異世界転生~神の遊戯と約束された未来~
LAST STAR
第1話 プロローグ
これは今から7年前に起こった話だ。
当時、中学三年生だった俺たちは京都、大阪方面へ修学旅行に出ていた。地方の人間にとっては滅多に来れない都会を眺めながらの大移動で狭いバスの中でもクラスの連中は大いに盛り上がっていた。
「ねぇ!
クレープにパフェ、タピオカのチラシを片手にぎっちり掴んで、力説してくる辺り、幼馴染の
「ねぇ! ちょっと、聞いてる?」
「え……? あ、うん。いいんじゃないか?」
「本当に聞いてた……?」
横髪を押さえて覗き込んでくる姿に思わず、ドキッとしてしまう。
「あ……えっと、スイーツの話だよな?」
「うん! で、弘樹はどれが美味しいと思う?」
俺は彩香からパンフレットを受け取って開いてみるといろいろなフルーツが乗ったパフェやクレープが所狭しと紹介されている。
「うーん……全部、おいしそうに見えるな。俺はこの、ブルーベリークレープっていうのを食べてみたいけど……でも、ストロベリーも捨てがたいかも」
「でしょ! 財布の中身、すぐ無くなるかも!」
「ま、まさか全部食べるつもりなのか!?」
「い、嫌だなぁ~? そんな訳ないじゃん?」
彩香は照れながら目線を逸らす。
どうやら俺の幼馴染は本気で全部、食べるつもりらしい。
「そんなに食べたらまた太るぞ?」
「う、うるさいわね! 甘い物は別腹っていうでしょ? それに太るって何よ!?」
「わ、分かった、分かったからそんなことで噛みつくな」
顔をぐっと近づけられると彼女が付けている柑橘系のシャンプーがフワッと漂ってきて思わず、心拍数が上がる。俺としては嬉しいことこの上ないが、気恥ずかしさがどんどん増してくる。
「ったく、お前らは相変わらずだな。オシドリ夫婦かよ」
「「違う!!」」
「はぁ……幸せな奴ら」
そんな俺たちを見て通路を挟んで隣に居る
ただ、その代償としてクラスの一部には俺が『彩香に思いを寄せている』ということを知られてしまったようだが、みんな快く譲ってくれたらしい。
「(みんなが協力してくれたんだ。成功するかどうか分からないけど、どこかで言わなきゃ……)」
そう俺は一人、密かに決心してこの修学旅行に望んでいた。
この修学旅行のどこかで彩香に『思い』を必ず、伝えると――。
「(言わないで終わるくらいなら……当たって砕けろだ)」
心のなかでそう思ったとき、急にバスが凄まじいスキール音とともに車体が右側にグラついた。それとほぼ同時に激しい衝撃音が響き、悲鳴があがる。
「なにがっ……!」
次の瞬間、ノックバックのような衝撃が俺を襲い、意識を失った。
だが、俺の人生はそこで終わらなかった。いや、いっそそこで終わってしまった方が良かったのに――。
「おい! 弘樹! 弘樹! しっかりしろ!」
危機迫る声で叫ぶ隼の声で意識がジワリと戻り始める。
体中が痛くて意識も朦朧とする。
「起きたか!? ちょっと待てろ。動ける奴は救急と警察に連絡! あとそれ以外の奴らは怪我している奴らを外に連れ出せ! それとあとこっちに何人か手を貸してくれ!」
徐々に意識が鮮明になっていく。しかし、俺の目には目隠しのようなものがされていて状況が読めない。
「隼……。一体、どうなってるんだ? うっ……足が痛い」
「少し黙ってろ! 前のシートと挟まってるだけだ。まぁ、皆まで言わないが、運がよければ足は無事だと思う」
俺はその言葉に恐怖を覚えながら唾を飲み込む。
「弘樹、それ以外に腹部が痛いとか頭が痛い、吐き気がするとかあるか?」
「いや、無い。顔がひりひりするのと、首と足が痛いだけだ……」
俺が痛みに苦悶していると隼は焦りながらも冷静に告げた。
「よし。シートを何人かで押せば抜けれるはずだ、だから、お前は音楽でも聞いてろ。すぐに出してやるから!」
唐突に隼は俺の両耳にイヤホンを入れた。その中からは今流行の曲が大音量で次々と流れてくる。こういうセンスはカースト上位の隼には敵わない。
そして、数分後――。
「よし、弘樹! バスの外に出るぞ、俺の肩に捕まれ」
俺はクラスメイトの手助けも在り、隼の肩に捕まりながら外へ向けてガラスの破片の上を歩いていく。左足は未だに痛むが、右足はきちんと動く。隼に寄り掛かりながら俺は一歩一歩、確実に歩いていく。
「災難な修学旅行になっちまったな。せっかく、隼に協力してもらったって言うのに」
「まぁ、気にすんなよ。チャンスはいくらでもあるさ。俺は協力を惜しまないから安心しろ」
「ああ……ありがとう」
