12.学園にお邪魔します
「じゃあ、初仕事に行こうか」
ヨナと一緒に買い物をした翌日。昨日買ったネックレスに魔法を込めて、成功したことを確かめた僕はヨナにそう言った。
「うん。何か準備するものある?」
「特にないよ。必要なものは準備してるしね」
さっき確認したし、忘れ物は特にないはずだ。
戦闘があるわけじゃないし、気負うこともない。
ローブを羽織って念のため短剣をベルトで腰に固定し、ヨナを伴って執務室を出る。
城から出ると用意されていた馬車に乗り、ガタガタと揺られること十分。着いたのは王国一の名門校である、王立ララド魔法学園。百年前の魔法使いララドの功績を称えてそう名付けられた学校であり、中等部と高等部にわかれている。
中等部は13歳になる年から15歳まで通い、高等部は16になる年から18歳まで通う。
特に高等部は世界でも屈指の学校と言われており、無事卒業すればそれだけで成功は約束されたようなものだと言われている。
そういえば当初の国の案では、ヨナを教授にしようとしていたのもこの学校だった。
「懐かしい……」
大きな校門を見て、ヨナがそうぽつりと言葉をこぼす。
「ヨナはここに通ったことあるの?」
「うん。中等部から入って、高等部も卒業した」
「あ、飛び級ってこと?」
「うん。ほんとは一年だけの飛び級の予定だったけど、勇者パーティーの一員に選ばれたから、中途半端なタイミングで卒業になった」
「へぇ……まぁあの本を理解できてるなら当然か」
この学校は『新版魔術論』の上級編を理解するために授業をしているようなものだ。
なので、それを理解できるのであればここに通う意味はあまりない。
とはいえ飛び級で卒業させてまで勇者パーティーに呼ばれるとは、やはりヨナはかなり優秀なのだろう。近いうちに模擬戦でもしてみようか。
「で、ここで何するの?」
「んー、高等部三年生の魔法技術の評価かな」
「というと?」
「ここを卒業する予定の学生のうち国の機関で働きたいって人の中から優秀な人を選出して、軍のエリートコースとか近衛騎士とか――宮廷魔法師とかに推薦するっていうのが今日の仕事」
「採用試験ってこと?」
「だいたいそんな感じ。じゃあさっそく行こうか。学生たちが待ってるかも」
門の脇にいる警備の魔法使いに、『客員宮廷魔法師』であることを示す懐中時計を見せる。
ヨナも続いて僕とは少し意匠が異なる懐中時計を懐から出した。
それを見た門番は「どうぞ」と言って門を開けてくれる。
軽くお礼を言いつつ中に入ると、そこにはびっくりするほど大きな建物が建てられていた。
綺麗な赤いレンガでできたそれは、よく見るとそれ自体が魔道具として機能するものであり、防御結界も相まって下級の龍種の攻撃なら防げそうな強度を実現している。
とはいえそこに注目している場合ではない。ヨナに案内されるまま、担当の教授の部屋を訪れる。
ノックを二回してみると、中から年老いた女性の「はい」という声が聞こえてきたので、ドアを開けて中に入った。
部屋の中には書類が積まれている机と高級そうな椅子、さらにたくさんの本が置かれていて、椅子には白髪の女性が座っている。
「失礼します。客員宮廷魔法師のキノア・フォルクスと、補佐のヨナです」
「ご丁寧にどうも。私はここで教授をやらせてもらっているヴァリン・エストラーラです。ヨナ、久しぶりですね。元気ですか?」
「はい。宮廷魔法師にもなれましたし」
「それは僥倖。こんな少女を勇者パーティーにするなんて話を聞いた時には驚きましたが、適任だったようですね。学園としても鼻が高いと、理事の方がおっしゃっていましたよ」
「ありがとうございます」
どうもどうやら二人は知り合いだったみたいだ。
まぁヨナはここの卒業生らしいし当然と言えば当然か。
「ここで長話するのもあれですし、会場にご案内しますね」
エストラーラさんはそう言うと、部屋から出て僕らを会場に案内してくれる。
校舎を出て、舗装された道を歩くこと数分。歩いてきた道からから二メートルほど低い場所に作られた、舗装されていない平らな空間。そこにジャージという動きやすさを重視した服を着た学生たちが緊張した顔で立っていた。
今日僕が評価するのは彼らのようだ。
エストラーラさんが階段で降りるのに僕とヨナも続く。
全員の注意が僕らに集まったところで、エストラーラさんが口を開いた。
「みなさん、こちらは今日みなさんの『評価』を担当する、宮廷魔法師のキノアさんとヨナさんです」
「どうも、キノア・フォルクスです」
「……ヨナ・ウェストリン」
学生たちの間にざわめきが起きる。
風魔法を使ってそれらを聞いてみると、あるものはヨナが宮廷魔法師になったことに驚き、ある者は僕とヨナの容姿について語り、ある者は僕が若いことを理由に侮っている。
ふむ。今見た目で判断した人は減点しておこう。『魔法使いを見た目で侮ることなかれ』と『新版魔術論』の初級編の導入部分に書いてあるし。
「ふむ」
エストラーラさんもその侮りに気が付いたのだろう。皺のある手を口元に持っていくと、急に腰から短杖を抜いて僕に向ける。
その意図がわかった僕は、こくんと頷いて了承の意を示した。
さらに大きくなる生徒のざわめき。
いつの間にかヨナは僕の横からエストラーラさんの横に移動して、それをじっと見ていた。
「では!」
エストラーラさんがそう声を張り上げるのと同時に、属性の様々な魔法がエストラーラさんから僕に向かって放たれる。
想像していたよりも威力の高い魔法だったが、僕はすぐ気を取り直してそれらを全て迎撃した。
しかも、ただの迎撃ではなく、威力も属性も全く同じ魔法を正面からぶつけることによる相殺。
ぶっちゃけこんなのはパフォーマンスでしかない。相殺するのであれば相手よりも高い威力の魔法を撃って攻撃にしてしまえばいいし、もっと言えば最小限の防御だけして後はすべて躱してしまうのが最も魔力の消費が少なくて済む。
だが、これは学生たちが僕を侮るのを回避するためのもの。
だから、わかりやすく強さを示さなくてはならない。
「と、こんな感じです」
僕はそう言うと、僕に向かっていた魔法を全て吹き飛ばして代わりに氷の礫をエストラーラさんに向ける。
だがそれはエストラーラさんではなくヨナの構築した魔法によって阻まれた。
「じゃあ、準備運動も終わったことですし始めましょうか」
僕はそう言うと持ってきた鞄を開けて、中から学生全員分のリストバンドを引っ張り出す。
それを見て怪訝そうな顔をする人たちだが、気にしない。どうせ今から説明するのだ。
「今からするのは、あなたがた全員対僕一人の戦闘です」
一瞬の間の後、僕の耳を劈くように学生たちが声をあげた。
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