第17話 え、簡単じゃん!
「あの子から、何を聞いた?」
「獣に襲われて、お母さんの目を移植したって」
「そうか……問題はな、目だけじゃないんだ。失ったのは、目だけじゃない」
獣に襲われて、左目だけを失う。口にはしなかったが、そんなことがあるだろうか。
少女は目を伏せ、思い出すように言葉を繋ぐ。
「その日、研究所だけでは大群を止めきれなくて、
「……だけ?……死にかけた……だけ?」
「当時のデバイスでも、止血して心臓を動かし続けることはできた。まぁ普通は脳を失えばあっという間に妖気が尽きる。だがあの子は、頭部を修復するまで持ち堪えた。外も内も傷ひとつなくなった。映像を共有するみんなで喜び合った。あとは覚醒させるだけだ。方法はいくつかある……そこで、事故が起きた」
少女は、両手で顔を覆い、ふうっと息を吐いた。手で手を包んで握る。
「軍用ネットワーク『
言葉が出ない。命がどうなっているのか、理解が追い付かない。
「最終的には、安全性で押し切られた。処理速度も容量も桁が違うから。用意された指輪を嵌めたのは、あの子の父親だ。あとは迷走する意識ごと
握った手が、いっそう白くなる。
「あなた、殺してやるって」
☆
喋り疲れちゃったな~、とか言いながら杏仁風豆腐とやらを二つ注文する少女。
「家庭で何かあったわけじゃないんだよ。錯乱してただけ。急に目から出血して、私も治療を手伝った。しばらく私が付きっきりでね、あの眼鏡は一緒にデザインしたんだ。二人でポッドに入って、あの子の膝の上で」
杏仁風豆腐とやらが届いた。はや。
「死体に妖気が数年も残留してることはないはずだけど、
「ああ、あのどこからでもちゃんと切れる袋」いい香り。普通の杏仁豆腐じゃん。「でもさ、脳が半々なら、
「あの子は妖術の適性が低かった。有利な脳を選択したのかもな」少女は杏仁豆腐を掬う。
「そういえば……昨日の夜、眼鏡してなかったんだけど」
「キミと居ると安定するそうだ。主導権を争うことがなくなるって。やるな、二人とも満足させるとは」
「げふっげふっ!」
「……あの子に寄り添ってあげて欲しい。
「何ができるってわけじゃないけど、少尉と
「充分だ。そういう風に考えてくれるだけで」
☆
療理科で他の隊員と一緒に講習を受けている。妖術の。
リン少尉。いい。赤眼鏡いい。めっちゃ女教師。
「ほら軍曹。いやらしい目をしない。怪我人にいやらしいことしたら撃つよ?」
「爆散したくないです! さすがにそのぐらいの分別ありますって」めっちゃいい足してんだもん。
「軽く揉んどきます?」隣の巨乳さんが両手で持ち上げる。昨日もアピールされたな。少尉より大きいです。
「い、今はやめときます」
「それじゃまた後で」
「ほらそこ、アポ取らない! おいコラみんな走っとくかコラ?」
「さーせんした!」
全員の机に、豚足が配られた。それと、ペンぐらいの大きさの契光刀。契光ペンだな。
「はい、今日は契闇流妖術【
視界にマーカーが表示され、説明は
契闇流妖術【
契光ペンで豚足の表皮に切り込みを入れる。切ったぐらいだから、切る前の界面はよくわかる。
「契闇流妖術――【
なんでいちいち唱えるのかと思ったら、
切り込んだ位置に契光ペンを当て、元の界面をイメージする。くっつくといいな。
すると、切れている皮の両方がぼんやりと青く光り、溶接のように断面がオレンジ色に光ってくっつき始めた。
「え、簡単じゃん!」
バチッ!
皮が焼けて弾けた。
いい匂い。うまそ。
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