<帝国サイド>第38話 砦の掃討
リードたち20人の魔術師は静かに砦へと徒歩で近づいていた。
しかし、人が居る砦の方向は異様なほど静かで木々が風で揺らめく音とリードのたちの足音しか聞こえない。
「……何かが妙だぞ。それにこの匂い――嫌な予感がする」
そんな胸騒ぎを覚えながら砦に近づくとその理由はすぐに分かった。そこにはもう『人間』は居なかった。居たのは死者たちだけで至る所を徘徊している。ナターシャはその光景に手を口に当て、声量を抑えながら声を出す。
「嘘……みんな、やられたっていうの?」
「それは分からないな。まだ生きている奴もいるかもしれないが――まぁ、期待は薄いな」
「でも、このままってわけには行かないでしょ?」
「いや……まぁ、それに関してはどこまでが術式の範囲なのかによっても変わるからな……帝都に向かってくるかは分からない。それでも、どのみち王国へ渡るにはこの砦を通らなきゃならないからな。囲まれても厄介だし『
「掃討するって言っても隊長――あいつらをどうやって」
当てもなく動いている死者たちの動きを見て部下の一人がそんな事を言う。
しかし、その対処法は人間と同じでごく単純だ。
「んなもん、簡単だ。近づかれる前に頭部へ銃弾を撃ち込めばいい。奴らは体の魔術回路を通じて操られているからな」
「もちろん、銃弾じゃなくてもいいの。頭部に損傷を与えれば動かなくなる。ただ、今リードが言ったように近づかれる前に仕留めて。噛まれると血が止まらなくなるからね? 怖がらせるわけじゃないけど最悪の場合、あいつらと同じようになっちゃうから――」
「……わかりました。肝に銘じます」
冷静にリードとナターシャは対処法を伝えながら銃の弾を確認し、コッキングする。
それに習うように全員が残弾を確認した。
「まぁ、でも……なんだ? これだけの人数が居るんだ。死角を作らない限り、問題はないさ。なにせ俺たちはこういう仕事のプロだろ」
リードはそんな陽気なジョークを吐きながらナターシャの隣に立ち、銃を前に構える。その姿に息を合わせるように魔術師たちが五人一組のひし形の陣を4つ形成する。
「よし、行くぞ」
その掛け声と同時に統制が取れた部隊は微塵の隙無く、素早く動き出す。四方を囲む人間が攻撃主となって臨機応変に真ん中の
「前方に火力を集中しろ!」
「右斜めから新手だ!」
全員が一つの部品となって攻撃をしていく。そして、何よりリードが作り上げた部隊の全員が射撃・魔術・体術のプロだ。
死者たちに囲まれても互いの部隊にかかる負担を瞬時に考慮しながらコマンダー同士がアイコンタクトで判断し、各攻撃主に指示を出す。この連携力の強さと全員の練度の高さに合わせて、リードの魔術的な破壊力とナターシャの統制力こそが帝国屈指と呼ばれた『リード、ナーシャが作り上げた魔術部隊の正体』だ。
「隊長っ! 前方から数百人規模の新手、接近!」
「キリが無いな。破砕系の『レストアンプレッション』を使う。援護しろ――!」
「各員、火力を前に集中をさせて!」
ナターシャの総指揮の傍ら、リードは手を前に出して言葉を紡ぐ。
「<歌え・歌え・灼熱の業火よ・死者たるかの者らに・永遠の沈黙を響かせよ――」
赤色の六芒星が回りながら炎を帯びていく。その炎は青白く燃えており徐々に中心に集まっていき、圧縮されていく。
「踊れる寄る辺は・あるべき理へと戻り・鎮魂の鐘は既に響いた・腐敗した身は罪と血ともに爆ぜ・灰の如く塵となって散れ――レストアンプレッション!>」
その刹那、まるで機銃から放たれた銃弾の様に青白い小さな炎が高速で死者の群れを襲った。その場に土煙が上がるが、煙が消えるとそこには『動かなくなった死者』の死骸だけが転がっていた。
「まぁ、ざっとこんなものか……フッ」
「何を笑ってんの? 第二波に備えて全員、弾倉を確認して。それから一つ、一つの部屋をクリアリング。それから王都に向かいましょう」
「「了解」」
ナターシャは部隊の全員を見渡しながら冷静に指示を出す。
砦にはこの時、1000人近い死者たちの亡骸が地面に転がっていたが、その数を確認することなく、彼らはまた足を前へと進みだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます