第26話 決して屈しない。

 どっちがSか勝負だ――そう言った直後、切ない嬌声と共にウリアは達した。

 まだ制御に慣れていないため、触手同士で刺激し合ってしまったのだ。

 勝機と見てぐちゃぐちゃに攻め抜く。「いっでるがらぁ!」とか叫んでも無視。

 余裕の失神KO勝利である。

 暴れる猛獣もお腹をみるくで満たされ大人しくなったようだ。何度もじっくりねっとり吸っては注ぎのみるく循環を楽しむ。


 お互いに満足すると、妖煌炉ようこうろを出るなり通信が入った。

「二人ともお疲れ。話があるんだけど集まれる?」

 リン少尉だ。お疲れって気恥ずかしい。

 目が合うと、ウリアは頷く。

「すぐ向かいます」

 目を離さず、お仕事前にもう一度、キスをする。


         ☆


 療理科の広い会議室の隅っこで、四人が密集した。

 軍服のリン少尉と、なぜか銀髪黒衣のお嬢ちゃんが居る。仲良しさんだな。

 戦闘服のウリアは俺の腕に組み付いて離れない。少尉を見てニマニマしている。

「連日タフだな軍曹。最初は葉っぱ食べてたから心配したけど」

 口を開いたのはお嬢ちゃん。我が焼肉に物申すか。

「そのタフさを受け止めて絞り尽くすのが女の度量というもの」

 フフンと鼻を鳴らす少尉。昨日は限界まで頑張ったな。

「量より質ですぅ。緩急自在に楽しませるのが女の器量ですぅ」

 二の腕がむにむに気持ちいい。え、ウリアとリン少尉って仲悪いの?

「こらこらよしなさい、子供の前で」

「子供なのキミだけなんだけど」

 せっかく気遣った子に言われる。五歳で成人。この子も成人女性。

「それで話というのは?」諦めて切り出す。

「あっちは達人なんだけどねー」リン少尉、フォローになってません。

「いっすから」

「達させる達人なんて」

「いっすから」

「ウリア上等兵の接続がプロキシなんだけど、どういうことかな?」

「ピロシキ?」

「いや結論から言えばいいんじゃないか。バツ軍曹、キミが居ないとウリア上等兵は蛇尾ひとでに接続できない設定になってしまった。ウリア、昇任を辞退したそうだが」

「配置転換が条件でしたので」

「そしてリン少尉は、バツ軍曹と一緒だと症状が安定すると」

「配置転換まで考えてました」

「というわけで、貴様ら三人とも、私が預かることにした。以上、解散」

「早い! 早いですよ少佐、私も詳細は知らないんで」

「私は軍曹と一緒なら問題ないです」

「えーちょっとお嬢ちゃん、隊長ごっこなのかな?」

「そうだな、まずはお試しの隊長ごっこだ。ずっと単騎だったし」

「一気に三人抜けて、というか私は一応療理科隊長なんですが」

「軍曹と一緒~」

「そっかー。じゃあみんなで楽しく遊ぼっか!」

「みんなで、だと――今までしてたのに貴様ほんっとにタフだな!」

「うわ、補充されて、むしろ増員されてる!」

「パパ~」

「パパはやめなさい」


         ☆


 森を駆け抜ける少女の映像――部隊結成の初行事は上映会となった。療理科内だけど。


 木々の間を縫っても、黒い袴すら掠りもしない。

 日没の眩しさが和らぐ。薄暗さの中に靡く銀の長髪は、肩の高さでピンクのパ……きっとシュシュで纏められているはず。上下の黒衣に引かれた赤いラインが、静寂の深みに警告を放つ。

 ではこの少女を写しているものは。同時に見ている少女からの視点でわかった。

 それは併走する黒豹。昼に見た召喚体だ。先行させるでもなく、妙にカメラ映えする位置取りだが。

 少女が両腕を交差し、脇から何かを抜き取る。両手にはそれぞれ黄金の――十手か?

 背景が急激に流れた。黒豹は少女がどう動くか知っているから追随できるのだ。つまりこれは少女が急激に動いたということ。

 無造作に揮われる暴力。両の十手から伸びるのは、契光刀より長いの輝く刃。妖獣どもを薙いでも薙いでも、薙いでも、その輝きが陰ることはない。飛び掛かって来ようが、無数の火の玉が飛んで来ようが、少女の関心を引くことは出来そうになかった。

 辿り着いたのは、かの激戦の地。

 記録のある火象はともかく、火犀については調査が必要。

 俺達の尻ぬぐいとすら言えるのだ。

 顎に力が入る。再度映像に意識を向ける。

 火犀が召喚陣を展開した頂点のひとつに少女は立つ。

 軽く足元を掃くと、大きく地面が削れる。

「これは……『かまど』……」リン少尉が呻く。

「獣が使う、不安定な妖煌炉ようこうろです。いや逆か」ウリアが説明してくれる。

 映像が終わった。

「わかっただろう。我々は、完璧に踊らされた。我々は、今後も幸運に縋るのか?」

 三人は淀みなく揃って席を立つ。決して屈しない。

 少女は徐に席を立つ。俺達のひとりひとりを見遣る。

「借りは倍にして返す。ついてこい!」

 志がひとつになる。

「了解です! ヨウ中尉!」

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