦闘用アンドロイド(E-01H)が派遣され続けることを知っている。米国の政府のやり方がそうだったからだ。世界政府ができてAIがその中枢に位置し権力が移行してもやはり支配者、権力者の敵に対する扱い、報復というのは変わらない。邪魔者は駆除する。それだけである。


ジャック「森が揺れるほどの大型のドローンが飛んで来たと思ったら、やっぱりイーワン(E-01H)を運ぶための輸送機だったか。


しかし、今回のイーワン(E-01H)には肩に番号がある。

同じ機種なのに何か意味があるのか?」


ジャックは川沿いの洞窟でノートパソコンの画面を見ながらコントローラーを3つ、4つ並べて偵察機の小型のドローンを飛ばす準備をした。


森に入った戦闘用アンドロイド(E-01H)が2体、3体と分かれて茂みの奥へ進んでいく。ジャックが画面を見ながら小型のドローンを操作し敵の戦闘用アンドロイド(E-01H)の少し後ろから追跡し撮影する。

数体の内の1体のイーワン(E-01H)にターゲットを絞るとマーキングして自動で後方から追跡するように設定をした。これでいくつかのグループの行動が把握できるのだ。


3号「ほんとにこんな森の中にジャックは潜んでいるのか?」


腰の高さぐらいまである草木をかき分けながら3号がやる気のなさそうな口調で軍の指示に不満を云う。


5号「いるだろ、きっと。町中だったら目立ちすぎるからここに隠れているのさ」


4号「うわぁー、でっかい虫がいる!オレの体についてるんじゃないだろうな」


4号は慌てた様子で虫を払い除ける。イーワン(E-01H)が踊っているような変な動きをしながらピョンピョン跳ねて隊列を乱した。


5号「おい!4号、落ち着けよ。お前の体って感覚あるのかよ」


ジャックはノートパソコンの画面に映った4号の変な動きを見て違和感を覚えた。AIによる遠隔操作で動いているはずなのにイーワン(E-01H)が機体についた虫を慌てて払い除けているのだ。それはまるで虫嫌いの人間のような動きである。


ジャック(もしかして・・・?)


ジャックは勘づいた。これはスティーブ博士が軍に協力して作った部隊ではないかと直感として感じ取った。そして、その部隊は”人間の脳”を搭載した戦闘用アンドロイド(E-01H)であると想定した。


信頼していたスティーブ博士に裏切られたジャックはまた怒りがこみ上げてきた。AI政府側についたスティーブ博士が人間の脳を搭載した戦闘用アンドロイド(E-01H)を派遣して来たのだ。自分を討伐するために手段を選ばないが戦争が終わってから敵国に寝返ったジャックを許すまじと米国の軍の司令部によって新たに派遣された精鋭部隊に八つ裂きにされたの記憶と被るのだ。


第三次世界大戦は、祖国の政府に潜むスパイが戦争の原因を作ったであることをジャックは知っている。最初は2つ、3つの国が戦争を始め、それはやがて他の国を巻き込んだ世界大戦に発展した。


「正義と悪」ではなく、「悪と悪」の戦いである。生き残ったほうが正義に変わる。これが戦う人間の運命である。それが今も続いているのだ。

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