第21話 俺達が、ガン攻めだ!

「居るぞ、また急に出てきた」

 五班の中心を背にして、森の奥の敵意をみんなに告げる。まだけっこう距離がある。よかった、森の中でも反応できて。

「妙に散漫だけど、包囲されてる。すぐ打って出よう」

 敵の思い通りにさせない。ジャブでいいから暴れる。蛇尾ひとでの評決は――ほぼ反対だな。わかっていたけど、とにかく防御重視か。

「全域で感知しました。想定通り。確認できた数はそれほどでもないですが、潜んでるんでしょう。中央突破には包囲殲滅陣。『カンナこうの戦い』ってやつですね」

かんな?」

「外国にある、木を削る道具らしいです。過酷な労働で反乱を起こした工員が森に逃げ込んで、数も武装も絶望的な相手に大打撃を与えたって」

「かっこいいじゃん、カンナ工」

「まぁ全滅したんですけどね。私達も全滅させに来たんです……結界が起動します」

 背中側が温かくなる。五班が描く五芒星の内側から。栄養ドリンクを飲んだときのように、妙な元気が湧いてくる。

 緩慢だった敵の動きが鋭くなり、数も増して押し寄せる。空気を震わせる怒りの咆哮。

「真ん中に居て、落ち着いて、一歩引いて戦況を見てください。あまり出番はないと思いますが」

 フォワードの四人は、野球の内野かというほど広く陣取っている。これでは木が邪魔で駆けつけることなどできない。援護はシューターが行なう。銃とは違い射線も距離も関係ない妖術ならでは。

 茂みから飛び出した敵が契光刀で弾かれた。火豚だ、と認識すると同時に頭部が砕ける。契光刀の振りに合わせ、背後から「シッ!」と気合いが聞こえた。まったく無駄のない完璧な連係。契闇流妖術【単圧ひとえあつ借力しゃくりき】だ。

 ダメージの大小はあれ、次々に敵が倒される。このまま簡単に終わるのだろうか。

「班と班の間を抜けたりしないのかな」

「空間が歪んでるので、各頂点に誘導されます」

 陣地を確保して結界を展開。敵はただ消耗していく。プランが成立している間は。

 こちらの防御を破る攻撃か、攻撃の通らない防御か。

「第一班。新型だ。斥力場で弾けるが射撃斬撃どちらも無効。火熊が沈んだ。見たことがない」

 後者。いちばん攻撃力が高い所でも駄目な相手か。見たことがない生物?

 こちらにもが現れる。

 巨体の四足歩行。厚い皮膚は鉄が暗く焼けているようで容易に熱さを想像させる。

 そして決定的な特徴。鼻の上の大きな角。強そう。

さいじゃん」

「第五班。新型を『火犀ひさい』と呼称。軍曹、犀の特徴を」

「えー何だろわかんない、硬くて大きくて突っ込んでくる。あと、目が悪い」

「……どうし……応答…………」

 他班との交信が途絶えた。電子的なノイズではないのだ。強風に掻き消されるような。

「結界の妖気が喰われてる! こんなことが!」

 背中の温かみが消える。それだけではない。五班が位置取っていた五芒星が、眩しいほど輝く光の帯となって具現化する。

 召喚陣だ。

「こいつらに、嵌められたのか――」部隊に広がる動揺。劣勢になれば少しずつ後退して継戦するはずが、結界が失われただけでなく、その安全地帯に最悪の危険が召喚される。

 これも知っている動物。今度はみんなも知っているようだ。納得の最強。

「軍曹、あれがスーパーレア――『火象ひぞう』です」

 ウリアはやれやれと笑う。俺の知っている象の大きさじゃないけどな。


         ☆


 交信が復旧したのは救いだ。たっぷりと妖気を呑み込んだ巨体は、木々の上に黒い頭が飛び出すほど。火犀と似たような皮膚なのか。

 どうする。シューターはカウンター本命に。射撃を相殺できればラッキー。斥力場は火犀を弾ける。好材料だ。火犀だけなら問題ない。

 まずいのは、挟撃。違うな。火象って倒せるのか?

 思い付いたことを次々に蛇尾ひとでに挙げていく。

 結論。火犀を倒す。俺が。俺ならやれる。

「軍曹」シューターの一人に声を掛けられる。蛇尾ひとでを通じて意志は伝わっている。「自分は元療理科です」

 そう言って、契光刀を渡される。射攻科の精神を聞いたばかりだ。

 代わりに砕橋さいばしを渡す。

「――すぐ戻る」俺が叩き込んでくる。口にするのはやめた。

 走り出す。木々を縫う。

 何度目かの火犀の突進が見えた。観察しろ。攻撃が効かないとはどういうことだ。

 全力で走った甲斐あって、弾かれる瞬間に間合いに居合わせた。

 フォワードが斥力場を展開。

 衝突。弾かれる火犀……オレンジの光は出ない。

 妖気を纏っていないということ。なのに攻撃が効かない。

 斬ってみるしかない。

 スピードに乗ったまま、弾かれる火犀に斬り掛かる。不意の反撃に備え、ギリギリまで観察することを忘れない。

 どうにも余裕を感じるが、さらに加速しながら刃を出してぶった斬る。

 フォワードの元に引く。

 手応えがあった。ねっとりと。それなのに見た目に変化がない。

 表皮は迷彩だろうとは思っていた。だが斬ってみてわかった。

 。契光刀なのに。

 過剰包装だな。こいつは三層構造だ。中が見えない表皮。重い流体、恐らく溶けた鉄。その内側を妖気で覆っている。空気が連続していなければ【単圧ひとえあつ】は当たらない。

 俺の情報に弾かれたように、フォワードが入れ替わりながら火犀を斬り抜ける。おいおい混ぜろよ。

「俺が!」

 攻撃が効かないはずがない――それが揺らぐほどの防御力だった。

「俺達が、ガン攻めだ!」

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