第28話 泣かせたくないものだね。

「いや姫って、ガチ王女様的なあれですかってハハッ!……はは……あれ?」

 おいやめろみんな、俺は早くも終了ですか?

 コツソ少将は窓の外を見遣る。癖みたいだ。それが窓ではなくモニターで、位置的にその向こうが外でないことをもう知っている。

「もはや焦っても致し方ない状況なのですよ。他に選択の余地はありません。お役目を――」

「わかっています!……それだけですか?」

「――せめて、階級は正規の状態を。権限を濫用されては堪らない」

 ヨウ中尉は返さない。

 動いたのはウリア上等兵だ。しれっとスライドドアを引く。そのイケメン成分ください。

 少将は溜め息をついて、退出した。一礼し、一瞬目が合う。

 姿が見えなくなるなり、ウリアは強めにスライドドアを閉める。凄いな、音も反動もなくピタリと閉まるんだ、とかぼんやりしているとギロリと睨んで顎をしゃくる。えー、俺なのか。いっそそのイケメン成分で何とかしてくれても。

 と思ったら飛び付かれてソファに押し倒される。二回目。やっぱ結構ある。

 あれ、二人が出て行くんだけど。


         ☆


 伸し掛かられたまま、背中に手を回して髪を弄る。

 胸に顔を伏せたままモゴモゴと喋る少女。

「やること多くてさ。手伝ってくれ。んっ、だから呼んだんだ」

「何なりと」

「たぶん間に合わない。どうにもならなくなる前に、はぁっ、決めなきゃいけない」

「間に合わせます」

「私が、ふぅっ……消えれば」

「だめですね。自分は許しません」

「どうして……私は、そのために生み出されたのに?」

「続きができないでしょ」

「それは……んぁぁ……悔しいな……」


「そんなわけで聞いてくれよ娘達。この屈強な割に繊細な手先を持つ男、髪を弄る振りして私を弄び、身体も心も淫らに乱されたんだが」

「事案ですね」

「いっそ撃ちますか」

 キラキラしながら語る娘。バシバシ俺を叩きながら聞く娘二人。

 これはグッジョブって解釈でいいのかね。姦しい。

「ちょっと背中に触っちゃっただけっしょ。敏感すぎ」

「ビンビンだって、きゃー!」

 三人でバシバシバシ。うっざい。

「でも続きとなるとな。バツ軍曹の抜群槍と戦わなきゃなんないし。ウリアの惨劇を見ると」

「フォロワー減ったけどまた増えてますよ。あの惨劇を見ても」

「惨劇って。苛めてから優しくするんですよ。この夜将軍」

 オフ炉まで覗くんかい。もう仕事しようよ。

「夜といえば、夜の出撃ってあるんですか?」

「!」

 空気が凍るとはこれか。空気読まんで済まんね。でもわかんないもん。

「戦闘が難しいのよね。契光流妖術が使えないし、控えめに言って自殺行為」

「夜しか出ない獣が居るんですよ。私も映像でしか見たことないですが。それらに因んで深夜のことを『御馬刻おうまがとき』って呼ぶんです」

「んー、じゃあ無理して出なくていいか」

「その、な……」

「んー、じゃあ無理して出ますか」

「難しいだけだしね。甘えてらんない」

「この目で見たいです。夜馬ナイトメア。どんな味するのかな」

「貴様らノリ良すぎか……。そのな、御馬刻おうまがときの偵察はしなきゃならない。どれだけ訓練しても安全にはならないし、たぶん、時間を掛けるほど状況は悪化する」

かまどですね」

「人間がそうであるように、知性ある獣にだって技術的なブレイクスルーがあってもおかしくなかったんだ。そして――」

「教災科初陣」

「そうだ。甘っちょろい初陣で形式的にこのジンクスを破れるとは思えない。私の勝手でこれ以上望めないタレントが集まってくれたのに……怖いんだ」

「それ。そういうのやめましょ。自分は自分で怖いですが、勝手に行きます。自己責任で」

「じゃあ私も」

「じゃあ私も」

「どうもどうも。貴様らノリ良すぎか」

 つくづく、この子を泣かせたくないものだね。


         ☆


 夜戦対策。夜馬対策。シミュレータールーム。四基のポッドが埋まる。

 陽の光がなければ契光流妖術は使えない。建屋内の光は陽の光なんだな。

 夜ならば、契光刀に拘る必要はない。刃と盾の展開に最適化されたデバイスだから。せっかく盾の使い方が見えてきたのにな。

 愚痴っても仕方ないので、何が出来るのかを整理しなければ。

 まず、刃と盾でのセットプレーは諦める。契闇流で代替するのは効率が悪くて俺には無理。

 次に、印象深かった【霊豹れいひょう】だが、これも『難解の黒豹』と呼ばれるほどの高難度の召喚術らしい。少し囓ったが惜しくもならなかった。無念。

 そこで考えたのが、近接での【単圧ひとえあつ】だ。

 それぞれが新たなデバイスを持ち寄り、フォーメーションを研究する。

 ひとまず形になった。


 向かう先は、設計したデバイスを現実にしてくれる――工廠。

 そうだ。

 教災科のもう一人の生き残り。

 ネム大尉とは、どんな人なんだろう。

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