「さすがに手持ちがないんだよな。何か強そうなの狩ってこようか?」

 戦闘服のネム曹長が声を掛ける。

〔人間の首じゃなきゃ何でもいいっすよ。ゼロから作るのは無理っぽいんで〕

 俺は未だにステージの上で寝ている。首が無いのでね。

「人間はダメなの?」

〔だってほら、自分の首を諦めたみたいになっちゃいません?〕

「う~ん、まぁ行ってくるね」

〔ご安全に!〕


 俺は静かに揺れている。俺の上が揺れているのだ。

 俺の上にぐったりと覆い被さり、あちこち撫で擦るのはヨウ中尉。

 死ぬ前からずっとである。

 カカ大将に魂から土霊おろちを抜き取られたヨウ中尉は即死、俺も魂から金霊いのちを抜き取られたが、死にながらも絶頂、定評ある我が金の滴エリクサーで中尉復活、セッション中の俺はギリギリ生命維持、木坤きりん様が手蔓縺てづるもづるを通じて木霊くのちを二人の魂に組み込み綱渡りの再生を果たしたのだという。

 カカ大将はというと、俺の首とデバイスを繋げ纏めて霊体化し手蔓縺てづるもづるに消えた。伝達に掛かる時間はゼロだから、恐らく瞬時にみやこへ逃げたのだろう。

 ともあれ生き延びた。暗闇をさまよう姫さまを、やっと救うことができたのだ。

 でも学習したよ。一度抱いたぐらいで彼氏ヅラしない!

 揺らめく吐息の合間に喘ぐように、彼女は囁いた。

「ねぇ……結婚しよ?」

〔自分から言わせてください。いまは首が回らないので〕

 乳首を噛まれたので、ひとまず結納を注ぎ込んだ。


         ☆


 三人が戻った。デバイステストを兼ねてダイ大佐とリン伍長も出たようだけど……たった三人でこれか。降格もあって階級と能力が釣り合ってないような。

 持ち帰れなかったようで急遽回収部隊を出している。大所帯の食糧問題はウリアに負担を掛けず済みそうだ。

 並べられた大物の首をフィッティングしていく。〝首実験〟というやつだな。

「結婚の大きな目的は強力な妖術士を生むことだが、二人に関しては互いに妖気の補整が必要だからちょうどよかろう。おめでとうよーたん!」

「ありがとうおいたん!」

 この世界は核酸NAコードのほうを重視するためあまり血縁に拘らないようだが、大佐は親代わりでもあるということか。

 ――おふっ、これいい感じ。

「なじゅブっ、ンゴっ……実に馴染んできたッ!」

「しゃべったあああ!」

 俺が選んだのは親火豚の首。サイズ調整と、中身は大幅に改造。燃えている状態しか知らなかったけど、豚というか猪である。慣れればネム曹長のように火を纏えるだろうか。

「よっし、これでいこう。首を取り返すまでよろしく!」

「火豚がしゃべるって、ものすごい違和感だな」

 みんなざわざわしている。

「すぐ慣れますよ。ちょっとっつ盲信です」


         ☆


 みやこの増長は、偶然からだった。

 妖四憺霊ようしたんれいの一柱、金艮きつねを支配したのである。

 ガチャで!

 偶然で神格を支配してしまえるとは、どういう摂理なんだろうか。

 ともかく俺達はまず研究所を奪取、みやこと戦争、金艮きつねを解放、ついでにカカ大将をぶちのめして俺の首を奪還、できるといいな。

「――私の命は、諸君の献身で満ちている。私もまた、諸君のために身命を賭そう。我々は今、この激おこを姫導隊として再結集し、偽りの支配者どもに叩き付けて、世界の在るべき姿を取り戻すのだ!」

 例によって長い演説もそろそろ終わりのようだ。

猛虎藩もうこはん再興! 契闇けいあん再興!」

 ヨウ中尉が咆え哮る。

「姫さま万歳!」

 ぴったり声を合わせられるのは手蔓縺てづるもづるのいい所かも。

 ようやく焼肉タイムである。

 俺は何枚か鉄板デバイスを作ったが、食堂のような高性能の物は難しく、交代で大ざっぱに熱する仕様。当然焦げたりもするが、野性味ある趣にむしろ好評だ。

「味のバリエーションがな。やはり食堂、研究所奪取はダッシュでやらないと」

「食堂メインなんすか。まあ、自分も火鳥の味が気になって仕方ないっすけど」

 みんな肉を手でちぎって、手で焼いて、手で掴んで食べている。俺は慣れるまで一苦労だった。

「本当に姫さまなんですね。『猛虎藩もうこはん』の」

「歴史ではそうらしい。旗印があったほうが盛り上がるだろ。ビビったのか?」

「ビビッと、第一印象から決めてました――結婚してください!」


 ヨウ中尉はキスをしようとして……どうやってしようかと一緒に笑った。

 これからも、どうしようかと一緒に笑おう。

 俺達の冒険は、まだ始まったばかりだ!


(『降格姫導隊』編 おわり)

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姫さま☆ヨウ中尉 休峠圭織 @10shoc

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