第32話 わからーん!
その袴。
足運びを見せないのは知識として知っていたが、本当に加速に移るタイミングが見えないのだ。『縮地』という技術。足を踏み出すのではなく、むしろ足を下げて既に走っている体勢にしてしまう。外から見ればただ走り出すだけだろうが、呼吸を盗まれて繰り出されれば正対しているこっちは堪ったものではない。
「その袴。てっきり暴食からの腹ポコを隠すためかと」
「はァ? 失敬な! 隠せてないだろう!」
「気にはしてるんだ」
幸せそうに食べて、幸せそうにお腹を撫でる様子を思い出す。かわいいです。
それにしても、さっきの構えは何だろう。型があるようで、妙にちぐはぐな所もあって。あのスピードと反応で無理やり纏めているような。
「教官とか居るんですか?」
「最初は映画だよ。昔からアクション映画が好きでな。外国の。フィクションだからと注目されないのが不思議だ。イマジネーションの源が理想ならば、それは成されねばならない」
「映画って、それほどの強さで我流……」
「世辞はよせ。行き詰まってたとこだ。抜け出せそうだがな」
ジムのある家に生まれたから格闘技を始めた俺とは違う。楽しそうだ。好きで続けているということか――いや待て。俺だって家族に言われて始めたわけじゃない。やるからにはと指導はされるけど。
俺はどうだった。俺はどうなんだ――
「今までおいたんしか相手してくれなかったからな。ほら、新しいこと思い付いたら試したいだろう。構えろ」
――俺は、今の俺だ。
「よろしくお願いします。いきます!」
右のロングフック、詰めて左ボディ、を当てずに回転、後ろ回し蹴りで肝臓を狙う。
ガードごとヨウ中尉は後ろに飛ぶ。直撃はしていないが、妙な感触。
「ギブギブ! ちょっと教えてこれか。速すぎ、てか重すぎ!
「どっかやっちゃいました?」
「ああ、復旧した。キミ相手は対人防御不可って
「熊並みですか」
「仲間だな。がう」
「がう。がうちゃう」
「危ないとこだったな。キミの子を産めなくなったらどうする」
「気を付けてますけど、確かに。配慮します」
「ボクとの子は?」
「膝こしょこしょしていいですか?」
「がうー!」
☆
「さ~て気を取り直して、妖術だ。まずはカウンター」
映像の火豚が妖気を貯める。発射を中止できないタイミングなら、発射の前後でも術は効果を発揮する。
契闇流妖術【
「シッ!」
力まずにジャブを放つ。基本的にはどの
「次だ。合わせろ」
乱れた妖気は中立。味方にしたもん勝ち。契闇流妖術【
中尉に向かって突進する火豚。って、武器を構えていない!
「コォォ――ぃやイィィィッ!」
完璧な掌打が火豚の鼻面に叩き込まれる。何なの、本当に俺の練習なの?
わかっていたので爆散だけどさ。
「とんでもないセンスだな。では最後の派生だ。実戦で使えるのは私だけだが、原理がわかれば出来るはずだ。見ていろ」
両手で両脇から金の十手を抜き、クルクルと回す。センスって、あんたに言われたくない。
火豚が現れる。両手を構える。爆散。
「わからーん!」
「みんなそう言うんだよな。敵の妖気を乱させて、それを敵のせいにすればいいのに」
「あ……あー。なるほど……」
〔知性:不可能です〕〔理性:同時に二つの意志が必要です〕
ならできるだろ。
〔感性:……ほんとだ〕
火豚が現れる。特に構えない。軽くジャブ。火豚の頭部が砕け、映像が消える。
できた。
「とんでもないセンスだな……これが契闇流妖術【
確かに。これしか無いとはいえ、コスパ考えると単純に連発は厳しいかも知れない。
☆
「申請が通ったぞ。ウリアが進化した」
「進化とか言わないでください。なにモンですか」
いまのウリアはただの
そこで『
上位種としての能力が俺の干渉に因るものか、ウリア個人限定なのかわからないまま申請が通ったのは、術式の一部が
その一つが、大量の樹木を保持できる契闇流妖術【
「出撃前に片付いてよかったな。日が暮れる」
教災科第五小隊。
往時の呼称は、『
もちろん、そう呼ばない理由がない。
姫さまが号令を掛ける。
「姫導隊――そろそろご飯食べよっか」
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