第7話 射撃訓練

「ヒロキ、朝よ! 起きなさい!」


俺はティナの大声で叩き起こされる形で朝を迎えた。朝食を取ったのも束の間で俺は建物の外に連れ出された。何でもこの拠点近くに射撃練習ができる場所があるらしく、今日はそこで訓練するらしい。


「ここよ」


そう言ってティナは立ち止まり、地面に敷いていたカバーを捲りあげると地下に続く階段が現れた。その階段の奥には重厚な扉があり、抜けた先には複数の射撃レーンがある本格的な射撃練習場があった。使用頻度が少ないからなのか、至る所が埃に塗れている。


「すごい……」

「そう言ってくれると貸しがいがあるわ。今じゃもう使っていない場所だけど、昔はここを良く使ったのよね……」

「今は?」

「今は……って、私は天才なのよ? 射撃練習することがあるとでも?」

「アハハハ……。そうなんだ」


そう自慢されても正直、反応に困る。


「べ、別にそんな乾いた笑い方しなくてもいいじゃない! ……まぁ、いいわ。とりあえず、銃の構え方から復習よ」

「確か、足を肩幅くらいに開いて手を伸ばして……」


ティナから渡された銃を手にしながら昨日教わった射撃の姿勢を実際に自分の体で実践していく。


「そう。構え方はOKね。飲み込みが早くて助かるわ。それじゃあ、前方の丸い的に向けて照準を合わせて構えてみて?」

「コレで良いのかな?」

「そう、それで肩の高さくらいまで銃を持ち上げると昨日、説明した『照星と照門』が目元の付近に来るはずよ。その照星と照門が重なるところに弾が飛んでいくわ。ただ、銃には反動があるからそれをしっかり抑えることも当てる上では重要だから注意して」

「わかった。とりあえず、撃ってみてもいいか?」

「ええ。思う存分撃って良いわよ。ココからはひたすら撃ちまくりなさい。ただし! 過度な銃器使用は銃の故障に繋がるから休憩をこまめに挟むように」


ティナはそう言うと後ろに下がって腕組みをしながら俺の射撃を見守り始めた。

そして、何発も何発も撃ち込んでいく。正直、撃つ度に銃の反動がモロに撃たれた傷に響く。


「(クソッ! イテェ……)」


だけど、連れ去られる前のシェリーの顔が浮かび、俺はひたすらトリガーを引き続けた。すべては彼女を救うために――。そして、その思いに答えるように後ろに居たティナから檄が飛んでくる。


「違う! 腕はこう! さっきから弾の当たりが悪いのはそのせいよ」

「……ありがとう。ちょっと休憩しようかな……。さすがに体がきつい」


俺が離れようとするとティナが慌てて、銃を取り上げた。


「こらこら! 休憩するならちゃんとマガジンを抜いてチャンバーから弾を抜いてからよ! でないと――」


ティナは銃口を天井に向けて引き金を轢く。

パンッ!と乾いた音が鳴り響き、上から土埃が舞う。


「簡単に死ぬわよ? 「間違いました」じゃすまないの。しっかり確認して!」

「ごめん……次から気をつける」


こんな具合で休憩と射撃を繰り返しながらひたすら撃ち込むこと15時間。

ある一定の基礎をマスターしつつあった俺をティナはある射撃レーンに呼んだ。


「あの的に向けて撃ってみて? 出来るだけ頭か、前方右側にある心臓を狙うの」

「コレって……」

「そうよ。人型の的。相手が人間だと思って撃ちなさい。相手が敵だと思ったら躊躇せずに撃つ。迷ったら相手に殺されると思いなさい」


その場でティナは素早くホルスターから銃を抜き、引き金を何度も引く。マガジンに入っていた全弾を撃ち込み、銃がカシャッとスライドオープンの状態になる。

ティナはスライドを元に戻してから的を少し見て、俺の方へと振り返った。


「ま、こんなもんね」

「全部、頭と心臓にヒットしてる……こんなに当てるなんて俺には無理だ」

「こんな風にできるようになれ……とは言わない。でも、シェリーを救う為には人を撃つかもしれないことを覚悟しておく必要があるわ。さぁ、やって!」


俺は銃をホルスターから抜き、人型の的に向けて構える。


「(結局、誰かを守るためにはこうするしかないのか……)」


そこから俺はひたすら、引き金を引いて全弾を撃ち込んだ。

8発中4発が命中。確率は50%といった結果だった。


「よくやったわ。ここまでやれればもう充分よ。今日はもうおしまい。さぁ、ちょっとここに座って? あなたの傷の具合を見るわ」


ティナはそう言うと俺を座らせて傷を確認する。


「少し血はにじみ出ているけど、これなら大丈夫そうね。……明日の夕方、シェリーを救いに行くわよ」

「もう、やるのか?」


俺が自分の撃った人型の的を見やるとティナは酷く冷静な声で告げた。


「実際に人を撃つからもしれない……そんな不安があるのは分かる。でも、昨日も言ったようにシェリーには時間が無いと思うの。あなただって、それを分かっていたからこんな状態でも練習したんでしょ?」

「……お見通しか」

「当たり前よ。痛みがどんなものか私にだって分かるわ。それにどうせ止めたってあなたの事だから『やる』って聞かなかったでしょ?」

「……まぁ、確かに」


ティナは俺が痛みを抱えながらも射撃していたことを知っていたのだ。

それでもティナは俺を無理に止めはしなかった。


「あなたの目を見てれば本気であの子を救おうとしてることはなんとなくわかるわ。まぁ、長年の勘ってやつね。さぁ、今日は早く帰って明日に備えるわよ」


俺はティナの言葉に無言で頷き、彼女の後ろを追って拠点まで戻っていった。

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