第8話 行かせねーぞァ!
本部防衛隊の様子を見ると、ちらほらと剣戟の光。俺達に触発されたのかはわからないが、遠目なのに
契光刀の制御は
あまり軍人という雰囲気でない療理科と違い、征刀科は相手を観察して素早く対応している。適性に応じて配属されるのだろうか。それにしても尋常じゃない速度。読みではなく反応だな。
「よし、仕留めた」
リン少尉の呟きと共に、穏やかな通知音。警報ではない。
〔戦闘終了。対象は全滅。戦闘終了。療理科は負傷者を回収せよ〕
そうか、戦場だって見れるんだ……録画まであるのか。となるとますます時間の使い方が難しいな。いやまだ終わってないわ、俺は療理科だ。
「自分も向かいましょうか?」
「んー……いま全員済んだ。どうしようかな。本部でもいいけど、この機会にみんなで中防の使い方を――」
「少尉! 何か居ます!」森の方向に構える。トレーニングルームの時はまだ半信半疑だったが、この世界に来てやたら感覚が鋭くなっている。もともと人の気配とか探るの好きだったし、まあ外れたら外れたで。
「森の近くまで探したけど、少なくとも妖気の反応はないよ」リン少尉は赤眼鏡の縁に軽く触れながら、視界を掃くように首を巡らせる。「キミが見てるのって、対象の方向ですらないんだけど」
「獣は姿を隠す妖術を使ったりしないんですか?」
「獣の妖気操作を真似たのが妖術だから、出来なくはないと思う。生態が完全に解明されてるわけじゃないし。注意喚起はしておく。召喚獣の勘は侮れないからね」
「恐縮です」そういって笑い合う。爺さんは現役のころ〝ビースト〟って呼ばれてたっけ。背は低いがデカい筋肉で圧力を掛けてからのアホほど伸びる大振りでKOの山を築いて。
そうだ。飛び道具だ。
契光刀は、刃を出さなくても自動で刀身保護が働く。
足元の石を拾う。目標に対して直角に刀身を当てれば、斥力場が目標に飛ばしてくれるんじゃないか、っと!
「ちょ、なにしてんの」
甲子園を思わせる金属音。場外ホームランだ。イメージ通りの方向に、イメージを上回る速度で、イメージより遠くまで飛んだ石は――
――地面から打ち出された無数の火球に飲み込まれた。
☆
高く打ち上がった火球は、空を埋め尽くすほどに分裂する。
来るなよ。なるべくこっち来んなよ。
「総員防御!」
これ悪くないよね俺。早めにわかって良かったんだよね。
近くの何人かは中防のほうに駆け寄る。防御機能でもあるのか。
すぐにそれがわかる。思ったより広範囲に青いドームが広がる。
その青さを通すせいか、冷たさを覚える火の雨が降り注いだ。バシバシバシと破裂音。オレンジ色の稲光り。土砂降りだ。破られないか。どうしよう。構えとく?
「大丈夫。これは防げる。まだ牽制」少尉に声を掛けられた。「この後だよ。もう姿を現して距離を詰められてる。数も凄いけど、これは……」
「よくやったぞ軍曹!」近くに来た知らないおじさんに頭をわしゃわしゃされる。「完全に奇襲されていたらどうにもならなかった。中防が展開されていたのも幸運としか言い様がない。少尉、中防はこちらで引き継ぐ。妖気を温存してくれ。増援と合流して撤退も視野に」
「よろしくお願いします。幸運を」
「幸運を。少尉を頼むぞ軍曹」肩をニギニギされる。
「お任せ下さい。豚足一本触らせませんから」決めゼリフ炸裂。勝ったな。
☆
恐るべき防御力。あの雨の中、契光刀だけで無傷かよ。技術でどうにかなるのか。
本部防衛隊は、突進してきた火豚の大群と交戦中だった。先ほどの訓練も見事だったが、これもうわかんないな。踊るように数人で数匹に当たっている。こちらは連携が最大限に生きるように、敵の圧力は同時に受けないように立ち回っている。根気よく着実に削って、妖気の回復というこちらのアドバンテージを生かす。あれだけの大群を食い止めてしまうとは。
それでも、その時は来た。一匹こちらに抜けてくる。さあ実戦だ。
注意点は、飛び道具と残像。火球は避ける。そりゃ完璧に守れれば格好いいんだけど、今は確実に豚足だけに絞ろう。
うざいのが残像。フェイントだとわかっていても、斬らなきゃ勝手に斥力場が発生する。防衛隊の連携を見ても、敵がその性質を見抜いているのは確実だ。斥力場を使わせて突進か、回避を見抜いた弾か。うざい。
なので正面から受けざるを得ない。ほら来た残像。
片膝を突くほど沈み込み、残像の向こうまで届くほど大振りでぶった斬る。
何の手応えもない。残像の向こうに何もいない。
迂回されていた。こいつ、最初からリン少尉を狙っていた?
「っ――行かせねーぞァ!」
反転し、踏み込んで、脚をへし折るように振り抜く。あれ、余裕で間に合った。反応もそうだが、体が簡単に動く。アルミ棒でも骨を折るぐらいは出来るだろう。
そう思っていたのだが、手応えがなかった。外したか?
転がる火豚。絶叫。脚は四本とも斬れていた。
「惜しい。満点はあげられないね」
火豚の頭に契光刀を突き刺しながら、リン少尉は微笑む。
金色のバックルが目立つ黒のショートブーツに、豚足が一本触れていた。
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