第13話 ひとつになる。
古代に於いては祭事で、異形の面を付け、『
現代ではこれは呪いでなく塵肺であり、この祭事が病を拡大させたとも言えるが、当時の奇病に対する恐怖は如何ほどだったか。結果的には祭事により妖気の強化、妖術の進化を経て、ついには病を克服したという歴史の妙。
という話をまともにさせてあげなかった。もう呂律が怪しい。
どこでも自由に舐めさせてくれる。
悪戯をしているのがわかっているのに平気な振りを続ける。声が上ずったり途切れたりしてもなかなか挫けない。好きなようにしてみなさいよと挑戦的だ。
肌が綺麗。代謝制御で毛穴が目立たなくなり、潤いも失わないのだという。舐め回しても涎の跡は浄化されて消える。面白くて調子に乗ると、喘ぎは啜り泣きに変わっていた。それでも震えながら求めてくるのだ。変なスイッチが入って撫で回し、揉み抜き、舐り倒した。思い付く限りのことは大体やった。さっきはあんな楽しそうに物凄く攻めてきてSかと思っていたが、実はMなのだろうか。童貞なのでわかりません。
まだ、もっと、と言う。
ならばもう、できることは、ひとつになる。
☆
始発が、トンネルをくぐった。導かれなければ危うく脱線するところだったが。
内部は地下水でヌチャリと熱く蕩けていた。狭い路線は難所だらけで、車体を擦り付けながら進行するのも仕方ない。
暗いトンネルの感覚は想像とはまるで違っていた。壁に無数の表情があるのだ。プリュッとした新鮮な果実のような纏わり付き。ツブツブコリコリとした刺激。ふわっと列車の位置がわからなくなる柔らかさ。
複雑なレールのうねりを車輪が擦り抜いていく。
編成の後方が狭くなり、中ほどが急カーブの煽りを受けると、先頭車両は振り回され壁に擦り付けられてしまう。危険な路線だ。いいように翻弄される。
それでも進むしかない。プチャッ、プチャッと、列車の通過する衝撃。互いの熱を与え合う。
マスコンを繊細に操作する。ノッチを弾くと、応じるかのようにうねるトンネル。白く泡立った地下水が飛び散る。
路線のうねりや狭さに負けないように、編成の剛性が増していく。ジュクジュクと粘着する火照った壁を振り解くように何度も何度も激しくショートカットする。
終点が近い。
乗客が移動してくる。先頭車両はパンパンだ。
急激にトンネルが狭くなり、震えた。
増長した先頭がガツンと終点に嵌まり込む。
ドアの開放と同時に、乗客は一斉に降車した。
満たされる駅。
列車は誇るように最奥に居座る。
乗客が尽きるまで折り返し運行は続く。終電はまだ遠い。
☆
「やっぱり召喚獣だった……」
蕩けきった目で、リン少尉は呟く。俺もきっと同じ目をしている。
「
光あふれる空間。眩しさも重力も感じない。二人を中心に空間の確かさというものがあって、倦怠感は充足感へと変わっていく。
髪を撫で、耳の輪郭をなぞる。
「一緒に、獣に成れました?」
「凄すぎだよ。初めてなんて信じられない。教育とかされるの?」
「むしろわからないと妄想が捗っちゃうというか」あとは友達に貰った秘蔵動画とかな。
「夢を叶えてあげられたかな?」
「一生忘れません」
唇を重ねる。
心技体が一致した感覚。この体験が原点になるという確信。そして今後は彼女と――
「それで今後なんだけど、働きたいときに働きたいように働いて、食べたいときに食べたいものを食べる。オフ炉は一日一人しか相手できないからね。他の人のこと考えてるとほとんど妖気を回収できなくなるから。
「ちょ、ちょーっと待って下さいね。意味わかんないですね。一日一人って何です?」
「足りないってこと?」
「違いますね……」そりゃそうですよ俺。遊びではないけど、これはつまり祭事なんですね。恋愛とかじゃないんですね。
「あの……この世界、結婚とか子供とかどうなってるんですか?」
「私と結婚する? 早すぎるでしょ。それに自分の世界に帰るんじゃないの?」
そうだった。けど。
「嫌いな相手としないよ。嫌いな相手なんてここには居ないけど。キミにとってもそうだよ。いろんな相手としてみて、それでも私を選んでくれたらそれは嬉しい。まずはしばらく生活してみよう?」
ここに入った時のようにリン少尉は腕を組んで、軽く浮遊感を覚えた。
光るスロープの上だった。服も着ている。
「長く睡眠を取る人はシミュレータールームを使うみたい。一日お疲れさま。ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございました」
彼女はついと背伸びをし、目を瞑る。
抱き合ってキスをする。
眠気がきたので、俺は大丈夫そうだ。
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