第4話 俺、軍人!
リン少尉の気配が遠ざかると、コツソ少将は小さなレトルトパックを一瞥した。
「この袋の中には『
「プライバシーがなくなるということでしょうか」
「難しいな、ある程度は覚悟してほしい。伏せられない情報以外は、確かデフォルトでは伏せられたはずだが」
「大丈夫です。一応聞いてみましたが、隠すようなことは何もないので。あ、でもリン少尉の胸ばっか見てたのは今後はバレるってことですね?」
「大丈夫だ。とっくにバレている。というか廊下からバレていただろう」
「安心しました!」
手を差し出す少将を見て、契光刀を渡す。代わりに小袋を渡される。
「妖気を遮断した袋だ。
袋には小さく〝どこからでも切れます〟とある。そんなわけあるか。切れなかったらキレるぞと半ばキレ気味に思い切り切ったら切れた。さすが異世界。
不思議そうに見る少将。俺もあっさり切れて不思議。この技術は持ち帰りたい。
中にあったのは、爪ぐらいの幅の指輪。裁縫で使う指貫のようだが、角は一切なく丸みを帯びている。つるぴか無地。軽い。アルミではないが何だろう。チタンとかだろうか。
指輪の内周は、契光刀のグリップと同じ。抜けやすいサラサラでもなく、嵌めにくいギスギスでもない。癖になる感触。この素材も持ち帰りたい。
指輪が指に納まる。俺の立場が納まったということ。俺、軍人!
すると、無地だった
「起動したな。これから君の脳に同期した『
三つ同時だった明滅が不規則になる。
〔感性:初期設定中・・・〕〔理性:初期設定中・・・〕〔知性:初期設定中・・・〕
〔感性:同調・沈静化〕〔理性:計算負荷軽減〕〔知性:低負荷時の学習開始〕
〔感性:『
〔理性:識別子設定・同期開始〕
〔知性:生命維持優先・機能依存度低・全て正常起動しました〕
文字列でも音声でもない。次々に情報が来ても、既に把握している。
じんわりと、頭の隅々まで温かみが広がっていく。
体を動かすとき、筋肉の連動を意識するのと同じ感覚。脳の全てがきちんと機能している。
わかるようになっていく。できるようになっていく。
今まで親に言われてきたこと、学校で適当に詰め込んできたこと、聞き流してきたこと、後回しにしてきたこと全てが柔らかく繋がっていく。今まで気付かなかった、やらなかったこと、やってきたことにすら、こんなにも可能性があるのだと。
〔感性:軽度沈静化の許容範囲を超えました。機能依存度を上昇しますか?〕
泣いていた。
少将が肩を叩く。
「格闘家だからって、誰か倒さなくてもいいんですよ。たぶん」
☆
少し落ち着いた。沈静化の効果か、頭がすっきりする。
タオルとかあればな。顔を拭きたい、と思ったのだが……。
「あれ、何だこれ」
顔はグシャグシャだったはずなのにサラっとしている。目の腫れぼったさもない。
「それも
ホワイトでよかった、親父の店と違って。いや平気なんだったらどっちでもいいのか?
「機能については追々確認してくれ。『
少将に再び契光刀を渡され、並んだ棚の奥にある台座の前に移動する。膝ぐらいの高さの金属の箱で、上から見ると中心に金で縁取りされた丸い穴がある。
「単純に言えば、強いほうが偉い。戦況をひっくり返せれば御の字だが、基本は全体のバランスを取って防衛ラインを維持することだ。必然、隊長には余力が必要になる」
「おっと、それじゃ自分めっちゃ強かったら大将とかなっちゃいます?」
「それは助かる。俺に楽をさせてくれ。願わくは中尉以上、いや少佐以上が欲しい。編成の都合で。その筋肉なら大丈夫だと思うが……ではその穴に契光刀を挿してくれ」
閣下。期待しちゃうと裏切られちゃうんです。フラグですね。
ぶつけないよう慎重に挿そうとするがあまり意味なかったらしく、どこにも当たる感じもせず誘導された。安定した所で正面のモニターを見る。
「そのままで良い。緊張しようがリラックスしようが全て判定される」っていう少将こそリラックスしましょうよ。レア来いレア来いって拳を握るのやめて。
モニターにはグラフとかゲージとかが何かいろいろ頑張っている。転移者特典とか頼むよ。
程なくそれは収まった。諸々の表示がされる中、大写しになったのは、
『総合判定:軍曹』
「はあああ?……それはいくらなんでも……」少将はオールバックを撫で付けながらモニターを操作する。俺としてはフラグ回収。原因はすぐにわかったようだ。
「……妖気の……チャージ速度が……半分しかない……一般人の……子供込みでの……」
うん、個人的には大丈夫。自分に妖気があること自体ビックリだから。
「閣下、何かお忘れじゃありませんか。自分にはこの筋肉があるんですよ!」
「……あ、そう……そうだな。軍曹だって凄い。こんなんで軍曹とか凄い。こんなんで……はあ……取り敢えず……解散しようか……」
トボトボ去って行くコツソ少将。寿命縮んでないだろうな。てかこんなんって。
俺、軍曹……。
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