第18話 舐めるのは俺だ!
様子を見に来る少尉。
「イメージが間違ってるよ。キミは『くっついて傷跡が残ってる状態』を目指して、溶接しようとしたよね」
「ああ、なるほど。傷だけを意識するんじゃなくて『均質な界面』を目指すのか。でも現場だったらパニくりますね。傷を目の前にしたら」
「慣れというか開き直りだね。
「パーツ性能、ですか」なんかドライ。
「深すぎる傷や重度の火傷は難しいし、完全に切断されると別オブジェクトになるから、くっつけたとしても普通は妖気は回復しない。ある程度割り切って」
皮がさらに裂け、ところどころ焦げた豚足を見る。
もう一度やってみよう。
契光ペンを当てる。
元に、戻す。
「それじゃその豚足を交換して――」
今度は全体が青く光るのではなく、異常箇所から細かく青白い棘が生える。
傷が治るなんて異常だという感性を、傷があることを異常とする理性で相殺し、均質だった界面を知性から引き出して上書きする。
棘は棘と引き合い、淡くオレンジ色に溶けていく。
元に、戻った。
「先生できましたー」
「ちょっと待った。コールはどうしたの?」
「ちょっと待ったコール?」
「戦国時代のお見合い番組か。そうじゃなくて、【
「あっ、集中してて忘れました!」
「……いや、いいけど。アシスト無しでできるならそれで。参ったな。二割もできないのに――」
「先生できました!」「先生できちゃいました、なんで?」「自分の秘められし才能を信じて良かった!」「軍曹背中まで仕上がってるわ」「これ補助術式アップデートしたんじゃ」
「……いや、みんな、おめでとう。練習を続けて」
豚足がピクッと動いた。きめえ。
☆
俺が何か変な影響を与えているんじゃないかと退室してみたりもしたが、できるようになった人は上手くなる一方だった。めでたい。
「昨日の件で今日は偵察が予定されてたんだけど、こっちの慣らしも兼ねて編成が増えることになった。
「今日は
「やります」剣道やってるわけじゃないのに、なんでか薙刀とやらされたことがある。しかも男子。なーんもできない。ああすればいいんだな。
「よし。出撃は昼過ぎ。進路と配置はガチャの結果次第。状況を把握しておくように。解散」
全員起立。
「あーっと、豚足は食べちゃって。机で焼けるから」
全員着席。
ガチャ。俺が喚ばれたやつだ。ガチャって何だ。
「軍曹、ガチャ見に行きます?」
おっぱい、失礼、隣から声を掛けられた。
黒髪ショートボブ。かわいい。背は普通で鍛えられたスポーティー。でないと
そしてさっき編成された、今日の俺のパートナーである。
「見に行きます? それとも、ワ・タ・シ?」
挑発するマリンブルーの瞳。まーた凶暴な胸を持ち上げる。胸を強調すれば落とせるとでも思っているのか。まったく舐められたもんだな。
「舐めるのは俺だ! って違う今のナシ。生きて帰れたらね。じゃあ案内してくれる?」
モテ期なのか。軍曹的に応答はこれでいいのか。でも社会人経験その他経験も圧倒的に負けているんだろうし。諦めるか。
召喚陣は一階の中央に位置するようだ。その地下に不思議なスロープがあって、
「あれ、もしかして、今も誰か
「ワ・タ・シ?」
「生きて帰れたらね」
「時間帯としては夜のほうが妖気の回収率いいみたいですけど、気分次第ですね。前線から帰ってきた人とか、もう凄いし。積極的に声掛けないと勿体ないです。私もさっきまで
おっほ、さっきまで……眠くないのか。聞けない。変なこと聞いた俺が悪い。
「もう結構みんな見てますね」
中央に着いた。外壁は透明ではないが、モニターのように中が見える。
「ところで今さらなんだけど……ガチャって何なの?」
「ガイドチャネルです。簡単に言えば、移動しようとする存在を『その場に居たくない』と解釈する詭弁です」
「居たくなかった……のかなあ」
「結果論ですよ。タイミングにも依ります。成長しようとする意志が、妖気に惹かれるとも言われてます」
「あー、それはあるかも。何でもいいから少しでも強くなりたかったし。しかも叶ったし」
「みんな強くなれました。軍曹のおかげで――来そうですよ」
ダダンダンダダン。ダダンダンダダン。
召喚陣が輝き始めた。
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