10.自己紹介から始めよう
ドランツ王国よりも標高が高いところにあるレーツェルは少し肌寒く、思わず身震いしてしまう。
それはヨナも同じだったようで、自分の二の腕をさすっていた。
「ここがレーツェルか……いいところだな」
「そっか、みんな初めてなんだね」
一年振りのレーツェルに懐かしさを覚えて目を細める。
マスターはわざわざクランハウスから少し遠い景色の良い丘の上に繋いだようで、二つの湖に沿うように並ぶ建物と、遠く広がるどこまでも続く山々が見渡せる。
ここレーツェルには大きな湖と小さな湖があり、大きいものは元からあったもので、小さいものはマスターが昔諸事情あって魔法を手加減なしにぶっ放した余波でできたものらしい。
……小さい湖とはいっても、人間からすれば十分大きいし、やっぱりマスターは頭おかしい。
「さて、景色を楽しんでもらったところでクランハウスに行こうか。少しかかるけど歩こう。たまにはハイキングもいいしね」
マスターはそう言うと、僕たちを先導するように歩く。
僕たちはそれぞれ荷物を持って、てくてくと着いていく。
歩くこと10分。街から少し離れたところにポツンと建つ大きな建物の前についた。
4階建ての大きな新しい建物。ここが、僕の育った二つの家の一つ、レーツェルのクランハウスだ。ちなみにもう一つのクランハウスはイナナス王国にあり、僕はそっちとここを行き来して生活していた。
「あ、やっと来た」
玄関の前ではエルナさんとアトリアさんが待っていた。
アトリアさんは赤い髪が特徴の大人しい人で、主にうちのクランの家事を担当してくれている。
……家事担当ではあるが、
「僕はちゃんと時間通りに動いてるよ。っと、みんなに紹介しなきゃ。この人はアトリア。家事担当で、食事の準備とか洗濯物とかしてくれる」
「はじめまして、アトリア・メンケントです」
「とりあえず部屋に案内しようか。他の人はどうしてるの?」
「訓練場で待ってるってさ」
「気が早いなぁ。まぁいいけどね。
じゃあ、とりあえず着いてきてよ」
マスターとアトリアさんに案内され、全員で中に入る。
アトリアさんの掃除してくれた部屋を一人一つ割り当てられ、荷物を置くと武器だけ持って一回の共有スペースに集まった。
全員揃ったところでマスターが転移門を開き、そこを通って向こう側へ行く。
トンを抜けるとそこは土を少し掘り下げただけの簡易的な訓練場になっていて、今レーツェルにいるメンバーが勢揃いしていた。
「お、やっと来たか。遅えぞメル」
「みんなキノアに会うの楽しみにしすぎでしょ」
「息子みたいなものだからな〜」
「たしかにそうですね。そのせいかみんなつい甘やかしてしまって……マスター以外」
「僕もちゃんと甘やかしたはずなんだけど」
「毎日ボロボロになるまで訓練させてそれは……」
「愛ゆえ、だよ」
「はいはい。お前の歪んだ愛の話はいいから、その子ら紹介してくんね?」
「あ、忘れてた。じゃあ一人ずつ自己紹介どうぞ! 名前と魔法適正、戦闘スタイル言ってね」
と、急にこっちに話を振ってきたマスターに、僕らは顔を見合わせて、僕の横にいたヨナから始めることになった。
「ヨナ・ウェストリン。魔法適正は水、雷、氷、回復、あとは特殊属性がある。戦闘スタイルは、近接から中距離までが主体」
ヨナらしい簡潔な自己紹介だ。
それに続いて、次々と自己紹介をしていく。
こちら側の紹介が一通り終わると、次は『紺色の霧』のメンバーの紹介に入る。
「俺はリギル・サジタリオン。精霊魔法をよく使うから、その辺の知識はあるぞ。戦闘スタイルは弓と魔法を組み合わせたもの……次」
リギルさんは青い髪のエルフで、頼れるクランのサブマスターをしている。このクランでは一番マスターとの付き合いが長く、精霊魔法に関してはマスターよりも断然上手い。
「じゃあ次はオレかな。名前はシャウラ・アンタレで、魔法適正は火と風と回復。戦闘スタイルは適当に大剣を振り回したり、火魔法で焼き払ったり。よろしく!」
シャウラさんは金髪に青い目で、大剣を振り回すにしては体が細いのが特徴。
「オイラはアル・ワズン、魔法適正は一応雷と光があるらしいけど、体質的に体の外に魔法を出せないから剣で戦ってるぞ〜。スハルは双子の妹な」
「……アルの妹のスハル・ワズンで、アルが言ったように、私はこの人の双子の妹です。魔法適正は水、雷、氷、光、回復の5つです。戦闘は完全な固定砲台的な感じですね」
アルさんとスハルさんは双子の兄妹で、二人とも特徴的な白い髪をしている。その辺は少しヨナに似てるかもしれない。ヨナの方は銀色っぽいけど。
で、アルさんはその体質的に一般的な魔法使いが使うような魔法が使えず、身体強化系統しか扱えない。その代わりに剣の腕は凄まじく、近接戦闘ではこのクランの人でさえ誰も太刀打ちできない。このクランの戦闘に関する項目で、マスターよりも強い部分があるのは彼とリギルさんしかいない。
その妹のスハルさんは、アルさんとは対照的にしっかり者で、典型的な後衛の魔法使いである。特に氷系統は抜きん出て強く、僕の氷魔法はこの人に教わった。
「じゃあボク。エルナ・イドミザール。魔法適正は全属性で、戦闘スタイルで一番得意なのは魔法を交えた近接戦闘だけど、大抵の立ち回りはできる」
エルナさんは、正真正銘の天才。最強と言われるこのクランでも全属性を持っているのはマスターと僕、そしてエルナさんだけだし、どんな立ち回りでも強い。マスターと一緒に魔王を倒したのはエルナさんらしいし。
「じゃあ、知ってると思うけど一応僕も言っておこうかな。
メル・フォルクス・メノウ。魔法は全属性使えて、特殊属性もあるよ。戦闘スタイルは特にこれといったものはないかな」
マスターは「よろしく〜」と軽いノリで言う。
『宝石の勇者』と、『星読みの聖女』と呼ばれるフォルクス=グラオベン王国の王女との間に生まれた正真正銘の化け物。天才を超える天才。もはや人間じゃない。
と、散々な言いようになってしまったが、彼はそう言われても仕方がないほど頭がおかしい。
なんでもありの戦闘にした場合、クランメンバーが束になっても勝てないだろうと思ってしまうような、そんな人間なのだ。
「他のメンバーは今忙しくてレーツェルにいないけど、まぁ会ったときにでも紹介するよ」
「で、何するの?」
「ん? 決まってるじゃん。僕対キノアたちで模擬戦だよ。やっぱり実力を見るには戦うのが早いからね。実際に戦闘スタイル見てどう指導するか考えたいし」
「……わたしの記憶が正しければ、この前キノアも似たようなこと言ってた」
うん、僕も言った記憶がある。
やっぱり、マスターにそうして育てられたからかな……。
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