教災科第五小隊 

第27話 オーケーじゃねー!

 翌朝。

 朝食後、療理科会議室で人事が発表された。多くは蛇尾ひとでで中継を見ているだろう。ここに居るのは療理科および直接の関係者。内容は周知されているが、状況変化に対応するひとつの区切りである。


 奥の壁に対して大きく半円を描いて均等に浮いている白い座面。背は斥力で支えられる。

 奥から、ヨウ中尉。俺の胸元もない背丈。深い夜色の瞳は、容姿に似合わず今日も落ち着いている。黒地に赤いラインの入ったボレロと袴。膝に届くほどの艶やかな銀髪を、今日は金色の、いや金色のパンツなんてないと思いたいので、記念すべき今日はさすがにシュシュなんだろう。肩の高さで雑に纏められて、直す時間作ればよかった。

 隣は、リン少尉。俺より少し低いぐらいの高身長。巨乳。黒い軍服にタイトスカート。可愛らしさと美しさが赤眼鏡により絶妙に統合されている。その奥には優しそうな翡翠の瞳。胸が大きい。下ろすと背中ほどの明るい茶髪をアップに纏めている。そしてすんごいおっぱい。

 続いて俺。初めて軍服を貰った。黒の。学校ではよくソース顔だの言われていた。背は結構高いと思う。筋肉には自信ある。銀のソフトモヒカン。地毛です。

 そして、ウリア上等兵。背は普通の女の子。第一印象はスポーティーな感じだったが、雰囲気が柔らかくなった。黒い軍服に黒いショートボブ。小顔で首筋が綺麗。攻撃的なマリンブルーの瞳。杜斂人とれんとである彼女は体型を自在に変えられるが、今はスレンダー。


 個々の能力向上により療理科は大幅な戦力アップを図ることになった。元々希望者は多かったが新人を受け入れやすくなり、一個小隊だったのを二倍に拡充。

 リン少尉は挨拶で、隊長らしいことができなかったと話すと、感極まった数名の女子が駆け寄った。およそ軍隊らしからぬ光景に、俺、ボロ泣き。軍隊じゃないしいいのか。

 後任のゴツい人の挨拶が頭に入ってこなかった。みんなそうだったらしく苦笑していらっしゃる。ごめんなさい、後で録画見ます。

 そして、我らが姫さま登場となるのだが。


         ☆


 俺もさすがに予習した。

 朝、トレーニングルームでダイ大佐とのスパーをやんわりと断り、走りながら勉強。

 教災きょうさい科とは――

 ――連邦内で対妖獣戦を教導する部隊、となるはずだった。

 新設された当日、軽い偵察のはずが大群の奇襲を受け壊滅。

 二十五名中、生存者二名。

 詳細は、

〔知性:アクセス権がありません〕

 これじゃなんもわかんないだろ。生存者は?

〔知性:アクセス権がありません〕

 えっと……研究所と中部方面隊の人で、教災科に所属人は?

〔理性:二重否定――〕

〔知性:ネム大尉、工廠所属です〕

 一人……してなくなかった……

 オーケー竜頭りゅうず教災科に所属人は?

〔知性:ヨウ中尉です〕

〔感性:あーあ〕


         ☆


「――諸君よ立て! おこを激おこに変えて、立てよ諸君!」

 中央に立つ姫さまの演説が続いているみたいだ。

 詳細こそわからないものの、こんなちっちゃい子には過酷な経歴。気が済むまで喋らせてあげようと思ったのだが。

 いくらなんでも長すぎる。

 指先をクルクルして『巻いて』のサインを送る。

 それを見た中尉は目を輝かせ、演説に一層の熱が籠る。

 ちょ待て、オーケーじゃねー!

 両手のひらを縮める動作。短く、短くね。

 それを見た中尉は白い肌をほんのり紅潮させ、演説は一層力強くなる。

 拍手じゃねー!

 もうね、周囲から滲み出る冷たい妖気。怒りというか困惑というか、君には心底失望したというか。ごめんなさい。

「我々は今、この激おこを結集し、妖獣どもに叩き付けて、初めて真の勝利を得ることができる! 裸、与堕想、捨穴!」

 ……終わり?

 ぱらぱらと、元気のない拍手。ごめんなさい。


         ☆


 教災科は、コツソ少将の執務室の近くだった。中枢に近いということだろうか。

 四人で部屋に入ると、気疲れでソファにダイブ。その反動でスパッと立ち上がる。ここは俺じゃないだろ。

「いいよ寝とけ~」

 ちっちゃい子に飛び付かれ、ソファに押し倒される。いい匂い。あれ、結構ある?

「んふ~。私はダメだからな~」

「その割にちょいちょい誘惑してきますよね」

「私も……っと、立て軍曹。閣下がお見えだ」

 ノックの音。

「どうぞ」

 中尉の目配せで、ウリアがドアを引く。

 そこには、硬い表情のコツソ少将。ヨウ中尉の御爺様。

 連邦軍錬金術研究所の所長が、、部屋に入る。

「教災科へようこそ、閣下」

 妙に緊張した声音の姫さまに掛けられたのは、信じがたい言葉。


「もうおやめください、姫」

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