第33話 なにこれー!

 銀髪オールバックにチョビヒゲで威圧感のある黒の軍服。顔面は俺の爺さんと瓜二つだが、銀髪丸刈りのタンクトップゴリマッチョとは品格に差もつこうというもの。

 コツソ少将。この世界で最初に会話した方だ。ここ連邦軍錬金術研究所の所長で、ヨウ中尉の御爺様である。

 先程は妙な感じで別れたその方が、食堂に向かう俺達を待ち構えていた。

 中尉の肩に力が入っている。何とかしてあげたいが。

 少将も顔が引き攣っている。何とかならないものか。

「ま……ぷ、またお会いしましたんぃッ、か、閣下……っ」

「おっ、おえっ、おやめください姫……姫っ、姫とか……」

「お~つ~か~れ~じーちゃーッ!」

「まごーッ!」

 ひし、と抱き合う。

「なにこれ」

「やっと幹事長はお帰りか」「なんで来たのあのハゲ」「の具合が心配なんじゃない?」

「じーちゃー」

「まごー」

「なにこれ」

「あれはあれで傀儡だしな」「なにが連邦だか。自分らは戦いもしないくせに」「人間同士で争うわけにもいかないでしょ」

「お、来たかダイ君」

「姪の激励に来ましたよ、閣下」

「おいたーん!」

「よーたーん!」

「なにこれ」

「でももうちょっと大佐が頑張ってくれてたらなー」「今の契光党って自分らしか照らしてませんよねー」「まぁまぁ。形にした志はいずれつつむものよ」

「なにこれー!」

「どうした軍曹。お腹すいたのか。私もだ。さぁみんな行こう、焼肉が冷めちゃうぞ!」


         ☆


「旨い! 馬だけに!」

 知らなかった。馬焼肉。焼肉屋でバイトしているのに考えたことすらなかった。まあ俺の知っている馬とは違うんだろうけど。

「遠慮しないで食べるといい……食べた分だけ狩って貰うがね」

 コロコロ笑うヨウ中尉。強力な妖獣である馬の肉は当然貴重。在庫は全て彼女の戦果ということになる。ありがたや。

 馬刺しも食べたことのない別格の旨さ。この付けダレは――

「ベースは馬骨ダシだ。こっちの玉葱を軽く炒めるのにも使ってる。一緒にして食べるといい」

「――旨い! 馬だけに! って中尉なに食べてるんですか?」

「野菜たっぷり馬雑炊」

「ください!」

「馬以外もどんどん食べろ。夜とはいえ何が来るかわからんからな」

「じゃあ鳥とかあります?」

「!」

「わーっ、なに泣いてんすか!」

「鳥なんてそうそう獲れるわけないじゃん」

「ひどーい、あんなめちゃくちゃに殴ってまだ足りないの?」

「ほう、孫がどうしたって?」

「ほう、姪がどうしたって?」

「いやいやちゃんと様子見ながら加減してましたって!」

「ほう、全力で来いと言ったのに」

「もう泣いてないじゃん、すげえな輪枷りんか。そういえば大佐、空気層で加速できるの教えてくれなかったですよね」

「なにーッ、教わったのかーッ?」

「おいたん、それはダメだよ。異世界の癖は早めに抜かないと」

「だって僕が最強の剣士だもん!」

「いっすから、自分は剣士じゃないっすから」

「なんッ――まだ負けてないぞ貴様!」

「あれ、それじゃ『史上最強』って誰なんですか?」

「そんなの『カカ大将』に決まってるじゃないですか」

「量産される肉の壁扱いの先祖を人間にしてくれた、我々の神様だよ」

「笑うだけで敵が消し飛んだって伝説。〝笑い飛ばす〟の語源」

「人類の争いにひとまず終止符を打った。『カカ天下』が戦国時代を終わらせたのだ」

「命を賭して当時のネットワークを書き換え、蛇尾ひとでを作り出した」

輪枷りんか竜頭りゅうずを搭載し、奴隷を解放した」

「いろいろ問題になってるのは、その依代が――」

「その辺にしとけ。焼肉が冷めちゃうぞ」

「ふーむ、ともかくこれで〝中部は夏しか活動しない〟との謗りを免れそうではあるな」

「えっ、ウチ中部方面隊じゃないし、いまド真夏だし」

「えっ」

「ほら泣かないの。なんか考えとくから」

「そんなだから乗っ取られるんですよ」

「そんな不器用なとこもいいんですけど」

「えっ」

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