第3話 すんごい美人!
不思議な感覚。伸縮する全身に目が付いているような、壁を隔ててどちらの景色も同時にわかるような。壁に進入していくのは多少怖かったが、周囲の状況や接地感を確かめ、なんとか通過した。
「それでいい。もし壁の向こうに床が無ければ普通に落ちるからな」
落ちる。床。嫌なキーワードだ。
「……この術は、召喚儀式と関係あるんでしょうか」
「ほう、鋭いな。例えば全周から光を当てれば影が消えるだろう。あれはその延長だ」
適当に結び付けたら褒められた。筋肉だけじゃないアピール成功。
人に見付からないよう、廊下を壁際に沿って進んで行く。なんで隠れるのか、理由はわからないが仕方ない。
しばらく人々と擦れ違って、ふと思った。
「黒の軍服が偉い、ってわけじゃないんですか?」
「ああ、妖術の適性だ。有象無象あるが、今の二大流派は闇と光。妖気の変化を主体とする最古の妖術『
「滅ぶって――いったい何と戦ってるんです?」恐ろしいフレーズによる緊張と共に、別の緊張も走る。タイトスカートで眼鏡巨乳のすんごい美人と擦れ違ったのだ。存在が足の平になっても、目線が下がるわけじゃないんだな。残念。
「術が解けるぞ」呆れた少将の声。いかんいかん。真面目な話。
「多かれ少なかれ、生命に妖気はある。妖気を食らえば妖気を増す。いつしか、獣の妖気は無視できない強大さとなっていた。強い妖気を探し出しては討伐を続けたが、限界が来るのに時間は掛からなかった。溢れる獣を避け、海と別れ、空を捨て、人は微笑みを失くした。唯一の救いは、妖気の強い獣が純金を嫌うことだ。少ない純金を効果的に配置して、人類は何とか生き延びてきた」
落とし所など無い戦い。ただ迫りくる自然への抵抗。こんな綺麗で未来的な建物で働く人々が、滅亡寸前まで追い詰められたとは。言葉が出ない。
「現在は、明日もわからないほど悪い状況ではない。明日がわかるほど良い状況でもないがな。さあ、着いた。この部屋だ」
やばい見失った。この辺だよな。
覚悟を決めて、もう一度壁に踏み込んでいく。
☆
砂地の大広間だった。トレーニングルームといった雰囲気だが、他には誰も居ない。
術を解いた少将に倣う。ちょっと目眩がした。膝を叩いて誤魔化す。
壁際には多数の棚があり、少将はそこから金属の棒を取って渡した。
「これが我が軍の主力武器『
両手で拝借したそれは、なんと馴染みのあるサイズ感。ちょうど竹刀。先端が平らで断面が星形の竹刀。白い柄の部分は絶妙な反発でベタつきもない。ガッチリ握れて衝撃に強そう。
「両刃ならぬ五つ刃って感じですね」
「星の頂点とは関係なく、振った方向に刃が出来る。攻防はデバイスが感知して、防御時は刀身より広い斥力場、攻撃時は妖気が刃を形成する」
試しに上から下に振ってみる。あれ、刃が出ない。攻撃対象がないと出ないのかな。
「めちゃくちゃ軽いですね。アルミっぽい」
「アルミだからな」
「えー。もっと異世界的なのじゃないんですか。オリハルコンとか」
「なんだ異世界的って。まあ妖気さえ貯められればいいから軽いアルミしか使われていない。何か思い付いたら、工廠に言えばすぐ作ってくれる。加工が適当でも妖気さえ通せば機能するから、ジュラルミンのような合金の研究など進まんわな」
「ジュラルミンとは?」
「んん?――ああ、まあそういう金属だ」
「かっこいい響きですね。さすが異世界」
「おう。そうだな」
「――ちょっと失礼します」少将を庇うように反転し、取り敢えず正眼に構える。見えない何かが部屋に入ってきたのだ。砂地なのに全く変化がないが、でもこれって……。
気配がゆっくりと姿を現わす。金色のバックルが目立つ黒のショートブーツが砂に埋まる。
「あ! さっきのすんごい美人!」緊張が解け、契光刀を下げる。
黒い軍服にタイトスカート。巨乳。身長は高めで俺よりちょい低い。胸が大きい。優しそうな赤い眼鏡。明るめの茶髪をアップに纏めている。美しさと可愛さが両方そなわり最強に見える。年上っぽいけどそんな違わなさそう。そしてすんごいおっぱい。
「はっきり言うタイプなんだな、君は」コツソ少将は苦笑する。「一定期間のバイタルチェックが済むまで、彼女が君の上官となる」
「リン少尉です。
「十文字で要約された!
「っとその前に、閣下、デバイス調整なんとかして貰ってきました」少尉はレトルトパックみたいな小袋を少将に渡す。「申し訳ありませんが所用がありまして、起動お願いできますか?」
「勿論だ、ありがとう。無理言って済まなかったな」
「いえ、では失礼致します。後でねツヨシくん」黒服の美女はは五芒星を切る。「契闇流妖術――【
姿が完全に消える直前、ウィンクされた。なにこれどっち、惚れていいパターン?
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