第44話 どうするんだろうな。

つよぽんはどんなん読みたい? エロいやつ?」

「俺に合わせてどうすんだよ。好きなので売れてるやつ書き写してみれば。発表しなきゃいいんだからとにかく最後まで書きゃいんじゃね。知らんけど」

「売れてるやつに勝てるわけねーじゃん」

る前に負けんなよ。知らんけど……どこまで書いたん?」

「まだ構想段階だよ。無駄な努力はしたくないからさ!」

「あー……あのさ、ジムにさ、ウチの。本書いた人がいてさ。むかし家で一緒に飯食ったとき、練習ノート見してもらったんだけど、書き足しすぎてポストイットだらけでさ……いきなり一冊書くとか普通に無理じゃん。ほんのちょっとでも書いたほうがいいよ。知らんけど」

「あと一押し来たらな。降りてくんの待ってんだよ」

「そっかー」

 こんなやつだったっけ……違うな。

 俺は、いろいろなことに注意を向けていなかったんだ。

「やっぱ恋愛かな」

 お前が恋愛とか言うな。


         ☆


 帰り道。遠回り。狭くうねった酷い道。鳴りっぱなしのタイヤ。

 ジェットコースターは、信用しているから楽しいんだな。

「お前もうちょい落ち着けよ。そういうの一人でやれって」

「おいおいおいー、ビビっちゃったー?」

 へらへら嗤う。うっぜ。

 俺はどうせ死なないから、チラチラお前どうすっか考えちまうんだよ。

「だーいじょぶだって、走り込んでっから。それより、こんな早く車買えたの会長のお陰だわ。すげーよ会長、どんだけ仕事してんの?」

「手広くやってるらしい。今日は練習見てくれたけど」

 はじめがバイトしているのは魚の養殖場。山奥なのに海水魚を育てている。

「社員にしてくれるって言われたし、それでいいかな」

「絞るのはえーよ。魚好きなら進学して広げるとかさ」

「魚も好きってわけじゃないし、勉強も好きじゃないし、進学しても遊ぶだけで無駄だよ。書籍化も待ってるからな!」

「すげえな!」

 こいつマジすげえな!

「……つよぽんさ……成績悪くないのにキックボクサーになんだよね。金持ちでガタイも良くて。なんかアドバイスされると、それずっとやり続けられるよね。すげえわ」

 ピリつく。もうしょうがないんだけどな。友ともともと元も子もなかったってことか。

「自慢だけど、授業中しか勉強してないよ。やるって決めるんじゃなくて、やらなくないって決めるほうが気楽だろ。宿題と一緒」

「うわやってねー。思い出させんな」

「落ち着け。いい加減スピード出しすぎ――」


 ――下り坂。左コーナーの内側に、濡れた落ち葉が敷き詰められている。こっちの世界でも嵐があったのだろうか。

 乾いた路面ならまだしも、この速度で乗り上げれば対向車線のガードレールに衝突。しかも周囲の音声から、ちょうど対向車と衝突するタイミング。大惨事は免れない。

 それがなかったとしても、ミラーの先に停車あり――


 どうするんだろうな。

 俺だってろくなもんじゃない。俺のでもない力で、知り得なかった情報を把握して、偉そうに判断するのか。

 どうするんだろうな。

 他の人を巻き込むのは論外として。しょうがないから一緒に死んでやろうか。

 どうしてこうなったんだろうな。


 減速。この車の大きさぐらいなら、俺の空気層の制御下だ。

 迫るコーナー。

 空気層で落ち葉を飛ばし、さらに押さえ付けダウンフォースでタイヤのグリップを増す。

 後続が居たらできなかったな。もしかしたら警戒して離れていたのかも知れない。恥ずかしい。

 対向車に迷惑で済むギリギリのラインに調整。少しは恥を知れ。クラクション。ほんとごめんなさい。恥ずかしい。

 曲がった先に車。急ブレーキ。知ってる。

「あぶねー! さすが俺!」

 ヘラヘラ笑う。

 もう、本当に、これで――

「おいおいおいー、なに泣いてんの!」

「――なんでだろうな」

「悪かったよ、ほんとごめん」

 涙は分解されなかった。まったく、気が利くな。

いっちゃん……約束してくれ」

 こいつの罪も、流れてしまえばいいのに。

「帰ったら、今日はもう絶対に家を出るな」


         ☆


 約束は果たされず、

 彼はこの世の果てへ堕ちる。

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