3.乱入者……
「……どうしてこうなったんだろう」
執務室の棚に置かれた様々な道具を眺めている少女を横目に、僕はソファーに深く腰掛けてそう呟く。
あの式典の後僕はわざわざ大臣のところに赴き『勇者パーティーの魔法使い』のような有名人を僕のような静かに暮らしたい人のところには来させないでほしいと訴えたのだが、「勇者パーティーの希望は通すべきだ。それに、あの会場で『よい』と言ってしまった以上は覆せない」と一蹴されてしまったので、僕が泣く泣く執務室に帰ってきたところいつの間にか侵入を許してしまっていた。
「ねぇキノア。この機械はなに?」
「ああ。それは――って、何いるのが当然みたいな顔してるのさ」
「王様には許可を頂いてるから問題ないはず」
「さようですか……」
精神的な疲労感から溜息を吐く。どうにかして彼女を追い出す方法がないものかを考えるが、どれだけ悩んでも上手い方法が思いつかない。
物理的に追い出すのも手ではあるが、抵抗されて何か物が壊れたりでもしたら一大事だ。たしかにこの部屋にはガラクタも多いが、貴重な資料や機器などもたくさんある。
少女がなにかやばいものに触らないかどうか注意しつつ、僕は
万年筆でカリカリと資料を書いていると、いつの間にか背後に回っていた少女が僕の手元をジィっと見ていることに気が付く。
「君さ、僕が書いてるこれが重要機密とかだったらどうする気なの? これはただの資料だからいいけど」
僕がそう言うと、黒いローブのフードを被っているせいで表情が見えずらい少女は、抑揚の少ない声で反論する。
「わたしは王様の許可を得ているから問題ないはず」
「確かにそうかもしれないけど、重要な資料とかだったら困るんだよ」
「? わたしもこれから一緒に仕事をするから問題があるとは思えない。わたしが資料を外に漏らしたとしても、一緒に仕事するなら漏らすことにデメリットしかないからそんなことはしない」
「僕は君と一緒に仕事をする気はないよ」
どのレベルの知識があるのかもわからない人と仕事をするのは非常に大変だ。ただでさえやることはそこそこあるのに、相手のレベルの把握をするのに時間を使いたくない。というか、せっかく一人でこの部屋を好き勝手使っていたのに、人が増えたら僕の自由が無くなってしまう。
「そうはいってもキノアと一緒に仕事をするのが仕事だから」
「わかったわかった。じゃあ君はちゃんと仕事してるってことにするから帰っていいよ」
「そういうわけにはいかない。
あと『君』って呼ばないで。わたしにはヨナ・ウェストリンっていうちゃんとした名前がある」
「わかったよヨナさん。とはいえ僕の仕事でヨナさんに任せられるものはないから適当に本でも読んでて」
僕はそう言うと椅子から立ち上がって本棚から『新版魔術論』の初級編から上級編までの三冊と、『応用魔術論』の計四冊を引っ張りだしてソファーの前に置いてあるローテーブルに置く。
少女――ヨナはしばらく何も言わずにそれを見た後、プイっと視線を逸らして本棚から別の本を引っ張り出す。
「それはもう全部読んで理解してる」
「……へぇ」
初級編と中級編はかなりわかりやすく書かれているが、上級編と応用魔術論は軽い気持ちで読もうとしても何一つ理解できないほど難しいものだ。特に応用魔術論はかなり複雑な魔法に関する知識を前提として書かれていて、国立研究所の研究員が何年もかけて理解するほどのものだ。それを僕と変わらないくらいの年の人が理解しているというのはかなりすごいといえる。本当に理解できているのであれば勇者パーティーの一員として選ばれるのも納得だ。
「じゃあ、こういう魔法陣で作れる魔法がある。これを解読して、その効果とどの部分が魔法の何を構成しているかを答えてみて」
僕はサラサラっと近くにあった紙に魔法式を書いて、それをヨナに手渡す。ヨナは暫くそれをジィっと見た後、感嘆の声を漏らした。
「これすごい。ベースは火属性上級魔法『炎刃の舞』だけど、それに闇属性を与えることで火力が拡散しないようになってる。
部分で言うと、ここの部分が魔力の量によって刃の枚数を変更するようになってて、闇属性を付与してるのはここなんだけど、本来は火属性と干渉しないようにするための記号が省かれてて、代わりに二つの属性を示す部分を融合させることによって魔力のロスを最小限にしてる。そして魔法陣自体がかなりコンパクトになるように設計されてるから、さらに必要な魔力が少なくなってる。これを作った人は相当な実力」
「うん。大体合ってるよ。読んで理解したって言うのは間違いじゃなさそうだね」
最初は戦闘一辺倒で座学的な面では使えない魔法使いなのかとも思ったが、どうもそうではないようだ。
そこら辺にいる宮廷魔法師よりもいい働きをするのは確実だし、意外と使えるのかもしれないので適当に本を読ませておくだけではもったいない気がする。
手のひら返すのが早いと思われるかもしれないがそんなことはない。ただ思ったよりも使えそうだっただけだ。
「じゃあ……」
「キノア様!」
僕が口を開いたのと同時に勢いよくドアが開けられ、僕を大声で呼びながら
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