「よし、ここで横になってろ。あ、あと言いたくはないんだが、お前の左足は血まみれで悲惨なことになっているから……絶対に目隠しは取るなよ? 俺ですら驚くほどだ……。多分、おまえが見たら気絶する。絶対に動くんじゃないし、見るんじゃないぞ」
「えっ、わ、わかった」
隼は有名な医者の跡取り息子だ。ある程度の医学的知識を叩き込まれている隼にそう言われている時点で説得力が違った。
「よし。
冷たいアスファルトの感覚が制服越しに伝わってくる。どうやら、すぐ近くには学級委員の
「わ、分かりました! 緑ですね」
「ああ。あと救急隊が着たら『付け焼刃だけどトリアージはしている』って伝えてくれ」
「はい……! 弘樹君。失礼しますね」
ビリビリとガムテープを剥がすような音と共に鈴が腕に何かを貼り付ける。それと同時に隼が走り去る靴音が聞こえた。恐らく、まだバスの中に人が残っているのだろう。自分は助かったのだという思いからか安堵感に包まれ、少しずつ冷静さを取り戻していった俺はふとある事に思いをめぐらせる。
「(……彩香は大丈夫だよな?)」
次第に俺の頭に悪い予感が過ぎる。
「なぁ、綾瀬? 彩香はもうバスの外に居るよな?」
「あ……えっとね。私にはわからない……かな? あ! とりあえず、音楽でも聴いていれば気も紛れるよ。足痛いでしょ?」
まるでその口調は焦るように、何かを隠すかのように綾瀬はイヤホンを俺の耳に押し込もうとしてくる。しかし、その行動は一歩、遅かった。
「彩香ちゃん……! 目をあけて!」
「このままじゃまずい……! まだ消防と救急隊は来ないのか!?」
隼やクラスメイト数人の声がクリーンに俺の耳に入ってくる。
隼の声はどこか焦っている。
「もう抜くしかないんじゃ……!」
「ば、馬鹿な事はよせ! 抜けば急激に出血して死ぬぞ! クソ、クソが! どうすればいいんだ!?」
隼は半ば涙声になっていた。その声を聞いただけでも彩香が何かヤバい状況に陥っているということは医学的知識の無い俺でも理解する事はできた。
「(……行かなきゃ。今、行かなかったら絶対に後悔する。だって、これが最後かもしれないじゃないか。俺には何もできないかもしれない。それでも――!)」
俺は意を決してバッと目隠しを取り、起き上がる。足は確かに痛むが、血まみれになどなっていなかった。どうやら、この目隠しは隼なりの気遣いだったのだろう。
「弘樹君、駄目……。ココに居て!」
「綾瀬、退いてくれ。ココで行かなかったら後悔するのは俺なんだ」
綾瀬はバスに行かせまいと立ち塞がったが、俺の言葉を聞いて静かに目を下に向け道を譲った。
「綾瀬。ありがとう」
俺はそう呟き、左足を引きずりながらバスへと向かった。バスは大破している箇所も多く、車内の至るところには血が飛び散っている。俺はその中、隼とクラスメイトがいる場所に近づいていく。
最初に俺の存在に気づいたのは隼だった。
「ひ、弘樹……! お前、戻れ――!」
隼は慌てて俺をその場から立ち退かせようとしたが、俺は隼を押しのけてみんなが見ている方向に目を向けた。そこには鋭く尖ったモノが腹部に刺さったままの彩香が居た。
「そ、そんな……こんな、嘘だろ!?」
俺は崩れるように彩香へと駈け寄るが、その表情はぐったりとしていて目も虚ろだ。しかし、そんな中、彩香は俺に気付いたのかぽつり、ぽつりと力を振り絞って小さな声で出す。
「ひろき……ぶじで……よ、かった……」
「彩香! あと少し、あと少しだけ頑張れ! 大丈夫だ。必ず、助かるから!」
「うん……」
「彩香……?」
彩香はその言葉を最後に力なく下を見たまま、動かなくなった。
それと同時に隼は涙を流しながら語った。
「ショック状態だ。もう間に合わないかもしれない」
「おい! 医者の息子だろ!? 何とかしろよ!」
「俺だって、俺だって何とかしたいさ!! でも、どうにも出来ないんだっ……!」
隼は車体を叩きながらその場に崩れ落ちた。もうこの場では何も出来ない。
救急隊が来なければ彩香は死を待つのみだ。だから、俺はひたすら願った。
「(神様……どうかお願いです。彩香を、私の大切な人を私からとらないでください。すべての運も、願いもここで使い切っても構わない。俺の命を削ったって構わないから、だから……どうか私から彩香を取らないでください)」
たった一回の奇跡でも構わない。その奇跡を起こしてくださいとひたすら願った。
だが、無情にもその祈りは叶う事は無かった。救急隊が到着したのは彩香がショック状態になってから30分後のことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます