第51話 覚悟を決めろ。
ただ一人を守る。何人死ぬことになっても。
☆
優秀な妖術師であった父、有数の錬金術師であった母の間に生まれた彼女。
最初から、妖煌炉を制御する人柱として生み出された彼女。
父を殺し消えた母。残された彼女。
三歳から将来を設計し、五歳で成人する世界とはいえ、最前線で戦い七歳で部隊を任された称賛は、その日の内に消散した。
防御陣形を維持し援軍を待つ基本戦術を無視し殲滅に出るも、敵主力を見誤り妖術は不発。意識を失った彼女を守るため部隊は壊滅。
それを、〝七つの大罪〟と称す――
〔――もういいわ。はーウザいわ。マジか。あんたらマジか。あの子が起きてりゃどうにかなったんか。甘えんじゃないよ!〕
ウリアの空間。繊維で出来たゆりかご、というか繭の中。赤ん坊のように丸まって微睡み、眼前に生った豊かな栄養に吸い付く。次の戦闘に備えみんな同じ状態で英気を養うが、以前はアクセス権のなかった情報を
幼少さ故の、過ちとも呼べない結果。
〔支配だよ。全ての情報が開示され、みんなが自由に交流しながら計算できる。だから
〔陰湿だなあ。そこは強制しないんですね〕
〔……神の領域に踏み込むためだ。
〔あー、軍曹。嫁の容体はどうだ?〕
〔なんとか『へそデバイス』は摘出できましたけど、左頭部はなんともなりません。お母さんの領域なんですよ。しょうがないのでネム曹長の
〔取り敢えずは安心だな。ありがとう〕
〔
〔当初は再び人間に転生するための
〔そんな都合のいい転生なんていかんでしょ。食肉から食肉に転生とかいかんでしょ〕
☆
もっと包囲されにくい場所に移動することもできたのだが、不測の事態を避けるため獣が興味を失ったこの場所で待ち構えることにした。採掘現場のようなこの地形も作戦の鍵となる。
果たして、我々は包囲された。見事な五芒星陣形。
ダイ大佐の情報に拠れば、教災科の今回の編成はほぼオールスターだという。五班はすべて
まあ正直そっちはどうにかなる。こっちだってほぼオールスター。
問題は、どうにもならない隊長がフリーなのだ。どこかの班からちまちま撃ってきてくれれば他の手もあったのに。
「ヨウ中尉……ごごごきげんうるめいわしゅう!」
ひとり進み出てきたその隊長。なんと声を掛ければいいかわからないが、姫さまになるべく丁寧に挨拶する。
「ネム曹長。なぜ軍曹を連れて逃げなかったんだ。キミ達は支配されてるわけじゃないのに」
涼やかな声音でスルーされた。やっぱり手加減だったよね。この子がナナフシに気付かないはずないし、首を刎ねてもネム曹長が何とかできると知っていたんだろう。あのとき互いに考えていたことにここまで差があると凹む。
「馬鹿か。勝算があるからに決まってるだろ。軍曹ならきっと何とかしてくれる」
メラメラと咆える熊。なんで煽んの。それ勝算ちゃうし。
大佐のように、中尉も自力で支配を脱することは――そんな考えはすぐに否定された。通常は米粒大のデバイスが、彼女には鶏卵大のものが子宮に融合されている。
彼女は
死を振り撒く力。死を司る力。妖煌炉の底で
「もちろん、何とかしますとも」当然だ。「勝利は頂きますよ中尉。そのうえ処女も頂きますよ!」
「なっ……死ぬ気か貴様……」
久々に表情を見た気がする。なんでちょっと嬉しそうなんだよ。
「お腹のそれを、何とかするんです。楽しみにしててください」
「私は、抗えない」
「ご存分に」
「――契闇流妖術奥義――【
これで少なくとも、姫さまが死ぬことはなくなった。
〔ウリア?〕
背後の木に意識を向ける。そのてっぺんで、彼女は赤い髪を靡かせる。
いつの間にか、風が強くなっていた。
巻き上げられる赤い霧。陽の光が翳る。
〔狙いより威力は高めです。長くは持ちません〕
〔充分だ〕
覚悟を決めろ。
ただ一人を守る。何人死ぬことになっても。
「全軍に警告する……全力で防御しろ!」
俺は拳を突き上げた。
空に閃光が走る。
アルミナを分解したのだ。錬金術で。
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