13.宮廷魔法師になるため(1)
『評価』
それはこの学園における隠語の一つで、正式には『王国兵力部隊新規採用試験』という。
毎年宮廷魔法師が学園を訪れ、王国に就職を希望する学園生に対して試験をする、というものだ。
たしか去年は宮廷魔法師の用意した召喚獣と一対一で戦う、というものだった。
不正防止のため毎年担当の宮廷魔法師が変わり、誰が来るかは我々学生はおろか他の宮廷魔法師も知らない。
この学園の三年生であるボクもまた、『評価』を受けるために会場へと足を運んでいた。
幼いころからの夢である宮廷魔法師。それになるために、この評価は絶対にいい成績を残さなければならない。
基本的に、騎士団に推薦されるのは礼儀や規律があり、攻撃的よりも防御的なスタンスの戦闘か、集団で戦うことに慣れている者。軍に推薦されるのは攻撃的な戦闘スタイルか、全体を統率する能力のある者。
そして宮廷魔法師は、個のチカラだけで十分な戦力となり、戦闘スタイルは防御寄りでも攻撃寄りでもない者が推薦される。
たしかに、王国最強の兵力を持つのは騎士団か軍のどちらかだろう。だが、それぞれの『個』のチカラで比べると、最も戦闘力が高いのは宮廷魔法師だ。
『陽炎』や『龍喰い』、さらに『雷鮮』や『雹の花』などの異名持ちの魔法使いたちは、全員例外なく宮廷魔法師である。
つまり――将来それに肩を並べる可能性を見出されなければ、宮廷魔法師にはなれない。
毎年新たに採用される宮廷魔法師は多くても三人。そのうちこの学園が持っている枠はたった一つだけ。
今年この試験に参加するのは三十人強だから、狭き門だといえる。
ヨナが学園から居なくなったことで今学園最強の椅子は空席だが――
「どうしたのファリアちゃん。緊張してる?」
「あ、ああ。ボクだって緊張くらいはするさ。もう二度とないチャンスなのだからね」
「うーん、そうかもしれないけど――ファリアちゃんならきっと大丈夫だよ!」
友人のラナンがそう励ましてくれるが、ボクの緊張は全く解れてくれない。
当然だ。もう何年も宮廷魔法師になるために努力してきたのだから。
――大丈夫、チャンスは十分あるはずだ。
そう自分に言い聞かせていると、突如同級生たちの間にざわめきが広がる。
慌てて顔を上げると、エストラーラ教授が若い二人の人物を引き連れてこちらに向かってきていた。
二人のうち小さい方は見覚えがある。ヨナだ。
ほとんど話したことはないが、一度実習でチームになったことがある。その時、彼女の努力と才能の凄まじさを体感した身としては、彼女が勇者パーティーになったことは納得のいく話だ。今ここにきているのは、おそらく宮廷魔法師になったからだろう。となると今日の『評価』はヨナが――いや、それはないか。
『評価』に不正材料が紛れ込むのを王国の上層部は嫌う。だから、補佐としてヨナが着くことはあったとしても、メインの試験官はヨナではないはずだ。
となると、残るのはヨナの隣に居るあの男だけになる。
その男は温厚そうな顔をしており、少し見た目をいじれば女の子に間違われそうなほど中性的な顔立ちをしていて、身長はおそらく男性の平均よりも少し低い。歳はボクらと同じくらいだろうか。もしかしたら年下かもしれない。
ヨナとなにかを話しながら歩いている様子は、ただの学生にも見えなくはないが――何故かボクは直感的に、彼は『強い』と思ってしまった。
だが他の人たちはそう思わなかったようで、エストラーラ教授が「宮廷魔法師のキノアさん」と紹介したときに、そこかしこから侮りや疑う声が上がった。
それを聞いていたから、実力を示そうと思ったのだろう。
エストラーラ教授は杖を腰から抜くと、キノアとかいう男に向けて魔法を放った。
年老いたとはいえエストラーラ教授の魔法の威力は高く、それを知る生徒たちはキノアが哀れな姿に変わり果てるのを想像して声を上げる――が、それは杞憂に終わる。
キノアは魔法媒体も持たずにそれらを全て相殺すると、逆に鋭い氷の礫をエストラーラ教授に放つ。それは魔法によって防がれたが、今のだけでも彼が強いということが明らかだった。
普通、魔法の相殺なんてことは不可能だ。それをするためには魔法の威力や範囲、さらに込める魔力量までもを揃えなければならず、打ち合わせしていたとしても実現するのが難しい。だからこそ普通魔法使い同士の戦闘においては、魔法を防御するときには相手の魔法に相性のいい属性で対応する。
さらに、今のでキノアの魔法適正が多いこともわかる。
魔法は火、水、土、風、氷、雷、光、闇、回復という属性に分かれていて、基本的に魔法使いはこの中の一つか二つに適性がある。
三つ以上適性があると天才と呼ばれ、四つ以上で英雄となる、と言われている。
そしてエストラーラ教授の魔法適正は火、水、雷の三つで、先程の撃ち合いでもその三種類を使っていた。
一方のキノアはエストラーラ教授の三属性を同じ属性で相殺しただけでなく、氷も使っていた。
つまり彼の魔法適正は四つ。それだけで警戒するには十分だ。
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