第37話 静寂な森
大型の飛空艇はどこからともなくやって来て、エルサルバドルの上空を静かにゆっくりと通り過ぎていった。そして、飛空艇が飛び去った後に
戦闘用アンドロイドの背中に取り付けられたドローンによって、300kg以上ある機体が遥か上空から浮遊落下してくる。
町の外れでジャックは機体の警報アラームとモニターに映った地図上の赤い点によってAI政府が遠隔操作している戦闘用アンドロイドが自分のほうへ近づいて来ていることを理解した。
ジャック「ちっ!なかなか早いじゃないか。敵は10体か・・・」
ジャックは辺りを見渡し、森があるほうへ走り出した。10体の戦闘用アンドロイドはドローンの浮力で町外れまで飛んで来ると背中に取り付けていたドローンを外した。
2030年まで続いた戦争で、軍隊は飛空艇からの物資や兵士の
より早く、より正確に目的地付近まで浮遊落下する。
ものすごい勢いで近づいてくるモニターに映った赤い点を見ながらジャックは焦っていた。
ジャック「戦うフィールドは森だ。まるで競技でフィールドがランダムに選ばれたような錯覚に陥るぜ」
ジャックはまだ現実の世界と仮想現実の世界の区別がはっきりしていなかった。それもムリはない。博士が作り出した仮想現実の疑似地球の中で7年も生活していたのだから・・・・。
脳だけの存在となったジャックは体の疲労を感じることがなかった。電気信号のやりとりだけで見える映像とアンドロイドの機体があるだけだった。
ジャックには痛点も存在していない。
あるのは欲望や快楽、恐怖、不安の感情である。脳だけの存在になっても人間は死を恐れ、生きようと
10体の戦闘用アンドロイドは森に入ると3方向へ分かれた。左右に3体ずつ分かれて進んでいく。残りの4体はまっすぐ直進した。
遠隔操作で動かしているAIたちはモニターに映る赤い点を中心に戦闘用アンドロイドの部隊を展開させた。
戦闘用アンドロイドが赤い点を囲むように近づき、それぞれが中心の赤い点から20m付近まで近づくと同時に動きを止めた。武器を構え、一瞬の沈黙の後、一斉に射撃を開始する。
戦闘用アンドロイドは両手にサブマシンガンを持ち、10体が同時に中心に向かって狙撃を開始した。この包囲網のどこにも逃げ場はない。
バババババッ!ババババッ!ババババッ!ババババッ!
銃声が鳴り止まない。まるでゲリラ豪雨に遭ったかのように静寂だった森の中は一変して激しい弾丸の雨が降り注ぐ。AIは標的を確実に仕留めるつもりだ。
弾丸が当たった木の枝や葉が宙を舞う。
情け容赦のない1分間の連続射撃が終わると戦闘用アンドロイドたちは中心の赤い点のほうへ近づいていく。まったく動かない赤い点のターゲットは既に死んでいるのかもしれない。
モニターに映る赤い点のターゲットを囲むように戦闘用アンドロイドたちが近づき、10体は隣にいるアンドロイドの機体とぶつかるほどの距離まで集まって来た。しかし、10体いるはずの戦闘用アンドロイドの姿がそこには7体しかなかった。
AI政府の本部で戦闘用アンドロイドが3体倒されたという報告が入る。遠隔操作でアンドロイドを動かしていた3つのAIは戦闘から離脱した。残りは7体である。
赤い点の周りに集まった7体の戦闘用アンドロイドたちに向かって、突然ミサイルが飛んで来る。それが1体に命中し激しく爆発して、近くにいた3体が爆発に巻き込まれ機体はバラバラになって飛び散った。残りは3体となった。
1体の戦闘用アンドロイドが3m先にある赤い点のターゲットを確認するために草木を
3体の戦闘用アンドロイドはキョロキョロと辺りを見渡したがジャックを搭載したアンドロイドの姿はなく、また突然ミサイルが撃ち込まれ3体のアンドロイドは爆発に巻き込まれ、機体はバラバラに飛び散った。
10体の戦闘用アンドロイドの部隊は全滅に終わった。かろうじて上半身だけが残った戦闘用アンドロイドがまだ動いている。
木の上から何かが落ちた音がする。ドスーン!
上半身だけになった戦闘用アンドロイドは振り返ったがそこには何もなかった。しかし、何者かに頭部を踏みつけられ破壊されてしまった。
遠隔型戦闘アンドロイドを操作していたすべてのAIが戦闘から離脱し、町で暴れていた戦闘用アンドロイドの正体は謎のままとなった。
部隊が全滅したことを確認して、ジャックが消していた姿を現した。
ジャックが搭載された戦闘用アンドロイドは博士が改造した特別仕様である。機体はカーボンが用いられ、接続部分はすべてステンレスが使われている。そして、周りの景色に同化する擬態の能力が備え付けてあった。
遠隔操作で動かす戦闘用アンドロイドでは不要な能力であるが脳を搭載したジャックには必要な能力だった。
ジャック「相変わらず博士の技術力は大したもんだ。負ける気がしないぜ」
ジャックは
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